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第38話 ぬくもり

「昨夜はお楽しみでしたね」


 と、ガーラングが出会い頭に笑顔でそう言った。


 私と魔王は深夜の木陰で話し込んだ末に、いつの間にかそこで眠ってしまっていたらしく、気づけば夜が明けていた。


 慌てて馬車に戻ると、すぐに三魔貴族や山賊たちが私たちを出迎えてくれたのだが。


「お、お楽しみって……あ、貴方は何を言っているんですの!」


「はっはっは。メイリア様、お顔が赤いですな。お風邪でも召されましたかな?」


「もう! ガーラング、ふざけないで頂戴」


 私は思わず顔を伏せる。


「魔王サマぁー。メイリア様とあんな木陰で何をしていたんですかぁ!? メイリア様だけズルイですよぉー! アタシにも良い事してくださいよぉー!」


 アイリスが身体をくねらせて魔王に擦り寄っている。


「うう……ううううう……ぐうううううッ!」


 何故かデイトルトだけはめちゃめちゃ号泣している。


「デイトルトは何故泣いているんですの?」


 私が不思議そうに尋ねると、


「メ、メイリア様の……境遇を……じ、自己投影してしまい……うううッ! メ、メイリア様……我ら三魔貴族も、いつまでも貴女様のお傍におりますぞ……ふぐぅ!」


「アハハ! メイリア様、アタシだっているよー? 魔王様の大事な人はアタシにとっても大事だからネ? 寂しくなったらいつでも呼んでくださいネー!」


 最悪だ。


 コイツら完全に聞き耳立ててやがった。


 全部聞かれた。


「なな、何を言ってるんですの!? 二人とも変な事を言わないでくださる!?」


 私は昨晩の事を思い出して更に顔を熱くした。


「メイリア様でも恥ずかしがるのですなぁ」


 かんらかんらとガーラングが笑う。


 最悪だ。まじ最悪。


 私の恥ずかしいところ全部聞かれた。


「うううぅぅ……ッ!!」


 私があまりの恥ずかしさにワナワナと身体を震わせていると、


「ご安心くださいメイリア様。我ら三魔貴族以外の人間どもはよぉく眠らせておきましたゆえ、聞いていたのは我らだけでございます」


 ガーラングは状態異常系の魔法を得意とするのは知っている。おそらくそれで山賊やガイルたちは深い眠りにいざなってくれたのだろう。


 ガーラングは私にそう囁いてくれた。


「確かに配慮はありがたいですけれど、貴方たち三人に聞かれていたのなら、どのみち同じですわ!」


「ははは、申し訳ない。ですが我らは魔王様を守護する盾でもございますゆえ、魔王様の動向だけはどんな状態であっても把握していなければならないのです。ご容赦くだされ」


 確かに出会った頃にもそんなような事を言っていたので、それは致し方ない事なのかもしれないが、それにしてもである。


 私とて乙女の端くれ。


 聞かれては嫌な弱音だってある。


 加えてそれだけではない。


「……私が両親を手に掛けた事も聞いたんですわよね?」


「はい、聞きました。隠し立てしてもアレなので申し上げておきますと、メイリア様が置かれている状況についても我々はなんとなく把握しております」


 ガーラングは素直に答えてくれる。


「幻滅したかしら? 私は自分の為に親を殺したの」


 私が捻くれがちにそう言うと、


「何かの誤ちだったり、身を守る為だったりと様々な理由で人も魔族も親を殺す事もあれば、子を殺す事もございます。メイリア様にとって、その行為は実行しなければならない……いや、正確には試さなければわからない事だったのでしょう?」


「……そうですわね」


「ならば良いのではございませんか? 私どもにとっては何があろうとメイリア様は魔王様のご令嬢であり、私どもにとっても大切な御仁でございます」


「……ありがとう、ガーラング」


「いえいえ」


 私はガーラングとアイリスとデイトルトにも、深く感謝した。


 彼らは魔族だし、私とは種族すら違う。けれど、家族のような温もりを私に与えてくれる。


 不思議な感覚だった。


 自ら捨てた温もりを、私はまた……。


「我ら三魔貴族は魔王様の為に生きる者。魔王様がメイリア様の為に生きるのであれば、我らもその方向性は同様にございますから」


「ガーラング……」


「それはさておきメイリア様。昨晩いつの間にか眠られていた時、とても穏やかな顔をしておられました。やはり魔王様の腕の中で眠られたのが、貴女様を安眠に導いてくれたのでしょうなあ」


「……え?」


「木陰で疲れて眠ってしまったでしょう? あれからメイリア様は目覚めるまでずっと魔王様の腕の中で眠られていたのですよ」


「……〜〜ッッ!!」


 私は再び赤面した。


 なんて恥ずかしい状態を見られているのだろう。


「ガ、ガーラングッ! 貴方って人は……ッ!」


 私が怒鳴り上げようとすると、


「私めは、メイリア様のあの穏やかな顔をいつまでも見ていたいと存じ上げます」


 そう言って踵を返し、私に背を向けたのだった。





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