第2話 やり直しのルール
① 私メイリア・リィン・アルノーと橘花 美来は16歳のバースデイに必ず殺される。
② 死ぬと別の世界に転生する。
③ やり直しは日本とオルクラ大陸を交互する。
④ 必ず赤ん坊からやり直しをさせられる。
これが四度目の転生を迎えた私の結論だ。
私はこの運命に抗うべく、様々な方法を考えた。
四度目の転生、私にとっては『異世界』であるこの日本での16歳を生き延びる事を目的に。
ゆえに今度も16歳までに上手く立ち回り続けた。文武両道に学び、理想的な自分を作り上げていった。
そして前回の失敗を糧に、今度は近隣の幼馴染である啓介くんとはなるべく距離を置き、常に周囲への警戒を怠らないように心掛けた。悲しそうな彼の顔に心を痛めたが、彼が前回の私の殺人犯である可能性が非常に高いのだから、仕方が無かった。
だが、結果は運命に屈する。
私は四度目の死を再び日本で迎える事となった。
今回の16の誕生日では家から一歩も出ずに家族と家で過ごそうとしたのだが、突如凶悪な強盗が家に押し入り、そして私の努力は甲斐なく橘花一家は惨殺されてしまった。
転生総数五回目、オルクラ大陸。
この人生では父ヴィアマンテが酒に酔った勢いで私を突き飛ばし、私は強く頭を打ち付けて意識を失った末に命を落とす。
転生総数六回目、日本。
この人生では不慮の交通事故によって私は命を落とす。
転生総数七回目、オルクラ大陸。
この人生ではアルノー家に仕えるメイドに毒を盛られ苦しんだ末に死亡。
転生総数八回目、日本。
この人生では藤堂と名乗る気味の悪いストーカーに追い詰められて殺害される。
転生総数九回目……十回目……十一回目……。
幾度人生を、世界を跨いでやり直しても結果は変わらなかった。
ただただ同じように15年間を生き、そして16年目のバースデイに殺されてしまう。その繰り返しが延々に続いた。
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私の精神はすでに壊れかけていた。
幾度ものループと転生を繰り返していくうちに、心が疲弊していったのだろう。それもそのはずだ。記憶だけは常に積み重ね続け、実質100年以上もの時を過ごしているのだから。
しかしそれでも私はなんとか上手く立ち回ろうとひたすらに努力を重ね、可能な限り『善なる行動』を積み重ねた。
その心の支えはたったひとりの、真に愛すべき血を分けた双子の妹、病弱のヴァネッサの存在だった。
彼女は幼い頃より私と比較されてきた。人生のループに入るよりも前から私は何事においてもヴァネッサよりも上手く立ち回っていた。
ヴァネッサはそんな私を疎ましく思うような素振りは一切見せず、むしろ私を敬愛し、常に「姉様、姉様」と懐っこく寄り添って来ていた。
私はそんな妹を世界で一番愛していた。
彼女の為に、私はアルノー家の令嬢として逞しく、立派に成人し、そしてアルノー家の発展と彼女を支え守り続けていく為に、なんとか死のループから抜け出そうと切磋琢磨した。
だが、結局何をどう頑張ろうと私の人生は例外無く16歳のバースデイに終わりを迎える。
それでも私はヴァネッサの為に16歳を越えようと努力を重ね続けた。
だがしかし。
最終的に私の心へと残酷なトドメを刺したのは、その守るべきはずである妹のヴァネッサだった。
私はこれまでにアルノー家の一族に様々なパターンで何度も殺されてきた。だが、どんな人生でも妹のヴァネッサだけはいつも私を裏切らずに味方にいてくれた。
しかしついぞ前回の時。
ヴァネッサは自分の愛する者が私に恋をしていた事に腹を立て、初めて私へと刃を向けた。
何回もの私の人生の中で、初めてヴァネッサが私を手に掛けた。私よりもウィルスレイン公爵というくだらない男を選んだのである。
私にはそれが悲しくて悔しくてならなかった。
私の中で何もかもが砕け散っていくような錯覚に陥った。
そして同時に私は『善なる行動』を諦める決意をした。