第28話 メイリアの策略
「メイリア様が代わりに人質に?」
私が自身の提案を皆に話すと、まず第一声にガーラングがそう返してきた。
「ええ、そうですわ。私がガボル村からの王都への使いを引き受けたという事にして、王都への街道を歩きます」
私の提案はこうだ。
王都への街道を進み、山賊に襲われたらわざと捕まる。
山賊どもが身代金目当てに村の者と私を交換条件に出してきたら、村長らに身代金を持ってきてもらう。
金銭引き渡しの時、魔王が私と村長を救い、山賊どもを生捕りにする。
そのままリドルク村に向かい、リーガンブルク男爵に詰め寄る。
「と言った感じですわ!」
私の考えた通りにいけば、ガボル村の悩み事をこれで解決すれば、ガボル村からの信頼は厚くなる。しかもそれだけではない。
「リーガンブルク男爵という男、どうにも下衆な男のようですので、ある程度詰め寄ったら、ついでにリドルク村も解放してやるように命じ、そうして二つの村からの私への信頼を高めるのですわ」
「さすがは我が娘よ。人の不幸につけ込む作戦というわけだな? そうして二つの村からの聖王への信仰心を薄れさせるというのだな?」
魔王の言う通りである。そうする事で聖王への信仰よりも私への恩義を深め、同時に私という存在への信頼感を高めるのである。
とは言ってもこれはあくまで魔王の案に乗っている考えなだけであり、私個人としては目論見が少し違う。
私はすでにこの世界でこの身を悪事に染めた者。アルノー家を惨殺した事実は変わりないし、逃げたと思われるヴァネッサや彼女を逃したヴィアマンテの従者たちは、おそらく血眼になって私を探している。
なので私がすべき事はまず、ヴァネッサたちを見つけだす事。
その為には私の評判を地方で広め、そしてなんとしてもヴァネッサたちと接触する機会を探さなければならない。
そしていつの日か私を捕らえにきた王都の兵士や、私を狙う冒険者たちが現れたなら、その彼らを逆に利用してヴァネッサの居所を問い詰めていくのだ。
愛する妹をこの手で殺す為に。
魔王の世継ぎの事など二の次だ。私は私の運命を打ち破る為に、今回こんな無茶苦茶をしているのだ。
その為にはまず、私の事を手に掛けた事のある人間は根絶やしにしなくてはならない。
ゆえに殺すべきはヴァネッサだけではなく、アルノーにゆかりのある者、そして場合によってはアルノー領に住む人々を皆殺しにする事もやむを得ないだろう。
私はその覚悟で、今を生き抜いているのだから。
そしてあわよくば、そんな悪事を重ねても私の味方でいてくれる人々を作るその第一歩がこのガボル村の困りごとである。
私の事をよく思ってくれる人々を増やし、いざという時の隠れみのとするのだ。
だから私の目的は、アルノー領以外では人助けをし、アルノー領では人殺しをする、という両極端な指標となる。
魔王たちの存在は私が生き抜く為の目標の、単なる礎に過ぎない。私はそのつもりで彼を解放し従者としたのだ。
良心の呵責など、もはやもう無いに等しい。それを捨てる為に、私は前の世界でいつも優しかった父と母をこの手に掛けたのだから。
「ええ、そうですわ」
私はニコっと笑って返事をした。
「しかしそんなに上手く事が運ぶでしょうか?」
ガーラングの心配そうな言葉に、
「あら、何をそんなに心配なさっているの? サタナイルお父様の他に貴方たち三魔貴族もいるのだから、失敗なんてありえない。そうでしょう?」
と、私が強気で返す。
「ですがメイリア様の身にもしもの事があっては……」
「そんな事にならないように、お願い致しますわね? お父様」
私が笑顔で言うと魔王は「任せろ」と言った。
思念では弱々しい事を言っていたが、そこは強引に私が押し切った。
私には死のさだめがある代わりにそれまでは死せる運命ではない、と勝手に思い込んでいる。
だから多少の無茶くらいどうって事ないのだ。
こうして、私は山賊どもに捕らえられる運びとなるのである。
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「……にしてもこのガキ、一体なんだって一人で夜道を歩くなんて無茶な事をしてやがったんだろうな」
「さあな。どっちにしても王都へ向かうにはこの街道を通るしかねえ。今はどんなやつも片っ端から捕らえる。女子供なら生捕りで金も要求する。俺たちがやる事はただそれだけだ」
山賊どもが山中にある洞穴内で私に聞かれている事などお構いなしにそんな会話をしている。
ここまでは私の予定通りだ。
後は事前に村長に話しておいた通り、彼が身代金を持ってここにやってくるのを待つだけ。
その受け渡しの後、私と魔王たちはこの山賊どもの行く先を着けていき、リーガンブルク男爵とのやりとりの現場を抑えるのである。
「頭! 村長の奴がやってきやしたぜ!」
どうやら手筈通りに身代金を持ってきてくれたようだ。
さて、あとは私たちがどれだけ上手くやれるかだ。
まぁ多少予定外の事が起きようと私はどうせ死なない。
気楽に勢い任せでやるだけだ。




