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第19話 精霊さん

「準備は良いな? メイリアよ」


「ええ、問題ありませんわ。サタナイルお父様」


 精霊が住まうという魔力の泉。


 そこにいる精霊とコンタクトを取る為に、私と魔王は二人以上でなければ実現出来ない高難易度の魔法『ホルシングズアイ』の発動準備を整え終えた。


 この魔法に関する体内術式、魔力の性質、練り上げる魔元素の量などをあらかじめ魔王に聞いていたが、なるほど、これは確かに非常に難しいと感じさせられた。


 私の長年の魔学の知識、経験はまさにここで大きく役に立ってくれたと言える。


「……うむ、いいぞメイリアよ。この魔力の調節の難度は多少腕に覚えがある程度の貴族や魔法師程度ではまず不可能だからな。さすがは我が認めた娘よ。(本当に凄いよメイリアちゃん! この魔力をビルドするの本当に難しいんだ!)」


「あ……ありがとうございますお父様。(……ふ、ふーん)」


 悔しいながらも魔王の言葉に少しだけ嬉しい自分に、思わず赤面してしまう。


「ぅおお……物凄い魔力の密度、そして練度! これが伝説に伺う『ホルシングズアイ』の魔力練成か……ッ! 俺の鍛え抜いた肉体の密度に匹敵するほどの力強さよッ!!」


 デイトルトがうなり、


「こんなのアタシには絶対無理ー! 魔王様、ほんとすごーい!」


 アイリスも声をあげ、


「……アイリス。凄いのはメイリア様もです。私たちにはこの緻密で綿密な魔力練成は無理でしょうからね。さすがはアルノー家の血筋の者でございますな」


 ガーラングも目を見開き、私たちの『ホルシングズアイ』発動の為に練り上げられた濃密な魔力に喉を鳴らす。


「ではゆくぞッ!」


「はい!」


 私たちは練り上げた魔力を互いの右手に集め、私と魔王は対峙するように構えた。


 そして私の右手を魔王の左目にかざし、魔王の右手を私の右目へとかざす。


「「ホルシングズアイッ!!」」


 魔法名をあげて、私たちは全てを見通す魔眼の魔法を発動。


 かざした互いの手のひらから眩い光が放たれる。


 ――そして。


「うむ、完了だ」


「これが……『ホルシングズアイ』……」


 魔法が無事解決されたという魔王の言葉と同時に、私は自身の右目から移る景色を見直してみる。


「何これ……なんだか不思議な色の……小さな玉が無数に飛んでいますわ?」


 私の右目には虹色をした大小様々な大きさの球体が、あちこちに浮かんでいる様子が窺えた。


「メイリアよ、それが魔元素だ。この世はその魔元素に満ち溢れているからこそ、我々は魔法を使う事ができる」


「そうだったんですのね。魔元素をこの目で見る事ができるなんて……」


 と、私が感慨にふけっていると。


「う……なんですの、アレは?」


 泉の中央付近にソレはいた。


 人を馬鹿にしたような奇怪なお面をつけ、手のひらサイズの人型をした、まるで妖精のような存在。


 その背中からは玉虫色に輝く羽もあり、私としては可愛らしいイメージでソレを見ていたいのだが、どうしてもそうならなかった。何故なら――、


「うむ、見えたか。あの小さな体の癖に気持ち悪い感じに発達しまくった筋肉質のボディと、真っ白のふんどしをつけて両腕を組んでいる者こそ……」


 いやだ、いやだ。信じたくない。


「この泉の主であり、土の精霊さんのアテナさんだッ!」


「嘘だぁぁああああああああああああああーーーッ!!」


 私は思わず号泣しながら絶叫した。


「む? 何が嘘なものか。()()は本物の地の精霊、アテナさんだぞ? (本当だよ? メイリアちゃん)」


「そんなの嫌ぁぁぁあっ! っていうか名前とのギャップも凄いし、そもそも性別的に私と同じっていうのもめっちゃ嫌ぁぁぁぁあああああああああっ!」


 私はあまりにも期待はずれな見た目の精霊を初めてこの目にして、精霊を作りたもうたこの世の神を呪わずにはいられなかった。




        ●○●○●




 ようやく出会えた魔力の泉の精霊。


 私のループに関する話など他の者たちには聞かれぬ様、私と魔王以外の者には少し離れたところで待っててもらう事にした。


「よっ。久しいのう、サタナイルよ。元気そうじゃな」


「はっはっは。アテナさんこそ、相変わらずお美しいお身体をしているではないか」


「最近はこれでもワシ、筋肉落ちてきたんじゃよ?」


「なんと……アテナさんでも迫る老化には逆らえずと言ったところか」


「そういう貴様も、もう108じゃろ? あと数十年もすれば、すぐジジイじゃわい」


「はっはっは! やはりアテナさんには敵いませんなあ!」


 魔王と筋肉精霊のアテナは旧友の再会のごとく、親しげに話し始めた。


 筋肉ダルマの精霊と、啓介くんの顔をした魔族の王の会話がなんとも呑気なものである。


 っていうか、この精霊の言葉遣いと反比例して妙に若々しい声質の良さがぜんっぜんその容姿に似合ってなくて正直、真面目に吐き気がしそう……。


「……んで、どうしたんじゃ? 貴様がホルシングズアイを誰かと共に使ってでもワシに会いに来るなど、相当な火急なんじゃろ?」


「おっと、そうそう。実は折り合ってアテナさんに聞きたい事があって来たのだ」


 魔王はそう言うと私の方を向き、


「この子、メイリアの事についてなのだ」


「ふむ」


 そして精霊アテナがふよふよと宙を舞いながら私の方へと近づく。


「は、初めまして、ですわ」


「……ふぅむ」


 精霊は特に返事も無くしばらく私の目を見据えたまま、唸っている。


 近づけば近づくほど、その筋肉質のボディとふんどしに目がいってしまい、思わず目を逸らしてしまいたい衝動に駆られるが失礼があってはならないと思い、ぐっと堪える。


 そしてしばらく私の目を見た後、やがて開いた彼女の口が放った言葉。


 それは、



「……お前さん、超えて来たね?」





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