第15話 擬態変態失態
「……これでいかがでございましょう、メイリア様」
ガーゴイルのガーラングが私に尋ねる。
「ええ、とても良いですわ」
私は笑顔で答える。
「メイリア様、アタシのはどおー?」
サキュバスのアイリスも続けてきたので、
「貴女もまあ……一応それなら大丈夫ですわね……」
と答えてやる。
「メイリア様。俺のこれはいかがだろうか」
最後にオーガのデイトルトも聞いてきたので、
「うん、問題ありませんですわね」
と返す。
我ながら妙案が浮かんだものだ。
「なるほどな……魔族を人間の格好にしてしまえば良かったのだな」
関心したように魔王サタナイルが言った。
そう、私は魔王含め彼らを人間に見えるように、その見た目と風貌を変えたのである。
(メイリアちゃん、考えたね! これならきっと人間たちも僕らを魔族だとは思わないよ!)
(……全く。こんなのはむしろ貴方が思い浮かびなさいよ、魔王の癖に使えないですわね)
(う……だって仕方ないじゃないか。まさか彼ら付いてくるって言い張ると思わなかったんだもん)
(まぁそうですけれど。それにしても貴方もちょっとお馬鹿さんですわよ? 私と人里を巡るつもりでしたのに、まさかわざわざ誤認魔法をかけ続けるおつもりだったなんて)
私はこの魔王が秘密裏に人間たちの村や街を巡ると言ったのに、一体どうやって自分の正体を隠すつもりなのかが気になり尋ねたら、他の生物の認識を誤らせる範囲魔法をわざわざ毎回使うつもりだったらしい。
確かに誤認識させる魔法は『暗黒』属性の得意とするところではあるが、いちいちそんな事をしている手間も面倒だし、魔法が切れている時に魔王が見つかれば結局台無しだ。
でもそれを聞き、おかげで私には良いヒントとなった。
誤認識ではなく『人間』に見えるようにすれば良いのだ。
なので私は彼らの見た目と肌の色を人間と同じにする、擬態系魔法を掛けてやった。
擬態系魔法は割と低ランクの魔法で、さほど難しくない上に魔力の消費量も少ない。人目につきそうな間は、常時彼らには私が擬態系魔法を掛けておけば良い。
「ただし先程も説明したようにこの擬態系魔法は掛けられた者の能力もかなり封じ込めてしまいますわ。なので、あなた方の今のステータスは素の姿の時の、半減以下だと思っていてくださいまし」
「「ありがとうございます、メイリア様」」
私の言葉に三魔貴族たちが声を揃えてお礼を述べた。
「……凄いなメイリアよ。このような魔法は我には扱えぬ」
魔王の言う通り、この擬態系魔法は彼には使えない。
何故ならこの魔法は低ランクの魔法。弱い魔物や人間などが身を守る為にあるような魔法だ。基本的に強い者は擬態系魔法など使う必要などないと考え、わざわざ覚えないのである。
その上、こういう印象操作系の魔法は魔力の練り上げに繊細さが必要で、そういった魔法は女性の方が扱いに長けているのである。
「擬態系魔法は私にとっては色々な活躍の場があると思っていましたので、覚えておいたんですの。お役に立てて良かったですわ。と言ってもこの魔法は所詮、E級位魔法。貴方だって覚える気になれば造作もないですわ」
この世界の魔法にはその種によって『級位』がある。
下から順にE、D、C、B、A、S級位とされ、
E〜D級位は才能がさほどない者でも扱えるレベルの魔法。
C級位は多少の才能がある貴族なら扱える魔法。
B級位になると才能がある貴族が努力をそれなりに重ねて覚えられる魔法。
A級位は数万人に一人の確率で現れる天才が更に数年の勉強と魔力の精査を重ねて辿り着ける魔法。
そしてS級位は天才の中の天才が途方もない魔学を研鑽し続け奇跡的に辿り着けるかもしれない領域の魔法、もしくは世界でも特殊な条件下においてしか扱えない魔法、とされている。
「それにしても……アイリスさん」
私はサキュバスのアイリスを見て、少し呆れるように
「貴女のその格好はなんというか……少々恥じらいに欠けすぎてはおりませんか?」
と、尋ねる。
何故なら彼女の人間への擬態した姿が、あまりにもあまりにも、なのだ。
この擬態系魔法というのはかけられた対象が自身をどう擬態させようかイメージする事で、肉体だけでなく服装すらの見た目も変えてしまえる。
彼女、アイリスは肌の色や髪の色は人間の物になっているが、服装が酷い。
肌の露出量が異常に多く、まるでビキニアーマーのような薄いピンク色の服が、かろうじて乳首や下半身の秘部を隠しているだけで、後はほとんど地肌をあらわにしているのである。
「えー。だってアタシ、サキュバスだもん。この方が魔王サマも喜ぶし」
「……そうなんですの?」
私はジト目で魔王を見やる。
「……そんな事は、ない(たぶん)」
「サタナイルお父様。そういうセリフはそのアホヅラを表には出さずに言うものですわよ? (心の声聞こえてんだよ変態が)」
「い、いや、これは別にアイリスに見惚れてしまったわけではなくてだな……(い、いや、ホントに僕はこういうの趣味なわけじゃなくて!)」
「へぇぇえええ? そうなんですの? じゃあ一体何に見惚れてしまって、そんな馬鹿みたいなツラになってしまったんですの? (気持ちが悪いので思念で話しかけないで頂けますか?)」
「そ、それはだな……(うわぁん! そんな酷い事言わないでよメイリアちゃん!)」
「……ふん。もういいですわ(……)」
なんだか無性にイラッとしたので、私は思念の会話も無視した。
こんな馬鹿なスケベ魔王が啓介くんだったなんて、思いたくもない。
「魔王様。これで我らの同行をお許し頂けますね!?」
私たちの会話を遮って、ガーラングが張り切った声で再び魔王へと尋ねる。
「う、うむ……問題はないな? メイリアよ」
「……」
私はフルシカトを決めた。
「だ、大丈夫だ! 同行を許す……(メイリアちゃん……ごめんよぉ……)」
(……)
魔王が何に対して私に謝ってるのか意味わかんねーので、シカトを続けた。この魔王、ホンマにイラっとするわ。
「「ありがたき幸せにございますッッ!!」」
ガーラングとアイリスとデイトルトは歓喜の笑顔で魔王におじぎをし、そして魔王は今にも泣きそうな顔で俯いていたのだった。




