第13話 そんなわけで世界征服
「我は世界を征服するッ!!」
と、豪語した魔王は私と共に今、オルクラ大陸本土に渡る為、ガーゴイルたちに頼み彼らに身体を掴んでもらいながら、空を運ばれていた。
(ねぇ、ちょっと貴方、アレは一体どう言う事なんですの!? 私、世界征服なんて頼んでいませんわよ!?)
(成り行き上、都合が良いと思ったんだよ。その方がメイリアちゃんもやりやすいと思ったんだ)
私と魔王はガーゴイルたちに声が届かぬように、思念で会話をする。
魔王はあの発言の後、魔族たちにこう告げた。
世界をメイリアと周りながら彼女の見聞を広めつつ、各地の有権者や有識者たちと親睦を深めたのち、裏から世界を征服するのだ、と。
そして征服が整った地で様々な力を得て、やがて訪れるであろう聖魔戦に備えるのだ、と。
これはどういう意味なのかというと、魔王は私とオルクラ大陸を巡りながら、訪れていく領地や村などからどんな方法を使っても良いから支持率を集めていこうというシナリオらしい。
そうする事で私を16年目の死のさだめから守り抜くという算段なのだとか。
(メイリアちゃんの言う事が真実なら、何者かに狙われるリスクを減らす為にも16歳の誕生日までに様々な不穏因子を取り除いておけば、排他的に考えて生き残れる可能性が増えてくって寸法だよ)
(言いたい事はわかりますわ。私だってその為に、これまで私を殺害してきたと思われる者たちを屠ろうと考え、父と母に手を掛けたのですから。ですが、裏から世界を征服なんてそんな大それた事、本当に出来ると思っておりますの!?)
(出来るかどうかはわかんないけど、こういう形にしておけば、ひとまずメイリアちゃんが知性のある魔物や魔族から襲われる心配はかなり減るし、上手く各領地の有権者を丸め込めれば、更に同じ人間からも襲われるリスクは低減するでしょ)
それはその通りだった。
私も魔王の力を得たら、世界征服とまでは行かないまでも、私を死のさだめに導くであろう危険因子を全て打ち返せる強さを何らかの方法で見せつけておく必要性はあると考えていたからだ。
私は魔王の力を得る前でも普通の貴族たちに比べ、圧倒的な魔力と知識を備えている。
だが、フィジカル面においてはそれほど優れているわけではない。肉体自体は8歳児のボディだ。小さなナイフを刺されればそれで致命傷に至る事もままある。
無論、フィジカルを強化する魔法も扱えるし、ガイルやフランクみたいな雑魚であれば難なくいなせるが、本物の鍛え抜かれた剣士や戦士、魔法使い、暗殺者に襲われればひとたまりもない。
(そうですけど……でも、世界征服なんて、聖王アルクシエルが治める王都アルカンシエルや近隣の国々が黙っていないと思いますわ)
(大丈夫だよ。聖王は次の聖魔戦まで僕に接触してくる事はない。そういうルールだからね。でもまぁ、確かに王都の近衛兵たちは黙ってないかもしれない。だから僕たちはお忍びで頑張らなくちゃダメなんだよ)
確かにこの魔王は配下の魔族たちに世界を征服する宣言の後にこう言った。
「我らの旅は秘匿下にて行なう。聖王に我の目論みを知られてしまうと聖魔戦で不利になるからだ。ゆえに、魔族や魔物ども全員に伝えよ。我らの事は一切口にせず、我の封印が解けた事も口外するな、と。そしてその上で我が娘、メイリアを陰ながら守り抜くのだ!」
魔族たちはこの言葉に納得し、こうして私たちは封印の地を離れた。
ちなみに封印の地は再封印された。破聖の秘法は一時的な封印の解除みたいなものであり、それを行なった術者が再度破聖の秘法の効力を消せば、封印はまた元に戻るのである。
そうしておかないと、封印が解けてしまった事が聖王たちにバレてしまうかもしれないからだ。
「魔王様、こちらでよろしいですか?」
「うむ、すまないな」
ガーゴイルたちは魔王と私をオルクラ大陸南部に位置する、ガボルの大森林と呼ばれる森の中へと降ろした。
「い、生きた心地がしなかったぜ……」
「あばばばば……」
ついでにガイルとフランクも私たちと一緒にこの地に降ろしてもらった。彼らの事などもはやどうでも良かったのだが、事情を少し知られているし、放っておくのも得策ではないと考え私の監視下に置きつつ、小間使いとして利用する為だ。
「メイリア様、空の旅のお加減はいかがでございましたか?」
「ええ、悪くありませんでしたわ。ありがとう」
ガーゴイルは礼儀正しく私に向かって礼をした。
「ご苦労だったな。では皆の者、下がれ」
魔王サタナイルが私たちをここまで運んだガーゴイルと、それを見送る為に着いて来ていた飛行可能な数匹の魔族や魔物たちに向けてそう言い放つ。
「っは。魔王様、メイリア様、ご武運を」
そう言い残し、ガーゴイルたちと魔族、魔物たちはそのほとんどが帰っていった。
……のだが。
「……貴方たちは帰らないんですの?」
私は、まだこの場から立ち去らず目の前に残っている数匹の魔族たちにそう問いかけた。




