9.なんか凄い冒険者達
「おお、斯様なところでお会いするとは。ルーデン殿、お久し振りです」
Sランク冒険者であるルーデンは、冒険者ギルドの中で身なりの良い男に話しかけられた。
「やあ、これはオーレム卿。ご無沙汰しております」
オーレム卿は冒険者であると同時に貴族でもあり、ランクは高くないながらも発言力のある存在である。
「ときにルーデン殿、最近よくロストフォレスト洞窟に行かれているとのことですが、ひょっとしてフレデリック殿の店に?」
「ええ、まあ……そんな感じですな」
改めて言われると気恥ずかしいのでお茶を濁したかったが、そんなことをしても仕方がないので肯定することにする。
「いずれは吾輩もフレデリック殿の作るラーメンを食べてみたいのですがな、しかしながらいやはや、あそこは吾輩には少々扉が硬いようで」
「あんなところに店を開いたばかりに、フレデリックは苦労しております。しかし卿であれば、いずれは到達可能でしょう」
そうは言ったが、実力的には並の冒険者に毛が生えた程度のオーレム卿では、店どころかダンジョンの上方で追い返されることも想像に難くない。
やはり、あのラーメン屋は立地が悪い。
「宜しければ今度、酒でも飲みましょう。それでは」
「ああ。ルーデン殿もご無理をなさらぬようにな」
オーレム卿との挨拶もそこそこに、ルーデンはギルドの施設内にある冒険者の集う酒場へと向かっていく。
そこは若手の冒険者が集うたまり場のような場所であり、ダンジョン攻略以外の依頼を受託することができる仕事の斡旋所でもあった。
「これはこれは、ルーデン様! このような場所によくぞ来てくださいました!」
ルーデンが酒場の扉を開けると、若手の冒険者達が我先にと集まってくる。
「最近はどうだ? ダンジョン攻略は捗っているか?」
「はい。お陰様で、かなり難度の高いダンジョンにも潜れるようになりました」
「そうかそうか、立派な事だ。時に、ロストフォレストの只中にあるダンジョンに行ったことのある者はいるか?」
ルーデンは若手への挨拶もそこそこに、自分の聞きたい事を切り出した。
「ロストフォレスト洞窟ですか……昔は何人か挑戦していましたが最近はランクが上がりまして……。現在ではここに集う者達の中でも、ロストフォレスト洞窟に太刀打ちできそうな者は僅かしかおりません」
「そこにな、ラーメン屋があるって話は聞いた事があるか?」
「はい、その話ならば。伝説の冒険者フレデリックさんが開いているラーメン屋ですよね? 俺達の中ではらぁめんフレデリックのスタンプカードを持つ者こそが一流の冒険者と言う感じになっているので、いつか俺も行ってみたいです」
どうやら若手にも旧友が経営するラーメン屋は認知されているようだ。
だがしかし、場所が悪い、悪すぎる。
ラーメンの為ならどんな秘境でも人は集まると言う話ではあるのだが、流石に限度がある。
どんなに美味しいラーメンを提供していたとしても、到達できなければ意味が無いのだ。
そもそもあいつ程の知名度があれば、別に街角でそこそこ美味いラーメン屋を開いても充分客が来たのではないか。
……いやしかし、それはあいつの矜持が許さないのだろう。
なぜならばあいつは伝説の冒険者ではなく、最高を追い求めることにしたラーメン屋さんなのだ。
究極に美味しいラーメンを作りたいのであって、儲けたいわけではない。
そもそも儲けるのであれば、今でも冒険者を続けていた方が良かったはずだ。
ならば、友としてあいつの道を応援してやるしかないだろう。
ルーデンはそんな事を思いながら、ラーメンを食べに行くための支度を始めた。
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「いやさ、俺、考えたわけよ。元Sランク冒険者の肩書使って街にラーメン屋出せば、そこそこ客が入ったんじゃないのかってさ。ほんと、なんでこんな僻地にラーメン屋なんか作っちまったんだろうな」
「素材と水がここしかねえって言ったのはお前だろうが。何度も言うけど、そこはブレるな絶対にブレるなこの野郎」
SS級ダンジョン「ロストフォレスト洞窟」の最深部にあるラーメン屋で麺を啜りながら、常連の男ルーデンは旧友のフレデリックに対してそんなツッコミを入れた。
取りあえずここまでなので一旦閉めておきます。