6.「食〇ログ」に載りたい
「食いログに載りてぇ」
頭にバンダナを巻いた青い作務衣姿の店主が、テーブルを拭きながら呟いた。
「食いログて……前は『知る人ぞ知る店になればそれでいい』とか言ってたじゃねえかよ……」
店主の言葉に対して、伝説の魔剣「レーヴァテイン」を背負った常連の男がラーメンを食べながらツッコむ。
ちなみに「食いログ」とは、王都で流行っているグルメレビュー情報共有システムである。
魔法盤と言う物に映し出される魔導情報ネットワークによって一般大衆による書き込みやレビューなどの情報が口コミで紹介され、各飲食店の点数が視覚化される仕組みなのだ。
「大体、食いログの中心地は王都じゃねえか。ここから随分と距離があるぞ? 食いログに書かれてる店を探そうなんて奴、ここまで来られないだろ」
「いやそれでもよぉ、瞬間移動や飛翔の魔法を使えば一発でここまで来られねぇ? 普通」
「俺達はな」
店主も常連の男も人類としては規格外の性能なので、その基準で考えてはならない。
「あ、そうだ。お前、何か俺の店の口コミ書いて投稿しといてくんない?」
「俺、身内みたいなものじゃねえか。そんな自演してバレたら炎上じゃ済まねえぞ。ただでさえ客が来てないのに」
「はあーーー。客の中で誰か食いログに俺の店を投稿しといてくんねぇかなーーー」
店主の我儘のような言葉を聞きながら、常連の男は「たとえ食いログに掲載されたとしても、どうせ『ラーメンはそこそお美味しいが立地は最悪。☆1です』とか書かれるんだろうな」などと思いながら、スープに浮かんだチャーシューの欠片を箸で拾い上げ、口に運んだ。
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「おい喜べ。食いログにお前の店が載ってたぞ」
あれから数日後の事である。
左手に神盾「イージス」を装備している常連の男が、情報ネットワークを共有できる魔法盤を持ってラーメン屋へと入って来た。
「ほ、本当か!? なんて書いてあるんだ!?」
「まあ、落ち着けよ。実は俺も敢えてまだ見てないんだ。一緒に見ようと思ってさ」
そう言って常連の男が魔法盤を指でなぞる。
するとそこには、確かに王都外飲食店部門のところに店主の店が載っていた。
「おう、評価はどうなんだよ。もちろん☆5なんだよな!?」
「☆5なんて食いログ出してる情報会社に金払ってる店しかつかないよ。☆3.5くらいあれば当たり店だな」
そう言って開いたページだったが、残念ながら「口コミ数1、評価者数1、☆2」と言う散々な結果であった。
「なんだよーーー☆2って!! 分かってねえ奴が書いてんなぁ!!」
大きな溜息をつきながら店主が言った。
「やっぱ場所が悪いんだよここは。それよりレビュー書かれてるぞ、見てみようぜ」
常連の男が魔法盤の画面を押しページを変えると、そこには中々の文字数でこう書かれていた。
「『こだわり麺房らぁめんフレデリック』はロストフォレスト洞窟の奥にあるお店です。
ロストフォレスト洞窟は風光明媚な景観を持ち非常に快適なダンジョンとして整えられておりますが、このお店が景観を損ねているのでその点は大変大きなマイナスです。
肝心のラーメンの味については合格点と言えます。
ラーメンの味だけなら☆5をあげてもいいかもしれません。
しかし、店主の態度が最悪です。
人が作ったダンジョンで勝手に開業した上に、全然家賃を払ってくれません。
ラーメンは美味しいのですが店主の態度とダンジョンの景観を損ねている点で☆2です」
「……」
「……」
二人の間に沈黙が流れる。
「……ちょっと、大家に文句言ってくるわ」
「やめとけ。薮蛇だ」
一体どうやって人間の文明に触れているのか。
食いログには、ロストフォレスト洞窟ダンジョンマスターと思われる人物の口コミが記されていたのであった。




