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5.店主の過去

「へい、ラーメン一丁お待ち」


「「「頂きます」」」


 そう言ってカウンターの席に座った若い冒険者達は、ラーメンを啜り始める。



 この若者達は最近店に来るようになった新進気鋭の冒険者パーティだ。


 この辺りを拠点にしてロストフォレスト洞窟を探索しているのだが、難攻不落と謳われるロストフォレスト洞窟に挑む当たり実力は確かなものであった。



「あの、店主はどうしてこのダンジョンで一人で生き抜けるほどに強いんですか? 昔は何をやっていたんです?」


「昔か? 何やってたかなあ。まあ、ヤンチャはしてたよ」


 パーティの一人の問いに、ドラゴンボアの肉を捌きながら店主が答える。



「どういったことをされていたんですか? 良ければ昔の話、聞かせて頂けませんか?」


「ああ? まあ、俺の話で良けりゃあ、聞かせてやるよ」


 是非聞かせてください! と冒険者達4人はラーメンを食べながら囃し立てた。



「俺、こう見えて料理屋の息子なんだよ。親父が定食屋の主でさ、毎日料理ばっかり作ってた。それも、全然美味くもないし思想も感じない定食をよ? そう言った親父の背中を見ながら『こうはなりたくないな』なんて思ってたわけよ。俺、バカだから」


 仕込みを続けながら店主は話を続ける。



「そんな中でよ、町をプラプラしたり魔界のダンジョンを制圧したり女を冷やかしたりしながらダラけた生活送ってたわけなんだけど、ある日入ったラーメン屋で、俺の世界がガラッと変わったんだ」


「すいません、その、魔界のダンジョンを制圧した話の方を詳しくお聞かせ願いませんか」


 冒険者の一人の言葉を聞いてか聞かずか、店主は一度手を洗ってから続きの話をした。



「そのラーメン屋のラーメンがさ、凄く美味かった。なんだかわけわかんないくらい。で、ラーメン屋のおっちゃんに言ったんだよ。『親父が毎日作ってる無駄飯とは全然違う』ってさ。そしたらラーメン屋のおっちゃんにぶん殴られちまったよ。『お前は自分の親父さんの事を見誤ってる。もう一度父親の料理を食べて、出直してこい』ってさ。あの時の拳、ほんと痛かったよ。魔王の放った『テンペスト・フレア』なんかより余程、足に来たね」


「あの、魔王って、魔王ってどう言う事です?」



 魔王とは最強最悪のダンジョン「コキュートス」を統べていたダンジョンマスターの事である。


 ここ数年の間に倒されたようだが、今回の話には関係がないので置いておく。



「そんなこんなで俺は一度実家に戻って親父の料理を食べてみたんだけどよ、これがまた、相変わらずそんなに美味くねえの。なんか腹立ったからラーメン屋のおっちゃん呼んでさ、親父の料理食べさせたわけ。そしたらラーメン屋のおっちゃんが『あ、こりゃダメだわ。君の方が正しいわ』って認めてくれたんよ」


「そこは親父さんの腕を認めて親子の感動的な話に持っていくって感じではないんですね……」


 実際店主の父親は定食屋を長いことやっていたにも関わらず、料理のセンスが全くなかったので仕方がない話である。



「で、何だかんだ頼まれてた国王の密命も成し遂げ終わってヒマになったからさ、ラーメン屋のおっちゃんに弟子入りしたわけなんだけど……あ、おっちゃんおっちゃん言ってるけど師匠ね。師匠が『おっちゃんでいい』っつったからおっちゃんって呼んでるけど、師匠の事は尊敬してるよマジで。その時に俺の舌って結構鋭敏なんだなって気付いたわけ。いやあ、何の取り柄もない人間だと思ってたんだけど、人間何かしら得意な事があるんだなってその時は感じたよ」


「いや、何をやってたのか知りませんけど、国王陛下から密命を受けて動いてたって凄いどころの話では無いのでは」


「で、おっちゃんの店で修行しておっちゃんにも腕を認められたから、ここに店を開いたってワケよ。俺自身が納得のいくものを客に食べさせたかったし、何よりもおっちゃんより美味いラーメン作りてえ! って野心もあったからね。で、現在に至るって感じかな」



 ……ラーメンは美味しかった。


 店主の話もまあ、悪くはなかった。


 しかし、肝心の店主がなぜ強いのか、ラーメン以外にどのような事を成し遂げたのかは聞けず仕舞いである。



 店主の話を聞くためには、またここに通うしかない。


 そう決意を新たにしながら、若い冒険者達は店を後にした。

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