3.そこそこ強い冒険者
迷いの森の奥深くにある特級ダンジョン「ロストフォレスト洞窟」。
このダンジョンは秘められた財宝も多いが、魔物も強く罠も死を誘発するものばかりである。
それ故に、このダンジョンで命を落とす冒険者も多い。
「くそ……! こんなところで死んでたまるか……!」
そんな特級ダンジョンロストフォレスト洞窟の奥底で、軽甲冑に身を包んだ一人の青年がドラゴンのような顔をしたイノシシに追われながら、必死にその追撃を撃ち払っている。
彼にもパーティを組んでいる仲間がいるのだが、魔物との戦闘の最中に散り散りになってしまい今となっては生きているかどうかも分からない。
「ルシャル、セットラ……無事でいてくれ……! 俺がこいつを倒し、必ずお前達を助けに行くからな……!」
パーティメンバーの名前を呟きながら、彼は自身を奮い立たせ魔物へと立ち向かう。
しかし、気力と精神だけで危機は乗り越えられない。
青年がロングソードを振りかぶり果敢に突撃するも魔物の尾に跳ね飛ばされ、そのはずみでダンジョンの壁に激突する。
全身が軋みもはや痛みで立つこともままならない。
もうダメか……と青年が思った、その時であった。
青年に止めを刺そうとしていたドラゴンボアの首が飛ぶ。
そこには頭にバンダナを巻いた青い作務衣姿の男が、巨大な包丁を右手に持ちながら立っていた。
「いや兄ちゃん、悪いな。兄ちゃんの獲物だとは思うんだが、俺も今日こいつが必要でさ。一つ譲っちゃくれねぇか?」
その男はくるりと振り返り、青年に言う。
「あ……あんたは……?」
「ああ、申し遅れた。ここからすぐのところで店をやっているラーメン屋の店主だ。良ければ食べに来てくれ」
そう言いながらバンダナの男は青年に何やらカラフルな紙を渡す。
その男は手際よく魔物を解体すると荷運びの魔法を使って余さずその遺骸を収納し、この場を去って行った。
……我に返った青年が先程貰ったカラフルな紙を見ると、そこには「こだわり麺房らぁめんフレデリック。このチラシ持参でチャーシュー以外のトッピング一品無料サービス」と書かれている。
「ラーメン……確かにこのダンジョンにはラーメン屋があると言う与太話は聞いていたが、まさか本当に実在するとは思っていなかった……。それにしてもあの店主は何なんだ……? Aランク冒険者である俺達ですら倒せるかどうか分からないドラゴンボアを一撃で……。フレデリック……まさか、伝説の……? そ、そうだ! ルシャルとセットラを探さないと!」
青年は気力を振り絞り立ち上がると、別れたパーティメンバーを探しに行った。
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「おっと、お客さんが来てたのか。わりぃわりぃ」
「何やってたんだよ。一人しかいない店員が店を留守にするなんて」
店の前で待っていたのはこの店の数少ない常連客の一人であり、店主の旧友であるSランク冒険者だった。
「いやさ、素材が切れたからさ、ちょいと調達しに行ってたんだ。それと、宣伝のためにチラシ配りもな」
「前は『宣伝なんかしねえ。いいものを作っていれば、客は勝手に来てくれる』とか言ってたじゃないか」
「バカ、時代はマーケティングだよ。いいものを作っても存在を知られなきゃ誰も来ねえ。ところで、今日は女の子二人連れとはいいご身分じゃないか。俺としては、客が多い方が歓迎するけどよ」
普段は一人でラーメンを食べに来てきる常連の旧友は、今日はどういうわけか女性二人連れであった。
「すぐそこで魔物に襲われててな、助けてやった。何でも、パーティメンバーとはぐれてしまったんだと。しょうがねえから仲間と合流するまで、用心棒でもしてやろうかと思ってな」
「お優しいことで。いつも通り大盛りラーメンでいいか?」
「ああ。チャーシュートッピングもな」
そんな会話をしながら店のシャッターを開け、常連客と女冒険者二人を招き入れる。
そして20枚のチラシを持って行ってそのうち19枚を持ち帰って来た店主は、そのままラーメンを作り始めた。