ブラウン管ドラゴン
僕はブラウン管に、ドラゴンを飼っている──
あれは、リサイクルショップに行ったときだ。
クリスマスの前に粗大ゴミを少しでもお金に変えろと、母親から大量の服を渡されたのだ。
査定の間、ふらふらと店内を歩いていると、ジャンク品の山のなかに、ブラウン管テレビを見つけた。
「誰が買うんだよ……」
ひとり、呟いてしまう。僕が生まれた頃にはすでになかった家電だ。もう、現代の化石だろう。
「……画面って膨らんでるんだ……つか、デカ!」
よく見ると、ガラスの画面に何かついている。
「ドラゴン……?」
電源も入っていない黒い画面に、ぽつんと青い鱗のドラゴンが浮いている。
それは指でつつくと驚き、小さな羽をパタパタとさせて、画面の右上に逃げていく。
ドラゴンの前に指を置き、指を滑らせてみると、楽しそうにスルスルとついてくる……
視界の端で、店員が足を止めたのが見えた。
「あんた、見えんの?」
「……あんたじゃないよ、梅田。同じクラスの霜山だよ」
僕が言い返すけど、梅田はブラウン管のドラゴンを指でじゃらしはじめる。
「かわいいでしょ、こいつ。あたし、ブルーって名前つけてて」
「君、飼わないの?」
「え? 買う? 飼う?」
「動物を飼うの方」
「あぁ」
彼女は残念そうに画面をなぞる。
マニキュアのはげた指先が、楽しそうにドラゴンをくすぐる。
「飼いたいけど、部屋に置き場所なくてさ」
店内放送で僕の番号が呼ばれる。査定が終わったようだ。
「じゃ、僕が、ブルーを飼うよ」
荷物を片付けに出掛けたはずなのに、大きな荷物を抱えて帰ってきた僕を母親はただ笑ってくれた。
僕はすぐにブルーを自分のベッドの足元へと置くことにした。
少し薄暗い壁際は、ブルーの綺麗な鱗がよく見える。
「ブルー、今日から僕と過ごそう」
それからは約束通り、上京した先にもブルーを連れて大学に通ったし、こうして家庭を持った今も、ブルーは一緒だ。
「ちょ、あんた、ブルーがあくびした! やば! めっちゃかわいい!」
「あんたって……僕の奥さんでしょ? あくびは何度もみてるでしょ?」
僕はあれから梅田とブルー繋がりで仲良くなったんだけど……
まさか結婚までするとは思ってなかったなぁ。
僕はブラウン管に、ドラゴンを飼っている。
今、とても、幸せだ。