終わるのか
僕が死んだら世界は終わってしまうのに。
欄干に体を預けて、彼はぽつりと呟いた。
月のきれいな夜、直ぐに雨になりそうなほど瑞々しい空気の中で。
ハイビームが時折通り過ぎる以外は無機質な国道で。
僕は彼の隣で冷めた缶コーヒーを啜っていた。
終わらないだろうな、と思ったけれど。
本当に終わるのかもな、と次いで考えた。
僕が死んだら、少なくとも、僕の世界は終わるだろう。
魂だけが残って、この世界を見続けるなんてことは絶対に出来ない。
観測できるのは生きている間だけ。そんなことがたまらなく恐ろしかった。
――死にたくなる気持ちは分かるけれど死ねる人の気持ちは、分からない。
橋の下を流れる川は、今は、暗闇の中に隠れているから。
脛まで届かない程度の水量でも、それと分からないで飛び込んでしまうかもしれない。
僕は、隣の彼を見つめた。
彼は、俯いている。
震える声音で、何かをずっと口にしている。
僕には届かない声量で。
死ぬなよ。
僕は、それだけを言った。
何の慰めの言葉も口には出来ず、これから良いことがあるさ、とも言えず。
気持ちは分かるよ、なんて常套句も言えず。
君よりも苦しんでいる人なんて幾らでもいる、なんてことも言えず。
生きてくれ、なんてことも言えないまま。
僕は心底、残酷な言葉を振り絞るばかりだった。