五話
説明パート
このグラウジェント研究所は、数百年前に魔女を発見した初代所長が魔女の呪いについて研究する為、世間に秘匿し建立した研究所であり、呪いの人工的な付与、魔女の子孫の軍事活用等を目標とし、研究を進めている。
「…………くだらない」
研修用のパンフレットの1ページ目から目を離し、エルはつまらなさそうに吐き捨てた。
「なんで皆して戦争だの兵器だの騒いでんだか。どうせならもっと愉しいことに使えば良いのに」
まあそれに従ってる私も私だけどさ。そう追加で呟いてから彼女は机の上にある用紙と向かい合う。
ここはエルの自室で、先程までリアと愛し合っていた場所だ。そんな場所の椅子に座りながら彼女は唸る。一端の研究者である以上、愛しいリアの様子を書かなければならないのだが___
「どう書けばいい?」
彼女は書き方がわからない。かと言って、観察していなかった訳ではない。一部始終を見ていたからこそ、異常な性癖をもつ彼女は書き方がわからないのだ。
どう書こうとリアが可愛かった事しか頭に入っていなかった為、途中で可笑しくなってしまう。現にその事で何度か叱られた彼女は、このレポートには細心の注意を払わなければならない。
『唯一制御出来る失敗作』
エルは不意に彼女を紹介されたときの言葉を思い出す。
魔女の子は『失敗作』と『人間』の2種類に分けられる。
失敗作はリアを襲わせた狩猟本能のみで生きる異形。
人間は希少な魔法を使えるそのままの人間。
数百年前からこの2種類だけが産まれてきていたが、最近になってイレギュラーが発生した。
人間の特徴をもつ失敗作が産まれたのだ。彼女は人間同等の知能と外見を持ち、しかし脳を破壊しなければ死なない存在だった。
それだけでも十分イレギュラーだったが、他にもおかしな点があった。
頸と胴体が繋がっている場所から5センチのところ以下が完全に分離した時、肉の蔓を生やすのだ。そしてその蔓は半径20メートル以内にいる生物の脳がある場所まで成長し一瞬で正確に貫く。そしてその蔓で脳を突き刺し、自らの口に運び捕食する。
捕食する度に彼女の体は治癒していき、全快した時点で意識は完全に途切れ元の状態になる。
詰まる所、リアは不死なのだ。いや、彼女は年を取るに連れ成長しているため、正確には外的な要因では決して死ぬことはないとこの時点では言うしかないのだ。
この特色を活かせないかと、彼女は軍事利用が検討されているが、リア本人はエルのみに懐いているため、計画は中途半端な所で中断されている。
其処まで思い出した所で、エルは吹き出した。
「私一人に懐いているから先送りって、制御出来る自信がないことへの言い訳にしかなってないよね」
自分が一つの国の重要で可愛らしい鍵を握っている事を喜びながら、エルはようやくレポートを書くことに移る。
失敗作の挙動が素早かったのは書いたほうがいいのか、リアの可愛さも書けばいいのか、自問自答を繰り返しながら彼女はレポートを完成させた。
これを提出したら、エルはリアに話さなければならない。彼女が産まれた理由を、人類から消された3人の忌むべき歴史を。それ思い出したエルは、笑みではなく溜息をこぼした。
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