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9-10 ボスの首と財宝を盗め スコップ抱えた断罪者 - 裏帳簿の描く真実 -

「さて……裏帳簿もいただいたことだ、次はアンタだ」


 ここには地面がない。スコップで人を殺すのは難儀だ。

 そこでさっき俺にぶち込んでくれたやつを、銃口を[昨日の風]のボスにも向けた。


「ハ、ハハハハハ……復讐か。ムダなことを……」

「いいや、別にアンタに恨みはないな。誰かに頼まれてもいない。これは俺個人の意思だ」


「狂人か貴様……俺を殺しても、何も変わらんぞ……! 首がすげ変わるだけだ、[昨日の風]はなくならん! 残念だったな、この偽善者が!」

「ああ、なら勝ち誇って死なれるのもしゃくだから教えてやろう。宝物庫の金は全部いただいた」


「は……? ぜ……全部、私の、金を……盗んだ、だと……」

「そうだ。アンタが死んだ後は、消えた金をめぐっての殺し合いが始まるだろうな。おっと、これは聞かれたらまずかったな」


 護衛の残り一人はスコップで殴りつけただけだ。

 ソイツを銃で撃ち殺して、最後にアンセフの心臓を狙って突き付けた。


「ふざけるなッこの異常者がァッッ! 何も変わらん、何も変わらんぞッ! 需要がある限り、人さらいは消え――」


 パンッと悪の中枢を屠って、俺は追っ手が付く前に地下世界へと姿をくらました。

 ……ああ、さすがに疲れた。死んで当然の悪だったとはいえ、少しばかし精神的にくる。


 少しして、カンテラに火を灯していないことを思い出した。

 まずはこの場を離れよう。灯したカンテラを片手に、俺は暗闇のトンネルを進む。


 途中、財宝を埋めた地下空洞に立ち寄った。貴金属に宝石。どれも足の付きにくいクラウンの塊だった。

 しかしこんな物のために獣人たちの生活が引き裂かれていたかと思うと、とても手を出す気にはなれなかった。


 虚ろな富をぼんやりと眺めながら、俺はローブが返り血にまみれていることに今さら気づいた。

 続いて自分が裏帳簿を抱えていることも思いだし、カンテラの明かりを頼りにざっとページを飛ばしめくってみることにした。


 背筋がゾッとする。有力者の名がいくつも並んでいた。

 妻子のある貴族や大商人、やさしそうで悪人には見えなかった者の名もあった。


「ん、グノース・ウルゴス……だと。これは、まさか、なんてことだ……」


 そこにあってはならない者の名があることに気づいてしまった。

 あの時、ヤツが後悔すると言っていたのはこのことか。


「フェンリート・グノース・ウルゴス。白狼のヤツフサ・シュリア、13万クラウン……」


 それは皇太子の名だ。

 ヤツフサ――いやヤシュを買ったのは俺の兄、この国の皇太子フェンリートだった。

 13万クラウンといえば、おばさんのケバブサンドが65000個分だ。


「まさかここまで堕ちていたとはな……。国の皇太子ともあろう者が、ここまで愚かだとは……」


 激しい嫌悪感を覚えた。同時に裏帳簿の取り扱い方がわからなくなった。

 考えようによっては、これは内戦の燃焼促進剤にすらなる可能性がある。


 皇帝を継ぐべき者のスキャンダルだ。食いつくやつが山ほどいた。

 次男であり第2皇位継承者であるジュリアス兄上に、己こそ皇帝に相応しかったと今でも信じるモラク叔父上、陰謀家のドゥ・ネイル叔母上も怪しかった。


「今頃、ヤシュは馬車の中か……」


 シグルーンならばまずしくじらない。必ず成功させていると信じられた。

 報酬も賛辞も何もない血塗れの結末となったが、俺は満足だ。


『皇太子はクズ、最初からわかっていたことだろう。それより書を開け、光っているぞ』

「すまん、アンタの声を聞いたら頭の血がめぐってきた」


――――――――――――――

- 粛正 -

 【汚れた富を300000クラウン盗め】達成

 ・達成報酬 AGI+100(取得済み

『そなたは人に不幸をまき散らしてきた連中に天罰を与えたのだ。我が輩が称えてやる。そなたは正しいことをした。さらわれた獣人を救い、邪竜ジラントの代わりに罰を与えた。見事な働きだった』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 粛正 -

 【汚れた富を100万クラウン盗め】 262000(繰越分)/ 1000000

 ・達成報酬 空間探知LV+1

『特別に空間探知LVの説明をしてやる。これを手にすれば、壁の向こう側の様子が何となく判るぞ。モグラ男としては欲しかろう』

――――――――――――――

 

――――――――――――――

- 目次 -

【Name】アシュレイ

【Lv】29

【Exp】4085→4155

【STR】56

【VIT】147

【DEX】124

【AGI】106→206

【Skill】スコップLV5 

    シャベルLV1

    帝国の絆LV1

『体力バカと言えなくなってしまったわ、ククク……』

――――――――――――――


 そういえばこんな項目もあった。

 そうか、これが棚からぼた餅というやつか。ただでさえ機敏なこの身体が倍のスピードを得たのか。


 これなら皇太子から追っ手をかけられても、馬無しで逃げられるかもわからん。

 俺が生き延びる確率が多少上がったということだな。


「アンタに心配されるとはな……。大丈夫だ、俺は迷わない。やつらは倒されて当然の悪だった」

『この金はどうする?』


 邪竜の書にジラントの言葉が浮かび上がる。

 彼女とこうして対話すると、迷いが決断に変わってゆくようだ。


「このままだ、ここに捨てる。こんな汚れた金、世に出せば何を引き起こすかわからん。何より……組織から金が消えた。この事実の方がここにある財宝よりも価値が高い」

『うむ、ではそうせよ。宝石も、黄金も、元は地底にあったものだ。世から消えたところで、それはあるべき世界に還っただけのことよ』


 まあそういうことだ。俺は目の前の財宝に土をかぶせて、誰の目にも触れない世界へと埋葬した。

 いつの日か誰かがこの宝を発見するかもしれん。


 その頃には財宝にかけられた呪いも解かれているだろう。

 こんな物のために、家族と家族が引き離され、人一人の人生が奴隷生活に変わる。


「俺は悪の組織を倒した。そうシンプルに思うことにしよう」

『さすがにシンプル過ぎる気もするぞ。だが間違ってはおらん。そなたは悪の組織をやっつけた。よくやったな、我が使徒アシュレイ』


「すっかり使徒扱いだな。現金な竜もいたものだ」


 全て埋めた。俺は呪われた黄金の眠る地下世界を立ち去り、真夜中の宮殿に帰るわけにもいかないので、またあの酒場宿の厄介になるのだった。



 ◆

 ◇

 ◆



「よぅシンザ、女の家から追い出されでもしたかぁ……?」

「バカ言え。それよりシグルーンは戻っているか?」


「ああ……そのことだけどなぁ、お前フラれたみたいだぞ。ほら……」


 酒場宿に戻ると、口の悪い宿主に藁半紙の手紙を渡された。

 中にはシグルーンの署名と共にこうある。


『南に行ってくる。戻ったら一杯やろう、約束だ。』


 手紙で一方的に言うのは約束とは言わん。

 それを懐に収めて、俺は酒の入った宿主に目を向けた。


「南に行くそうだ」

「そりゃいい、しばらく平和だ。ああ、忘れるところだった、コイツは姉さんからの奢りだ」


 陶器の杯に少量の火酒が注がれてカウンターに置かれた。

 どうもアイツの流儀はわからん……。ソイツを立ったまま一気にあおって杯を宿主に返した。


「はいお疲れさん。部屋空いてるぜ、泊まってくんだろ?」

「頼む」


 シグルーンが一緒ならヤシュの身も安心だ。

 荷馬車の中でシグルーンが落ち着きなく暴れ、ヤシュが戸惑う姿を想像しながら、俺は酒場宿のベッドで眠りについた。


 シグルーンは糸が切れたタコだ。自ら嵐を引き起こし、南への旅路を大冒険へと変えるだろう。

 正直に言えば、付き合えないのが残念だ……。


――――――――――――――

- 粛正 -

 【獣人を守り、原因を排除しろ】達成

 ・達成報酬 方位感覚Lv1(取得済み

『そなたはもう方角を間違えない。いつでもその肌で東西南北を把握し、目的の地へとその地下トンネルを繋げるであろう』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 目次 -

【Name】アシュレイ

【Lv】29

【Exp】4155

【STR】56

【VIT】147

【DEX】124

【AGI】206

【Skill】スコップLV5 

    シャベルLV1

    帝国の絆LV1

    方位感覚Lv1

『しかしシグルーンも変人だな……。ああも簡単に己の日常を捨てられる人間を、我は知らんぞ……』

――――――――――――――


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