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9-6 困ったときは女豪傑だと気まぐれが言う

 冒険者ギルドには危険な仕事が集まる。

 危険な仕事が集まるところには、他より羽振りのいい街が生まれる。それがこの場所だ。


「おやぁ……女をほっぽってどこ行くのかねぇ」

「ギルドだ。もし黒角のシグルーンが現れたら、あの部屋に通しておいてくれ」


「ああ、あの女かぁ……。いや羽振りはいいんだがねぇ、色々とねぇ、困った姉さんだよ」

「やはり知っていたか。今どこにいるかわかるか?」


 シグルーンという女豪傑は姿もあって目立つ。

 かつ、どこに行っても騒ぎを起こす。宿の主なら知らぬわけがない。


「わからんねぇ、戻ってきてるとは聞いたが……ま、お盛んなことで」

「ん? ああ、まあとにかくそれで頼む」


 何か勘違いされているような気もするが、これからの目標とは関係のないことだ。

 酒場宿を出ると、そこより程ない距離にある冒険者ギルドに立ち寄った。


「ん……何やってんだお前? まさか飲みに来たとか、そういう冗談は止めろよ、シンザ?」

「アンタか。アンタこそいつもここにいるな。もしかして同じ顔をした双子でもいるのか?」


「ハハハ、お前らしいおかしな冗談だぜ。で、何しに来たよ?」


 受付には立ち寄らず、シグルーンの姿を探してギルド内をさまよっていると、いつもの無精ヒゲの受付に見つかった。


「黒角のシグルーンを探しに来た」

「ああ……姐さんか。姐さんにお前さんがなぁ……」


「なんだ?」

「いやおかしな組み合わせだよな、お前ら。どっちも変人だけどよー、戦う文学青年のお前さんとよー、あのパワー系ゴリラがつるむなんてよぉー。世の中やっぱ不思議だぜ……」


 彼は席の一つにどっかり腰掛けて、向かいに座れとテーブルを指さした。

 それに従って、俺もアルコールの匂いが染み付いたイスに尻を落ち着かせた。


「確かにそれは否定できん。だがシグルーンとは不思議と波長が合うのだ」

「ふーん……だがありゃ有角種だ。俺たちが爺さんなった頃には、ようやく中年になるくらいの寿命の長さだぜ。真剣にお付き合いするには、ちと難しいんじゃねぇかね」


 有角種は俺たちの2倍も3倍も長寿だ。

 しかし受付の言っていることの意図や意味がわからん。


「よくわからんがあの性格だ。ヤツが天寿を全うできると考える方がナンセンスだ。それよりシグルーンは――」

「ああ、そいつはもういい。うちの小僧に呼びに行かせてる」


「驚いた。いつの間に……」

「何せお前さんらはうちの上客だからな、次はでかいの頼むぜ、シンザ」


 知らぬうちにギルドから一目置かれていたようだった。

 そういえば邪竜の書がでかい仕事を受けろと、俺に催促していたな。


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ギルドで1万クラウン以上の仕事をこなせ】

 ・達成報酬 EXP600/[帝国の絆LV+1]

――――――――――――――


 良い機会だから冒険者仲間を増やせと、ジラントがお節介な注釈を加えていたな。


 帝国の絆LVが上がれば、それだけ遠方の商人キャラルや射手カチュアを支援することにもなる。

 よってこちらの手が空いたら、何か受けてみるのもいいだろう。


「止めてくれ。買いかぶられると、その後の暴落が恐ろしい」

「よく言うぜ。シグルーンの姐さんとお前がケンカしたら、どっちがつええんだろな。そうだ、来たらちょいと挑発してみてくれよ。そしたら店も賑わう」


「アンタな……。彼女をこれから頼るのに、挑発するバカがどこにいる……ん、酒?」


 ギルド酒場には美人の給仕がいる。

 その子が蒸留酒を俺たちのテーブルに置いた。


「うしっ、乾杯だ」

「おい、昼間から人に酒を勧めるな……」

「一杯だけだかんねー。受付が酔っぱらってたら、仕事になんねーっつのー。あ、シンザさん飲まないなら後でアタシが飲んどくからねっ、キャハッ♪」


 対処に困るコケティッシュなスマイルと、給仕らしからぬ言いたい放題に返答を戸惑えば、酒場女は席から立ち去っていった。


「ケッ、シンザが残したら俺が飲むっつーの。そいじゃシンザ、姐さんが来るまでお喋りしようぜー、お喋りをよー」

「あ、ああ……。しかし俺のどこがそんなに気に入ったんだ……」


「そりゃ、バカ正直で金になりそうなところかね。命かかってるからな、ここの連中は金にうるさいのよ。お前さんとシグルーンはその例外ってわけだ」

「黙っていればいいことを、よくもまあそれだけズケズケ言うものだな……」


 こうしてその後シグルーンが現れるまで、俺は酔っぱらいにからまれて火酒を3杯も飲まされたのだった。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



「おっと、もう交代か。それじゃまたなシンザ、シグルーンのペースに飲まれるんじゃねーぞ」

「アンタに言われてもな……」


 だいぶ待つことになったが、ギルドの子供がシグルーンを連れてきた。

 受付が上機嫌に席を立ち、やってきたシグルーンにハイタッチして仕事に戻っていった。


「来たぞシンザーッ、まずは乾杯だな! 火酒を頼む!」

「もう3杯飲まされた後だぞ……」


「3杯? 子供の咳止め程度ではないか。それよりシンザッ、わざわざ拙者を探しに来てくれるなんて感激だぞーっ!!」


 テーブルに火酒が一杯ずつ配膳されたので、やむなくチビリと舐めた。

 俺はここに何をしにきたんだったか……。


「シグルーン、これを飲んだら場所を変えよう」

「フッ、何を今さらまどろっこしいことを! お前が拙者に会いに来たということは、まあそういうことだ。まずは景気付けに付き合え」


「わかった。今日はアンタの奢りだな」

「もちろんだとも! 乾杯!」


 乳のでかい女が身をテーブルに乗り出して、既に空になっていた酒杯を俺の物に押し付けた。

 早いところ外に連れ出さないと、受付が心配したように、シグルーンのペースに飲まれそうだな。


 そこで俺は己の酒杯を空にすると立ち上がった。


「アンタに紹介したい人がいる。宿まで来てくれ」

「む、もう行くのか……? これでは景気付けの、けの字までしか行ってないぞ。おい、引っ張るな、珍しく強引だな……」


「悪いな。俺は酔っぱらいの言葉は信じないことにしているんだ」


 結局、シグルーンの代わりに金をカウンターに置くことになったが、俺は彼女をあの宿に連れ込むことに成功した。


寝て起きたらファンタジー日刊に浮上していました。

応援ありがとうございます。pt4桁到達いたしました。

ストック確保がんばってまいります。

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