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9-1 苛烈のペルソナとその本性(挿絵あり

前章のあらすじ


 アシュレイの父、皇帝フェルディナンドは己の人生を深く後悔していた。

 愛した女の命と引き替えに生まれた命、アシュレイから逃げ続けた己の人生を悔いていた。良い皇帝であろうとしたが、決して良い親ではなかった。


 そんな死の病床にある皇帝の前に、邪竜ジラントが現れる。

 ジラントはアシュレイこそが皇帝家の純血の証で、彼の息子であることと、この先もアシュレイを見守り続けることを保証した。


 アシュレイを皇子と認め、正しい継承権を与えよ。

 ジラントに救いを見い出した皇帝は、彼女に全てを賭けることにした。


 ・


 帝都に帰国した翌日、アトミナ皇女がアシュレイの正装がないと騒ぎ出す。

 アトミナのお側付きとなったドゥリンがアシュレイを呼びに行き、彼のための正装を用意してくれることになった。


 士官学校時代のゲオルグが着ていた服が、錬金術の魔法で作られた金糸と銀糸で仕立て直され、アシュレイはそれを着て、皇帝のいる赤竜宮を訪れる。


 そこで親子が対面し、父親が今日までの冷遇を謝罪した。

 それに対してアシュレイは、今日まで自覚していなかった激情を彼に吐き出していた。

 言葉ではわかっていても感情ではまだ父を許せない。


 領地と7番目の継承権がアシュレイに与えられることになっていたが、彼はそれを受け取らず、皇帝の子を名乗る自由だけを受け取って立ち去った。


 翌日、アシュレイは冒険者ギルドに向かった。

 帝国にはびこる闇。それは皇帝の病が引き寄せた。


 この先の激動を生き延びるために彼はさらに強い力を望む。

 アシュレイは己が受け取るはずだった領地、エリン付近の薬草採集依頼を受けて、ギルドを発つ。


 現地にて採集を進めていると、アビスハウンド2匹が森に入り込んだ子供を奪い合っていた。

 子供をまず保護して、アシュレイが残ったアビスハウンドと死闘を繰り広げる。


 しかし鉄すら断つアシュレイのスコップは、アビスハウンドとは相性が悪い。それを見ていたジラントはじれ、己の力を貸して一度だけ攻撃に氷の力を授けて敵を即死させた。


 ところが逃げた方のアビスハウンドがそこに戻ってくる。その怪物と交戦を重ねると、突如として黒角のシグルーンが現れて、地獄の大狼をしとめていた。


 再会した彼らは一晩エリンの村に泊めてもらい、付近の海運都市ナグルファルに向かう。

 そこでアシュレイは、ナグルファルを回るという邪竜の書のノルマをついに達成した。金のないシグルーンにたかられながら。


 翌日、シグルーンと別れてアシュレイはナグルファルを去る。だがその道中、彼は継承するはずだったエリンの地に思わず立ち寄っていた。

 その地でアシュレイはエリンの厳しい現実と、帝国の腐敗を再び目撃する。


 彼は帝都に帰り再び父親と面会すると、父が死去したら帝国を去るという前提で、領地と継承権を受け取ることにした。


 父親の罪を許し、感謝を告げて、アシュレイは今日まで守ってきてくれたゲオルグとアトミナのために覚悟を決めたのだ。


 皇帝の命尽きるまで、アシュレイは鬼となって悪を屠ると心に誓った。

 己は皇帝家の闇。闇は闇として、闇のやり方で帝国の悪を屠ると。


――――――――――――――――

 灰と狼の円舞曲

  帝国の闇を払えと奇書が言う

――――――――――――――――


9-1 苛烈のペルソナとその本性


 不思議と言うべきか、釈然としないと言うべきか。

 父上との会見を終えて赤竜宮を出ると、身体も空気も何もかもが軽くなったかのような、奇妙な錯覚を抱いた。


 まるで世界そのものの組成が変わってしまったかのように、何もかもが幼き頃の新鮮さを取り戻していた。


 長らく嫌っていたこの宮殿が、歴代の芸術家たちの努力の結晶に見える。

 特にこの庭園と回廊がいい。開放感があって美しく、俺はつい足を止めてぼんやりと眺めてしまっていたようだった。


「さすがのお前も疲れたか。どんなに鍛えようとも、気疲ればかりはどうにもならんな」

「いや、父上にはもうそういった感情はないようだ」


 隣にゲオルグ兄上がいたのを忘れていた。

 兄上という人間は、その必要がなければ人に厳しくなどあたらない。目を向ければ、昔のやさしかったゲオルグ兄上の姿がそこにあった。


「本当か? そうか、それは良かった……。ようやく、肩の荷が下りた気分だな……」

「ああ、アレは――あの人は俺の父親だ。今さらそんな実感が湧いてきてな……。だからな、父上が望むなら、また会ったっていい。堅苦しいのはもう無しでな」


 そんな兄上がなぜ変わってしまったのかも、また少しだけわかったような気がした。


「おい……相手は父である前に皇帝だ。むしろ安心させるのもかねて、次はもっとキッチリしろ」

「不可能だ。そんなもの習っていないからな」


 兄上は士官学校に入学し、そこで何かと直面して変わった。

 しかしその結果を作り出した1ピースは、皇子という特別な地位にある。


 皇帝の子として、己の役割を生真面目に受け止めれば受け止めるほど、それは重責となって精神にのしかかる。

 だから兄上はやさしさを人に振りまくのを止めて、胸に押し込めた感情を行動で示すようになった。


「くっ、このままではダメだな……。こうなると、む、そうか、まずは家庭教師を付けるべきか……」

「まさか俺の話か? 断る、そんなことをしている暇はない」


 要するに兄上が俺に対して苛烈なのは、抑圧するしかない強い感情ゆえだ。

 アトミナ姉上がそうであるように、兄上は俺を愛している。姉上とはまた違ったひたむきさでな。


「お前は領主になるのだぞ! それも帝都を守る隠し刀のようなものだ! 最低限の儀礼と教養を――」

「それはまた気の遠くなる話だな。来るべき時が来たら俺は帝国を去る、こればかりは絶対に譲らん」


「フッ、ならばその後困らぬように、みっちり基礎教養を付けなければな」

「しつこいな、ならやれるものならやってみろ、俺は教師になぞ会わんぞ。俺の教師は(コレ)だ、人ではない」


「言ったな! やれるものならやってみろ、今お前はそう言ったな、アシュレイ!」

「ああ、諦めてくれ。俺にはもう最高の先生が付いている。家庭教師などいらん」


 まずい雲行きだ。俺はただちにゲオルグと別れて、追って来られては困るので城外に行方をくらました。


 人間は無意識の中に多くの重荷や、(とが)を抱えて生きている。

 どうやら俺の無意識は、今日までの不遇な扱いに、深い不満を抱えていたらしい。


 父親にすら忌まれることが、本当の俺は苦しくてたまらなかったようだ。

 俺はそんな無意識から解放された。俺はゲオルグ兄上の弟だ。


 第七位というあるべき継承権を得た今、俺は弟として兄上を慕う正統な権利を得た。その事実はどんなことよりも喜ばしい。


 ならば今日兄上が見せた笑顔を失わぬためにも、俺はさらなる高みを目指さなければならなかった。


 宮殿を抜け出した頃には西日が輝いていた。

 そこで俺は冒険者ギルド近辺にある酒場宿に入って、明日からを本番にすることに決めた。


 今日はここのやかましいダイニングで、異界の本でも読みながら明日への滋養を蓄えよう。

 腹が満たされ、読書により夜が更けると、俺は部屋に移って重いまぶたを閉じた。




挿絵(By みてみん)

 ジラント・ミニキャラ版

毎回、章の始めがあらすじに圧迫される仕様ですみません……。

ミニキャラジラント、愛でていただけたら幸いです。

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[一言] >毎回、章の始めがあらすじに圧迫される仕様ですみません……。  それは必要に応じて読めばいいから、別にいいのですが、既に何度も語られた主人公の性格の頑固さやスタンスについて強調する同じよう…
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