8-8 もう一度エリンの地へ - 帝国の絆 -
昼食をはさみ、夕方前まで作業を進めると、彼ら一家の耕作地はこれまでの倍に広がった。
林が消え、山へと続く勾配がスコップによる力業で平坦に造成し直されると、そこに立派な耕作予定地が完成したのだ。
「お父さんお父さん、これ見て! お兄さん凄い、凄いの!」
「あのねっ、森がね、なくなっちゃったー!」
驚かせたかったのでな、一仕事終わるまでけしてのぞくなと念を押していた。
夫婦はそんな俺の奇行を疑いもせず、真正直にも言葉に従ってくれた。
その証拠に子供たちがここに案内するなり、夫婦はそろって口をあんぐり開いたまま、ただただ立ち尽くす姿を見せたからだ。
「夢だ……。こんなことが、起きるわけ、そんな、バカな……」
「あなたっ、夢じゃない、これ現実よ! ここを新しい畑にすれば、私たちもっとちゃんとした生活ができるわ!」
やってみると悪い気分ではない。
これこそがスコップの力だ。相手を倒すだけではなく、地形そのものを変えることができる万能の力だ。
「シンザ様……。あなたは、まるで、巨人ベルゲルミルの、化身のようだ……」
「喜んでもらえて良かった。では驚かせたところで悪いが、少し情報収集をしてくる」
帝国の象徴の一つ、ベルゲルミルになぞらえられるのはさすがに気恥ずかしい。
けれど俺の愛するスコップの有用性を認められたことが嬉しくて、俺は調査を済ませた後にもさらに裏の林を切り開いてみせたという……。
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- 開拓 -
【エリンを開墾しろ】
・達成報酬 耕作LV+1
・『まさしくそなたは霧の巨人ベルゲルミルの化身よ。森と山を動かし、川すら運ぶ力を持ちながら、霧のように姿を消してしまうのだからな』
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痛めつけられた村人によると、彼は街道に露店を開いて、自家製の蜂蜜をただ売ろうとしただけだったそうだ。
しかしその現場を例のヤクザ連中に見つかって、ヒャマール商会に格安で卸せと、暴力で従わされた。
流通の独占を望むやつらにとって、エリンのちっぽけな村人が蜂蜜を売ることすら、許されないことなのだろうか。
倉庫荒らしの一度程度ではやつらの暴走が止まらないというなら、俺はやつらに対する考えをあらためるべきなのかもしれん……。
まあ暗い話はさておき、一日遅れで帝都へと帰還した俺は、冒険者ギルドに赴いて薬草採集クエストの報告をした。
「ようシンザ、遅かったんで化け物に食われたかと思ったぜ」
「危うくそうなるところだったのかもしれん。いや、実はナグルファル観光を楽しんできてな」
納品先からの書簡を渡す。すると封を開いて中をのぞくなり、彼は小さな感嘆を上げた。
続いて触るだけで痛そうな無精ヒゲだらけの顔を撫でて、ニヤリと俺に笑う。
「報酬を倍払えってよ。ほら、ってことはよ――700クラウンだ。受け取れ」
「それは助かる。シグルーンに何かとたかられてな」
「シグルーンと会ったのか、ははは、そりゃご愁傷様だな。って、また光りだしたなこの野郎……。おいお前ら見ろよ、シンザがまた光ってやがるぜ!」
これも最初からわかっていたことだ。
クエストを達成したことにより、邪竜の書の条件を満たした。ゆえに俺は光った。光って何が悪い。堂々と光った。
「ギャハハハハッ、兄ちゃんそれ久々だなぁ~!」
「ダンジョン探索も、シンザがいればカンテラ要らずだなぁっ!」
「よっしゃっ、光ってるにーちゃんに乾杯! おめでとう! 光っておめでとうシンザ!」
こいつらが人に失礼なのは生まれつきだと思うしかない。
デリカシーがないだけで、根はただの気のいい酔っぱらいだ。そう思うことにしよう。
「いつもまぶしくてすまんな。光ったらまた祝ってくれ」
「おう、またこいよシンザ! 次はでかい仕事受けてもらうからなっ、そのつもりでいろよ!」
「忘れてなかったのか……」
「ならおっさんたちと一緒に組もうぜシンザー! お前となら楽しそうじゃねぇかよぉーっ!」
人と一緒のでかい仕事、まあそれもいいだろう。
騒がしい連中への挨拶もそこそこに、いつだって突然光るホタルさんはギルドを出て、裏路地にて奇書を開いた。
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- 冒険 -
【冒険者ギルドで仕事を3つ達成しろ】(達成)
・達成報酬 EXP450/???[帝国の絆LV1](取得済み)
・『詳しくは約束の地にて語ろう。この力はそなたと、そなたの周囲の者の可能性を広げる力だ』
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- 冒険 -
【冒険者ギルドで1万クラウン以上の仕事をこなせ】
・達成報酬 EXP600/[帝国の絆LV+1]
・『良い機会だろう、冒険者仲間を増やせ』
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- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】22→25
【Exp】2735→3185
【STR】45→50
【VIT】131→138
【DEX】111→117
【AGI】93→100
【Skill】スコップLV4
シャベルLV1
帝国の絆LV1
『どんなに強くなろうとも一人では戦い抜けん。巨人ベルゲルミル伝説の元となったある男もそうだった。仲間を持て、新たな霧の巨人よ』
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[帝国の絆LV1]だそうだ。
よくわからんが、この書がくれる力なのだ。さぞやとんでもない効果なのだろう。
再びあの楽園のような世界で、ジラントと顔を会わせる日が楽しみだ。
別に、彼女のサービスを受けたり、この前の[ジラントの愛]とかいう報酬が欲しいわけではないがな……。
明けましておめでとうございます。




