8-7 海運都市ナグルファルでのやり残し - ユランとジラント -
「うむ! 昔々、あるところにな……。やさしい竜の神様と、悪の創造主がいたのだ」
「悪、だと?」
「そうだ。伝説では、この世界の創造主は、種族を生み出しては失敗作と見なして滅ぼす、とんだ馬鹿者だったそうだぞ」
悪の創造主。それは国教会の教えとはほど遠い存在だった。
国教会の教えでは神は何もかもが完璧で、全てを救う完全な善性を持った存在として描かれている。
そんな人間を救うはずの神様が、俺たちを生み出した存在が、実は悪だったのだとシグルーンが言うのだ。
「だから竜の神様は、我々有角種の祖先と、エルフと巨人族を哀れんだ。そしてある日、竜はその悪の創造主を騙し、天の牢獄に封じ込めたそうだ」
反面、納得できる部分もある。
国教会の教えにある神は、あまりに人間にとって都合が良すぎる。
仮に神を物語の語り部とするならば、神は俺たちを救うのではなく、悪の創造主としてきっと、面白おかしく弄ぼうとするだろう。
「その後、その竜はどこに行ったんだ」
「天を捨てて、祖先と共に地上で暮らしたと聞くぞ」
それがジラントなのだろうか。いや、肝心な情報を聞いていないな。
「その竜は何色だ」
「む、色か?」
「そうだ、色を知りたい。どんな色の竜だったのだ」
「竜か。竜をいつか狩ってみたいなぁ……。伝説上の生き物とはいえ、惹かれるものがあるなぁ……。拙者ならきっと、勝てると思うのだ」
そうだな。アンタなら竜すら倒せるかもしれんな……。
アビスハウンドの毛皮すら貫くその馬鹿力だ。竜の鱗などなんでもないだろう。
「脱線するな。色を教えてくれ。それと名前だ」
「色と名前なぁ……。むぅー、なんだったかなぁ……先代に聞いたような気もするがなぁ、忘れたぞ」
「思い出せシグルーン、カチュアに話したときは覚えていただろう」
「うむっ、悪いが思い出せんぞ。今日は頭の繋がり悪いようだ」
ならそいつは没収だと残りの小イワシをふんだくる。
しかしそうはさせんと、シグルーンは食い意地のままに己の口腔へと全てを押し込んだ。
これはしばらく喋れそうもないな。鼻だけで彼女はなぜか勝ち誇っていた。
『やれやれだな……』
ところが耳元にジラントの高い声が響いて、俺を背後へと振り返らせた。
姿はない。全てを見物していた竜は、また頭の中に直接声を吹き込んできたようだった。
『ユランだ。その竜の名は竜神ユラン、そしてそれは我が輩ではない』
俺の詮索と、記憶があやふやなシグルーンに、いてもたってもいられず口を挟んできたのだろうか。
そうか。アンタじゃなかったのか。だが関係はありそうだな、ジラントよ。
「ユランか?」
「そうっ、それだ、ユランだ! はぁ~~、スッキリしたぁ~♪」
「悪いがまだ終わりじゃない。では、ジラントという名は知っているか?」
「知らん」
「そうか」
知らんと言われてはおしまいだな。
歴史、いや神話の時代に存在した竜とは別の竜とあっては、ますますジラントの存在がわからなくなってくる。
そもそも、ジラントと初めて出会った地下空間は、今もこの世に存在しているのだろうか。
地下にあんなに広い場所があるだなんて妙だ。全てが幻のようにも感じられた。
「そうだ。それよりシンザ、あそこで酒を売っている。昼飯も食べたことだし、そろそろ一杯やろうではないかっ」
「俺の目的はナグルファルを回ることだ、酒はやらん」
「ちょっと栄養を付けるだけではないかー!」
「なら良いことを教えてやる。酒は栄養ではない」
「まあ細かいことは一杯飲んでから考えよう、そうしよう! よし、金をくれ!」
酒を飲ませれば何か思い出すだろうか。
いや、だがな、考えようによっては豹にマタタビを与えるようなことにも、なるのではないか……?
「本気なのか……。言っておくが俺は付き合わんぞ」
「それこそ本気かぁ~? 酒も入れずによく生きられるもんだなぁ……信じられん」
諦めて金を渡すと、シグルーンはヒョウタンを容器にしたエールを2つも買ってきた。
そいつを歩きながら、美味そうにグビグビとやる姿は、冒険者と呼ぶよりもやはり豪傑という言葉がよく似合った……。
◇
◆
◇
◆
◇
――――――――――――――
- 探索 -
【海運都市ナグルファルを1周しろ】(達成)
・達成報酬 EXP100/VIT+5(獲得済み)
・『我もアワビと貝柱が食いたい。もっと書の望みを叶えよ、それこそが我のアワビへの道だ』
――――――――――――――
――――――――――――――
- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】22
【Exp】2635→2735
【STR】45
【VIT】126→131
【DEX】111
【AGI】93
【Skill】スコップLV4
シャベルLV1
『パエリアでもいいのだぞ……?』
――――――――――――――
人のことなど言えんがジラントよ、アンタも大した食い意地をしているな。
ああ、キャラルと食ったあの魚介のパエリアは忘れられない味だ。美味かったぞ。
「ふにゃぁ~? シンザァ~、お前なんで光ってるんだぁ~?」
「人間が光るわけがないだろう。よって、アンタが酔っぱらってるだけだ」
「拙者にとって、シンザは光って見えるくらい……良い、男……ぐぅ……」
「立ったまま寝るな……」
光るホタルさんは酔っぱらいに肩を貸して、乳を何度も押し付けられながら、宿へと重いお荷物を運んだそうだ。
変に気を利かせた宿主に、ダブルベッドの部屋に案内されかけたがな……。




