7-3 天罰を下せ 邪竜ジラントの名において - 帝国最強の男 -
「エ、エイブラハム様ッ、大変です、館に侵入者が、現れました!」
「返り討ちにしろ!」
するとすぐに塔の下り階段側から伝令が現れた。
何か下でとんでもないことが起こっている。そういう必死の形相だ。
「そ、それが……恐ろしく強いのです……!」
「ならマゴマゴしてないで増援を呼べ、そいつらはどこの連中だ!」
「違います、単騎ですっ! 恐ろしく強い騎馬兵が現れて、太刀打ちできません助けて下さいエイブラハム様!」
「助けて欲しいのはこっちだ! ええいっ何がどうなっている! はっ、アトミナは!?」
「そ、それは……」
俺たちに知れるとまずい。伝令の顔にはそう書いてあった。
どちらにしろここは石弓と石弓による膠着状態だ。俺は制圧した悪党から離れて、塔の窓に近付き下を見下ろした。
「恐れ入ったな……。美味しいところを全てかっさらわれたか……」
「何を言っている、何が来たというのだ! まさか伝説の、悪夢の鎧が攻めてきたなどと言うなよ!」
「いいや、アレはそれすら生ぬるいバケモノだ。あの騎馬兵を敵に回すくらいなら、俺はその悪夢の鎧の方を選ぶな」
決着はもう着いたも同然だ。スコップを肩から地に下ろして、俺は窓の外を見ろと、立ち上がったエイブラハム前公爵を指でこちらに誘った。
「バカを言え! たった一騎で何ができ――げぇぇっっ、あ、あの男はまさかっ?! それにあれは……ああああああ……?!」
「ぁ……ぁぁ……見てくだしゃいジェイク様! あれは、アトミナお姉さまでしゅ!」
「本当かっ!?」
塔の下の広い芝生に、無数の近衛兵たちと一騎の騎馬がいた。
長槍を振り回す騎馬兵は今も次々とここの近衛兵たちを片付けている。その鞍の後部には、なんとアトミナ姉上の姿があった。
「今度こそチェックメイトだ。まああの男と戦いたいというならば、俺も止めはしないが、アレだけは止めておいた方がいい」
兵たちは騎馬兵を取り囲むが、もはや及び腰で、戦う気があるとは思えない長い距離を取っている。
正しい判断だ。馬に乗ったあの男と戦うのは俺も遠慮したい。
「なぜならあの男の名は、ゲオルグ・グノース・ウルゴス。俺の兄上にして、帝国最強の男だからだ」
「げ、ゲオルグ将軍……?」
「そうだ。アンタたちは今、ゲオルグを敵に回している」
たったそれだけで、俺たちに向けられていた石弓がエイブラハムという悪党にまとめて向け直された。
兄上には恐れ入ったな。まさかここまで兵たちの間で鬼神のように恐れられていたとは。
「その男に勝ち目はもうない! 兵たちよ、反逆者を拘束しろ!」
これにて一件落着だ。悪党は拘束され、矢と剣を向け合う膠着状態は説かれた。
すぐに塔の下の連中にも、投降したエイブラハム前公爵からの戦闘中止命令が下され、裏切りと同士討ち、陰謀にまみれた戦いが終わりを告げた。
俺たちは塔を下り、救援に来てくれたゲオルグと、アトミナ姉上の無事を喜ぶのだった。
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「ところでジェイク義兄さん、一つ確認しておきたいことがある」
「ん、どうしたんだい、アシュレイ……?」
ちょうどそこに全ての顔ぶれが集まった。ならば今以外にないだろうと俺は思う。
空気を読まんやつで本当にすまん、姉上。
「率直に言おう。姉上と離婚するのか?」
「っっ……!?」
「あ、アシュレイッ、なんてこと言うのよっ!?」
わかってはいたが場が凍り付いた。
陰謀と裏切りを俺たちは切り抜けた。しかしだ、姉上たちの問題は終わっていない。
そもそもの全ての発端はそこだったのだ。
ならば、どうにかしておかなければ、同じような陰謀が繰り返される。
「こんな美人、ひとたび手放せば、他の男のものになると相場が決まっているぞ。それでも別れるのか?」
「場の空気の読めんやつだ……。さすがにそれは、アトミナに嫌われるぞ……」
すまん兄上。ただ俺は確認がしたいだけだ。
前公爵という悪党は排除した。しかし塔の頂上でジェイク義兄さんと話した限りでは、この問題は何も終わっていない。
「姉上と折り合えるのかと聞いている」
「アシュレイッ! そ、そんなの……余計なお世話よっ!」
この地の荘園の民を奴隷扱いするのを止めると言うなら、全て丸く収まる。
だがそうじゃないと答えるならば、ここに姉上を置いてはいけない。
「姉上は曲げない。ならアンタがどうするかだ、決めてくれ」
「アシュレイ、君は意外と、強引なところもあるんですね……。そうですね、どっちにしろ避けては通れない。アトミナの言っていることは正しいですよ……。ゲオルグ皇子の言葉もです。行き過ぎた荘園の拡大は、民に貧困を招き、奴隷に変えてしまう……。だがそれによる莫大な富を手放せば、アイオン公爵家は衰退する。すみませんが、やはりアトミナの願いは受け入れられません……」
ジェイク義兄さんは姉上に目を向けない。
それは姉上もだ。口論する気はないが、そこだけは絶対に譲る気が無いのが、どちらからも態度で見えた。
「そうか。ならば姉上は連れて行く。アンタ、本当にそれでいいのか……? アンタは、昔からそんなに悪いやつとは思えない」
「それでも貴族には立場があるんですよ……。最高の妻よりも、家の存続と、領地の未来です」
「っ……。ごめんなさい、あなた……私も譲れないわ……。人が苦しんで、涙を流して収めた税で、ご飯を美味しく、笑って食べることなんて、私にはできないもの……」
姉上にはこのことで恨まれるかもしれんな。
だが構わん。俺を恨めばいい、俺は時計の針を進めただけだ。これ以上、叔母上に付け入られる隙を見せたくない。
「アシュレイめ、俺にできないことを平然とやってのけるとはな……。ドゥリンだったか、後でアトミナを慰めてやってくれ。それからもし嫌でなかったら、これからもずっと、友達でいてやってくれ」
「は、はいでしゅ! はひっ、ず、ずっとなのでしゅかっ!?」
さて、そうなると残る問題は1つか。
前公爵の口から情報が漏れることを想定すると、俺とアトミナ姉上が叔母上にケンカを売ったことが、いつかはバレてしまう形になるのだろう。
「ところでゲオルグ兄上、俺たちはこのまま帝都に帰してもらえるのか? 実はな、ついこの前叔母上に盗賊をけしかけられたところなのだ」
現行犯で現場を押さえたとはいえ、ドゥ叔母上にケンカを売ったのは事実だ。
俺が介入して、叔母上と前公爵がもくろんだ陰謀を晴らした。姉上以上に、今の俺はまずいだろうな……。
「そのことか。それなら大丈夫だ。お前の爺が説き伏せた」
「爺が? ドゥ叔母上をか? 到底従うとは思えんな」
よくよく考えると困ったな。辺境に逃げて、本気でジラント教でも興すか?
ところがゲオルグの仏頂面は俺の返答に、これっぽっちも笑わない。これはいよいよマズいのか……。
「違う、父上だ。全ては父上の命令により、俺たちが皇帝の勅命を果たしたことになる。アシュレイ、アトミナ、父上はお前たちの決断を支持してくれたのだ」
「う、嘘……あのお父様が私たちをっ!?」
父上が、俺を助けるだと……?
立場に縛られ、ゲオルグよりさらに融通の利かない父上が、叔母上との間を取り持つというのか……?
「アシュレイ。父上は、ドゥリンを救い出したお前を褒めていた。お前が真っ直ぐに成長したことを喜び、同時に危ぶんでいた。父上はお前に会いたがっている。これから帝都に帰ろう」
信じられん……。あの父上が俺と会いたがるなど、妙どころでは片付かない。
仮に父上が心変わりをしたとしよう。
だとしたら、その原因があってしかるべきだ。
「ゲオルグ。父上は、本当にご病気なのか……?」
ゲオルグは返事の代わりに無言で俺から目をそむけた。
否定しないということは肯定も同じだ。
病だ。それが父上を変えた。
長らく目をそむけ続けてきた忌み子と、今さら会いたいと言う。
それはこの国の皇帝が自ら、人生の清算を始めようとしているようにも、少なくとも俺にはそう見えてしまっていた……。
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- 粛正 -
【アイオン前公爵に天罰を下せ】達成
・達成報酬 我からの愛(未受け取り)
・『楽園にて貴様を待つ。愛をくれてやるから会いに来い』
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- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】20→21
【Exp】2390→2520
【STR】43→44
【VIT】120→123
【DEX】108→110
【AGI】88→90
【Skill】スコップLV4
シャベルLV1
『へそを曲げずに皇帝と会え。貴様はその玉座を受け継ぐ資格があるのだ』
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【邪竜の書】
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- 冒険 -
【冒険者ギルドで仕事を3つ達成しろ】1/3達成
・達成報酬 EXP450/???
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- 探索 -
【帝都をもう10周しろ】
・達成報酬 VIT+100
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- 探索 -
【海運都市ナグルファルを1周しろ】1/3
・達成報酬 EXP100/VIT+5
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- 事業 -
【ヘズ商会を成長させろ】
・達成報酬 DEX+100
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- 粛正 -
【悪党を5人埋めろ】残り2人
・達成報酬 EXP900/スコップLv+1
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- 粛正 -
【汚れた富を300000クラウン盗め】570 / 300000
・達成報酬 AGI+100
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- 投資 -
【合計1万クラウン使え】1877/ 10000
・達成報酬 EXP1000/出会いの予感
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分割の都合で、次話の文字数控えめになります。




