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7-1 偉大なる逃亡だと七男は言う - 逃避行 - (挿絵あり

前章のあらすじ


 帝都に戻るなり、ゲオルグより錬金術師ドゥリンが国教会の者にさらわれたと告げられる。国教会を敵に回すなと、ゲオルグに警告されるもアシュレイは止まらなかった。


 そこでアシュレイは己の小姓、爺の力を頼ってドゥリンの行方を調査させる。


 爺は不承不承で仕事を完璧にこなし、ドゥリンがアシュレイの叔母の、国教会の祭司長ドゥ・ネイルの離宮に幽閉されていることを突き止める。


 爺を引き連れてアシュレイは叔母の離宮に向かい、付近の釣り小屋から離宮の地下へと続く隧道を掘った。


 地下の雑居牢に幽閉されたドゥリンを見つけると、ドゥリンを脱獄させて、外で待たせていたアトミナ皇女と再会させた。

 誘拐という罪深い行いを罰するために、アシュレイは掘った地下道に湖水を呼び込み、地盤を水浸しにした。


 向かうべき逃亡先はアトミナの嫁ぎ先、アイオン公爵領。


―――――――――――――――――

 アトミナ皇女編

  陰謀と裏切りを暴けと竜が言う

―――――――――――――――――


7-1 偉大なる逃亡だと七男は言う - 逃避行 -


 アイオン公爵領は帝都より、南に馬車で三日の距離にある。

 叔母上の離宮からならば、急いで二日と少しでどうにかなる距離だ。


 簡単に逃亡計画の説明をしよう。

 驚いたことに、姉上が自ら御者となって馬車を運んできてくれた。

 俺たちはそれに乗って、姉上の夫が治めるアイオン公爵領に落ち延びる算段だ。


「な、なんですとっ!? 私を置いていくおつもりですかっ、酷いですぞ、アシュレイ様っ! 都合の良いときばかり、私を年寄り扱いするのは我が主人としてどうかと思いますぞ!」

「そうではない、伝令を頼まれてくれ」


「伝令っ、どこの何者にでございますかっ!?」

「兄上だ。それとヘズ商会の人間にも頼む。アイオン公爵がダメだったときの保険だ」


 感情では納得できずとも理屈は通っているはずだ。

 爺はこの後さらにゴネにゴネた後に、ようやく俺の願いを聞いてくれた。

 こうしてドゥリンを奪い返した以上、兄上の方も今さら俺たちのやることに反対などできない。何せ相手が相手だからだ。


 兄上は自分と同じ日、同じ腹から生まれた姉を必ず守ろうとするだろう。

 とんでもない堅物だが、ゲオルグというアトミナの弟は昔からずっとそうだった。


「アシュレイ様、必ず爺が迎えにまいりますぞ……。ですから、お願いですから、無理はされないで下さいませ……」

「ああ、この件が落ち着いたら考えよう。もうやってしまったのだ、ここからは気張るしかあるまい」


「あなたという人は、自分の命を軽く考えるにもほどがありますぞっっ!!」


 その後も爺から色々と注文と説教が続いたが、もちろんそんなものは省略しよう。

 こうして俺たちは爺と別れて、馬車室に小さなドゥリンを隠して馬を南に走らせた。


「あの……アトミナお姉さま、疲れていないでしゅか……? ドゥリンのために、ここまでしてくれるなんて……嬉しいけど、ぅぅ……申し訳ないでしゅぅ……」

「いいのよ。だってドゥリンのおかげで、こうしてみんなで旅行できるんですもの。……あっちに帰るのは、気が重いけれど」


 馬車は姉上と俺が交代で御者をした。

 わからんが、姉上の様子が少しおかしかったかもしれんな。


 まあ色々と察しは付く。ろくすっぽ嫁ぎ先に帰らずに、帝都の宮殿に入り浸っていたのは明らかにおかしいからな……。

 それでも姉上の言うとおり、馬車の旅はなかなか充実した開放感があった。


 異界の言葉で言うところの、偉大なる逃走ザ・グレート・エスケープだ。ドゥリンはさておき、俺と姉上は図太くもこの逃避行を満喫させてもらった。

 森林道、丘陵の山道、小麦畑の続く穀倉地帯に、大小の街々。見物には事欠かない。


 そういったわけだ。旅は驚くほどに順調に進み、急いだのもあって二日目の朝にはアイオン公爵領領内に入っていた。

 今は木漏れ日がチカチカと視界を横切る、静かな林道を進んでいる。こういった地形は警戒しておいて損はなかった。


「はぁ……」

「どうしたでしゅか、お姉さま?」


「ううん……。なんでもないわ」

「もしかして、ドゥリンがご迷惑で、うんざりしちゃったでしゅか……?」


「ふふふっ、違うのよ。ただ夫と、お義父さんと顔を合わせるのが、ちょっと気が重いだけ……。でもアシュレイが正しいと思うわ。ここなら大切な妹を守れるもの」

「ドゥリンは、悪い子でしゅ……。お姉さまの妹だなんて、そんな……だめでしゅ……。へ、へへへ……でも嬉しいでしゅ」


 馬車室の方で、最近では相変わらずの問答が繰り返されていた。

 姉上が向こうで上手く行っていなかったという話も、この二日間に何度も察する機会があった。


「姉上、俺たちは何も悪いことなどしていない。ドゥリンを悪党から救ったのだ、胸を張ればいい」

「……そうね。そうすることにするわ」

「ありがとうでしゅアシュレイ様。このご恩は、一生忘れないでしゅ」


「そんなつまらんもの忘れていいぞ。それはそうと姉上、公都はまだなのか?」

「もう少しよ、この林道を抜けたら大きな街が見えるわ、もうすぐそこよ。ふふふ、聞かん坊のゲオルグには、なんて言い訳しようかしらね。あら、アシュレイ……?」


 ふと御者席の高さから進路の彼方を見ると、何か木造物が道に並んでいた。

 見たことがないものだ。それに何か妙だ。次第に距離が縮んでゆくと、人影めいたものが目に映る。


「何か前にいる、気を付けろ二人とも。あれは――クソッ、バリケードだ! 待ち伏せされていた!」

「悪いオバちゃんが、ドゥリンを追いかけてきたでしゅかっ!?」

「そうはさせないわ! アシュレイ、あなたに任せたわ、なんでも命令して!」


 だてに兄上の双子の姉をやっていないな。

 アトミナ姉上は軍人でもないのに全くうろたえず、俺の判断を頼ってくれた。


 ここは林道だ。木々が邪魔して馬車はまっすぐにしか進めない。

 馬車から馬を外して、林の中を駆けるのも高い技術がいる。姉上とドゥリンには無理だ。


「わかった。姉上、御者席に来てくれ」

「わかったわ!」

「あのあのっ、ドゥリンはどうするですしゅかっ!?」


「相手に気づかれるとそれだけで厄介だ。悪いがアンタは毛布をかぶって、馬車の底で身を低くしておいてくれ」

「わ、わかったでしゅっ!」


 そうこうしていると姉上が御者席の隣に来て、向こうの姿も見えてきた。 

 てっきり己の私兵を使うかと思っていたが意外だ。それはどこから見ても、ただの街道の盗賊どもだった。


「ど、どうするのアシュレイッ、このまま突っ込むの!?」

「まさか、止まるに決まっている」


 突っ込もうとしたところで馬だって命が惜しい。

 そこで俺は少しばかしの距離を保った場所で馬を停止させて、御者席から降りた。


挿絵(By みてみん)

ちびキャラ挿し絵・友人のしーさん

 絵の感想もお待ちしております。新章でも熱い展開や、二人の出番が待っていますのでお楽しみに。

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