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5-7 皇帝の証だと竜が言う - 名も無き英雄 -

 翌朝、俺は村人に見送られてコリン村の東門に立っていた。

 少し寂しいがもうここにいる理由がない。


 人々は口々に感謝と賞賛を俺に投げかけて別れを惜しんでいたが、こちらとしては何度も聞かされたので、そろそろ聞くのに飽きてきていた。

 昨晩か? もちろんカチュアと寝た。冷え込みがきつかったので助かった。


「シンザ殿、ド田舎過ぎてまた来てくれとは言いにくいが――近くを通ったらまた寄ってくれ。その時までに村を建て直して、次はちゃんとした歓迎をしたい」

「救い主様! 偉大なる大英雄シンザ様! こちらは村からの献上品なんだにーっ、もってってくんろ!」


 村長が俺によこしたのは麻袋だ。中をのぞけば大小の琥珀が十数個も入っていた。

 琥珀は樹液が化石になったものだ。もろい性質もあって宝石としては安いのだが、俺は素朴で綺麗な物だと思う。


「シンザにお礼がしたいって、みんなの家からかき集めたんだよ! こんなにしてくれたのにさ、お金、全然払えなくてごめんね……」

「むしろ貰ってしまっていいのか?」

「良いに決まってるだ! またピンチになったらきておくれん!」


 彼らに感謝してバッグにその麻袋を入れた。

 中にはコリン村で購入した蜂蜜、トリュフ、小さな水晶も詰まっている。帝都で売ればそこそこの金になるだろう。


「おおそいやーそいやー忘れとったっ、カチュアを貰ってくれんかのぅ!」

「なっ――何を言い出すんだ村長っ、勝手なことをしないでくれっ!」


 爺の顔が恋しくなってきたことだ、さあ帰ろう。

 そう思っていたのだが、村長がとんでもないことを言い出した。叔父のラッキーさんが抗議するのも当然だ。人権意識というのが薄いなここは……。


「シンザ殿はカチュアを気に入っとるんだに。さ、どうぞどうぞ救い主様! また何かあったらきておくれんな!」

「村長っ、あんたという男はっ!!」

「いいよ。オレは――シンザがそうしたいって、言うなら、かまわないし……。それに元から帝都に行きたいんだからな、オレ!」


 俺はもう帰りたいのだ。だというのに村人たちがやんややんやと口論を始めた。

 賛成派と反対派に別れて、俺の意見を無視して大騒ぎだった。


「すまんが面倒を見れん、気持ちだけ受け取っておく。だがそうだな、もし帝都に来たらギルドに言づてを頼む。観光案内くらいはしよう」


 後半は黒髪の女射手(アーチャー)に向けて言った。

 それからこれ以上ゴネられても困るので、開かれた門に向けて歩き出した。


「待ってよっ!」

「待たん。――ぬぉっ?!」


 しかしカチュアのやつが俺の背中に飛びついてきた。

 背中に張り付いて、足を俺の腹に回してしがみつかれてしまっていた。


「連れてってよ! オレがシンザの面倒を見てやるからさ!」

「気持ちは嬉しいがそれはできん」


「どうしてさ! 帝都に行きたいんだ、オレはこんな村で一生を終わらせたくない!」


 連れてはいけない。足を止めてどうしたものやら考えた。

 夢を叶えたい、つまらん村を出たいという気持ちはわかる。それを手伝ってやりたいとも思う。だができん。


「頼むよシンザ!」

「カチュア! シンザ殿にわがままを言うな!」


 そこで少し迷ったが、門の目の前までカチュアをおぶっていって、人の目が入らないようにした。

 後はグローブを外して、父上を絶望させた恐ろしい腕を、ただ彼女に見せただけだ。カチュアの喉から小さな悲鳴が上がった。


「シンザッその手、どうしたの……!?」

「俺は生まれつきこうだ。おかげで身内にはことごとく嫌われていてな、非常に危険な立場にある。アンタを巻き込みたくない」


 すぐにグローブを元に戻すことにした。他の連中に見られては困るのだ。

 ところがカチュアの手が俺の白い腕に触れて、信じられんことだが――手と手を繋いできた。


 これを見た者はまず最初に感染症を警戒する。

 それをいきなり触れるだなんて、俺にはとても信じられん光景だった。

 事情も聞かずに手を繋いでくれたのは、ゲオルグ兄上とアトミナ姉上以来だ。


「こんなの全然怖くないよっ、それより白くてカッコイイよ! それにやっぱりシンザは、神様の使いだったんだよ!」

「そうか。きっとジラントも喜ぶ」


「ジラント――って、誰?」

「覗き見好きの竜だ。今もどこからか俺たちを見ている」


 まず要領を得ない返答だろうな。

 カチュアは理解しかねてしばらく黙り、だが俺の背中から離れようとしなかった。


「それがシンザの神様?」

「ああ、いつも俺を見守ってくれている。俺に正義を求め、お前がやったことは正しかったと、いつだって肯定してくれる変なやつだ」


 ジラントがいなければ、俺はこの村にもこなかっただろう。

 書が俺をいくらそそのかそうとも、俺は正義を実行する覚悟が付かなかった。

 おかしな話だが、ヤツという観測者がいるからこそ、俺は過度に苦悩することなく今も正義を貫ける。


「じゃあ、シンザはやっぱり神様の御使いだよ! だってシグルーン(あね)さんから聞いたもんっ、大昔にね、やさしい竜の神様がいてね! 悪い神様から、有角種とかみんなを救ってくれたんだって!」

「その竜神の名がジラントなのか?」


「……ううん、別の名前だったと思うけど」

「そうか、だが興味深いな。今度直接シグルーンから聞いてみよう。ではなカチュア、冒険者になるなら剣の腕も磨いておけ」


「必ず行くよ! 必ずシンザのいる帝都にいくからな! すぐに追い越してやるからさ、首洗って待ってろよっ!」

「張り合いがあって良いな。わかった、気長に待っている」


 こうして俺はカチュアを背中から下ろして、コリン村を発った。

 ホブゴブリン・リーダーとかいう、ボスの中の大ボスを倒して、今や防備も完璧な砦そのものだ。


 コリン村はもう大丈夫だ。心から誇らしい気持ちを抱いて、俺は帰るべき帝都への道を踏みしめていった。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



 コリン村を出て、昼過ぎにこの前の地方都市に戻ると乗り合い馬車に乗った。

 行きはいいが帰りは退屈な旅だ。同乗者たちとも話し疲れて、俺は深く眠りこけることになった。


ごめんなさい、恒例の風物詩で恐縮です。

別の作品に誤投稿していて更新が遅れました。

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