5-6 光になれと奇書が言う
続いて俺は堀の追加造成に入った。
なに、やることは単純だ。さらに深く広い堀に拡張して、村の守りを完璧にするだけだ。
まあ説明したところでつまらん黙々とした作業だ。
俺の没頭の裏で、水を得た村人たちが一丸となって迎撃の準備を進めていた。
必ず来る。村が要塞化すればもう二度と略奪できない。やつらからすれば最後のチャンスと言っても良かった。
それから夕方を前にして、向こうも再編成が済んだのか、再びゴブリンの軍勢が今度は西門前に現れた。
東門側を工事していた俺は報告が入るなり、護衛のラッキーさんと共に急ぎ村の中を走り抜けた。
「シンザ殿。今さらだがギルドの依頼は、昨日の戦果で十分過ぎた。あの戦いでゴブリン五十数体と、ホブゴブリンを片付けてくれた時点で、もう帰ってくれても良かった。こんなにしてくれる冒険者は、村では二人目だ」
「まさかとは思うが、黒角のシグルーンがその一人目とか言うなよ?」
「シグルーン様のことを知ってるのか!?」
「……聞かなければ良かったかもしれんな。ああ、まあ知り合いだ。お互い変なヤツだとは思っているだろうがな、仲はそう悪くない」
「続きは後で聞こう。シンザ殿、それで作戦は?」
「アンタは中から指揮、俺は突撃する。以上だ」
堀があれば、矮小なゴブリンが防壁を突破するのが困難となる。
そこでやつらは原始的にも投石作戦を選んだ。集めた小石を立てこもる俺たちに投げつけてきたのだ。
同時に一部を掘の底から壁に張り付かせて、仲間を足場にして突破をはかってきているようだ。
その悪あがきを防壁を越えた俺が妨害して回った。
堀の底を駆け回りながら、壁に張り付くゴブリンどもを叩き潰していった。
こちらの作戦は前回と同じだ。
ホブゴブリンが姿を現すまで引きつけて、現れたら一気に狙い討ちにする。
その時がくるまで、俺という囮は堀の底でただただ暴れ回った。
「いたっ! もっと引き付けてから撃つよ! シンザッ、そっちに行ってる!」
やはり目が良いな。カチュアが標的を発見した。
俺が堀から上がると、なるほどこちらめがけて突っ込んできている。しかも1体じゃない、2体もいる。片方がまた随分とでかい。
「撃てっ!!」
それもこの前と同じだ。誘蛾灯に導かれたホブゴブリンを、矢の弾幕が襲った。
右手のやつはそれで即死、左手のやつは矢が肩と腹に1本ずつ突き刺さるだけで、仲間のゴブリンを盾にして生き延びた。
「逃げるぞ! 撃て撃て撃て!」
さらに矢が標的を狙うが、矮小な小鬼どもが自らを盾にして主人を守る。
逃がせばまたこちらを襲うだろう。深追いすることになろうとも、ここで息の根を止めたい。
だから俺は矢の射程距離を外れても、危険を承知でヤツを追った。
群がる足止めを返り討ちにしながら、森の中に入って目立つ巨体を追いすがった。
危険を冒したかいもあってどうにかなった。
まあその結果、負傷して青い血を流すホブゴブリンと、それに従うゴブリンの包囲を受けたがな。
やつらの狙いは俺だ、向こうとしては当然の判断だった。
「ケリを付けよう。呪われた亜種よ、次は人間に生まれ変わるといい」
通じるはずもないがそう言い放つ。するとやつらも俺同様に何かを言った。
だがな、俺たちは言語の体系がまるで異なっているらしく、やつらとは会話が成り立たない。
どんなに学者が解読を試みようとしても、言葉が言葉にはなっていなかったそうだ。
包囲で自信を付けたのかは知らんが、こちらに群がるゴブリンどもを弾き飛ばす。
ホブゴブリンの巨体が繰り出す大鎚を紙一重でかわし、次にヤツが踏みしめるであろう大地をスコップで削り飛ばす。
成功だ。ヤツは前のめりに転倒して、俺に無防備な背を向けた。
危険を承知でその背中に飛び付き、それから首の動脈を狙ってスコップを突き刺す。
激しい血しぶきが上がり、巨体の怪物が暴れ回った。
死なばもろともと、大鎚を再び振り下ろしてきたので、木製のその柄を俺は断ち切った。
出血もあってついに力を使い果たしたのだろう。動きが鈍った。
そこで最後の仕上げに、やつの横顔をスコップでぶん殴ると、巨体が大地へと沈んでいた。
やはりゲオルグの方がずっと強い。
俺が呼吸も乱さずにホブゴブリンの死体に踏み乗ると、主人を失った亜種たちは途端に攻撃性を失って、ただちに悲鳴と共に逃げていった。
それから新しい足音に気づけば、それは自警団長のラッキーさんだ。
彼は俺が威嚇のために踏みつけた死体に、どうやら目を見開いて驚いていた。
確かにまあ、落ち着いて見てみると、ホブゴブリンにしては妙にデカいな……。
「討ち取ったのか、ホブゴブリン・リーダーを……!?」
「なんだ、妙にデカいと思ったら……よくわからんが、いわゆる出世魚みたいなものか?」
後で聞いた話によると、それはシグルーンですら前に出てこないゆえに撃破を諦めるしかなかった、年齢を重ねて成長したホブゴブリン・リーダーと呼ばれる特別な個体だった。
まあともかくだ、邪竜の書が輝いて、俺もいつものように青白く光った。
これでこの村に留まる理由もなくなったな。名残惜しいが潮時か。
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- 冒険 -
【コリン村を救え】達成
・達成報酬 STR+5 シャベルLV+1 EXP200(受け取り済み
・『己がどんな力を得たのかそろそろ理解したか、アシュレイよ? 貴様は帝国の闇ではない、英雄という名の光になれるのだよ』
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- 冒険 -
【冒険者ギルドで仕事を3つ達成しろ】達成1
・達成報酬 EXP450/???
・『次は楽なやつにしろ。いつまでも達成を待ってられん』
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- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】14→16
【Exp】1655→1855
【STR】34→36→41
【VIT】105→110
【DEX】95→99
【AGI】80→82
【Skill】スコップLV3.5 シャベルLV1
『さあコリン村の英雄アシュレイよ、帝都に凱旋しろ。そろそろ森も見飽きてきたからな』
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俺はシャベルLV1の力を得たようだ。もちろんシャベルなど持ち合わせていない。
そもそもシャベルLV1とは結局なんなのだ。
シャベルとは、園芸用の小さいやつでいいのだな、ジラントよ? 余計な能書きはいいから、そっちの説明を先にしてくれ……。
アンタの言うシャベルは、どのシャベルのことなのだ……。