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5-5 スコップ一つで始める水泥棒 - 地下水道を掘れるホタル -

 目標はせき止められた川の上流、そこまで力業で繋げるだけの作業だ。

 進路だけは間違えたくないので、借りた方位磁針に目印を付けておいた。


 そこから先は悪党の財宝を盗んだときと似た要領だ。地下道を掘り進めて、邪魔な土を圧縮して壁に塗り固めて進んだ。


 掘る。ただひたすら壁を穿つ。特に意識せずとも身体が勝手に動き、俺の背後に地下道が生まれていった。

 俺のそんな性質をカチュアも昨日見たのだ。しばらくはランプを抱えて口をつぐんでいた。


「なあっ、おいっ、なあってばおいっ! シンザッ、聞こえてるのかよっ!?」

「……すまん、聞いてなかった。何かあったのか?」


 しばらく、という表現は正しくなかった。

 どうもしばらく(・・・・)どころではない時間が、いつの間にか流れていたようだ。

 ついに黙っているのに飽きたらしく、俺は肩を激しく揺すられて我に返った。


「違うよ……。なあ、シンザって本当に神様の使いなのか?」

「何の話だ」


「だってそうとしか思えないよ! 普通の人間はこんなことできないぜ! なら、シンザは神様の使いだろ!」

「アンタ、意外と信心深いのだな」


「え、そうかな……?」

「そうだとも」


 しかし神の使いときたか。

 残念ながらそれは違うな、俺はただの邪竜の共犯者だ。


 いやそもそも、邪竜ジラントそのものが、俺たち人間から見れば神も同然の超自然的な存在なのかもしれん。

 ならば一応、俺は邪竜神の御使いとも名乗れるのだろうか。


「それより返事! 黙ってちゃわかんないよ!」

「ああ、答えはノーだ。俺は俺の意思でここに来た。神に頼まれてなどいないし、知り合いでもない」


「ふーん……っていうかまさか、シンザは神様信じてないのか?」

「神か」


 返事をすぐに返さないということは、それは神を信じていないという意味に断定される。

 そんなことはわかっていたのだがな、上手い返事が浮かばなかった。


 返事を考えながら黙々とトンネルを掘る。地下水道、それはスコップのもたらす奇跡の一つだ。

 これ一本で村が潤う。単調だか義賊と同じくらい、ワクワクとしたやりがいがあった。


「もーしもーしっ、黙り込むなよっ! シンザって、穴掘ってるときいつもそうだ!」

「ああ、すまん。……しかし不思議だな、アンタこそこんな目に遭っているというのに、神様を信じるのか?」


 世界を呪いたくならないのだろうか。

 いつ滅ぼされるかもわからない村で育って、村長には代価として差し出され、貧しい生活を強いられているというのに。


「だって神様のせいじゃないぞ。ゴブリンが悪いんだ」

「ククク……それは清々しいほどにシンプルで良い理屈だな。だがこんな世界を生み出したのがこの世の創造主だ。神はそれを見ているだけで、救いもしない。そんな神はもう飽き飽きだ」


 だが邪竜ジラントは違う。俺に力と目標を与えて、悪を屠れと命ずる。

 ヤツそのものは傍観者だが、帝国を腐敗から救おうという意思がある。見ているだけの偽者とは違うのだ。


「だから自分で救うために、コリン村に来たってことか……?」

「さあな。ただヒーローになってみたかっただけなのかもしれん。……それよりカチュア、聞こえるか? 耳を澄ませろ」


「え、聞こえるって何が? あ……」


 実在するかもわからんやつの話はここで終わりだ。

 どうやら掘り当てたらしい。正面上に現れた岩盤から小さな音が響いている。触れてみるとわずかに振動もしていた。


「でもこれって、石だよ……? どうやって繋げるんだよ?」

「そのようだな。少し下がっていろ、これから水を盗むとしよう」


 スコップで石を斬れるとは誰も思わない。

 だがこのマジックには種も仕掛けもない。俺は力任せに切っ先を突き入れて、岩盤を削り取った。


「やっぱり、シンザって、神様……?」

「寝言は寝て言え」


「ぇ……やっぱり、ね、寝たいのかオレと!?」

「そんなロリコンの神がいてたまるか」


 さすがは鋼鉄。スコップLV3だ。粘土のように硬い感触こそあったが、一掘り一掘りが岩を斬り落としてゆく。

 間もなくして岩盤が深くくり抜かれ、秘密の隠し水道が開通した。


「あ……水! やった、水だぞっ、やったぞシンザ! これでみんなが喜ぶなっ! シンザ、やっぱお前すげぇよ、オレたちの神様だ!」

「賞賛は後にしてくれ。岩盤に切り込みを入れた。増水する前に帰るぞ、走れ!」


「え……?」

「逃げ遅れると溺れるから走れと言っている!」


 スコップを肩にかけて、カチュアの手首を遠い出口に向けて引っ張った。

 川の水と岩砂が混じり合い、足下が既にぬかるんでいる。


「そ、そんなヤバいことになるなら言っておけよなぁっ!? う、うわあああーっ!!」

「すまん、とにかく全力で走れ!」


 背中の方から水圧で岩盤が砕ける音が聞こえた。予定以上に派手にやってしまったらしい。それが二度も聞こえたようだな。

 よって俺たちは増水してゆく危険な地下水路から、全身びしょ濡れの泥まみれで地上に逃げ帰ることになったのだった。



 ◇

 ◆

 ◇

 ◆

 ◇



 村に戻った頃にはもう膝先まで増水していた。

 このままあふれても困る。息切れにへたり込むカチュアをよそに、俺は再びスコップを振るってため池と地下水道を繋げた。


 ゆっくりと池の水かさが上がってゆく。

 泥が流れ込んでまだ茶色かったが、じきに沈殿したり下流に押し流されてゆくだろう。


 やがて事情を知らされていない村人たちも、ため池の異変に気づいた。

 村中から人々が集まってきて、ゆっくりと増えてゆくため池と、突然そこに現れた地下水道に目を向けていた。


 とても言葉で言い表せないほど喜んでいた。大歓喜と言ってもいい。

 誰一人もその場を離れようともせず、水という恵みと命綱の輝きに魅了されていた。


「おにいちゃん、ありがとう」

「シンザ様、しゅごい。あのね、カチュアが、シンザは神様だって。ありがとうシンザ様」


 子供たちにまで真心の感謝をされた。

 俺の手伝いをしたカチュアは誇らしげで、子供に妙なことを吹き込んだのをちっとも悪びれない。


 人のこと言えんが泥まみれの酷い姿だっていうのに、さわやかで充実した顔をしていたよ。

 さっきの提案、悪くないかもしれん。泥が沈殿したら俺も水浴びをしたくなってきた。


 しかしな、せっかくの幸せのひとときをぶち破る不届き者がいた。

 俺だ。地下水道が完成したということは、それは俺が水辺に集まるホタルさんとなる時だった。


 この状況で青白く光る人間を人はどう思うだろうか……。


「シンザ様、光ってるー」

「あー、ほんとだー」


 子供に気づかれると、ザワザワと人々の目線が大きなホタルさんに集まった。

 こうなっては致し方あるまい……。開き直ろう。


「お前、なんで光ってるんだよっ!? お前、やっぱり神様の使いだろ!」

「違うな。俺は神の使いではない。俺はただのホタルさんだ。実はテンションが上がると、突発的に光る悪癖があるのだ」


「お前みたいなホタルがいるかっ!!」

「ああ、そう言われると苦しいな……」


 開き直って邪竜の書を開く。不思議なことに水に濡れても、泥をかぶっても、書はものともせず綺麗な表紙をたもっていた。


――――――――――――――

- 事業 -

 【地下隧道を1つ掘れ】達成

 ・達成報酬 スコップLV+0.5 STR+5 EXP+200(受け取り済み)

 ・『言い訳に無理があるぞ。いっそこう答えたらどうだ、俺は竜神ジラントの御使いだ。今日よりジラントを崇めよ、と』

――――――――――――――


 バカを言えジラント。そんなことをしたら、ドゥリンだけではなく俺まで国教会に目を付けられる。


 確かにその気になれば、今この場で俺は預言者となって、新興宗教を生み出せるかもしれない。

 だがお断りだ。それでは遊び人のシンザではいられなくなってしまうだろう。


――――――――――――――

- 目次 -

【Name】アシュレイ

【Lv】13→14

【Exp】1455→1655

【STR】27→29→34

【VIT】103→105

【DEX】93→95

【AGI】78→80

【Skill】スコップLV3 → スコップLV3.5

『貴様は成長した。そろそろ岩だけではなく、別の物すら貫けるかもな』

――――――――――――――


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