表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/225

5-4 報酬の全てが依頼書に書かれているとは限らない - 勝利の雄叫び -

「ウォォォォーッ、シンザッ、シンザッ、シンザッ!!」


 被害0の完全勝利だ。奇跡の戦果に自警団の誰もが沸き立った。

 今日まで煮え湯を飲まされてきた相手だ。そのリーダー格のホブゴブリンを討ったとなれば、興奮の熱唱が鳴り止まないのも仕方あるまい。


「ありがとうシンザ! おみゃーさんのおかげで俺たちどうにかなりそうだがん!」

「うちの犬もあいつらにやられてよぉ……ああスッとしたよぉシンザ!」

「神だに! 奇跡の男だに! 村の救世主だがんおみゃぁっ!」


 呼吸を整えながら、俺は嬉しい言葉の数々を受け取った。

 皇帝家の忌み子だった俺が民に賞賛されている。


 絶対にゲオルグのようにはなれないと諦めていたというのに、俺はギルドの受付が言うところの小さな英雄となっていた。

 神というのはさすがに言い過ぎだがな。


「って、なんか言えよっシンザ! この状況でなんで工事再開すんだよっ!?」

「カチュア、シンザ殿に失礼だ。だがまあ、もう少しだけ、一緒に浮かれてもらいたい気もするな……」


 敵が退いた今がチャンスだ。立て直してくる前に防備を完璧にしたい。

 再び黙々と、黙々と堀の延長作業に入った。


「すまん、それは途中の仕事を片付けてからにする。引き続き見張りは任せた」

「シンザって強いけど、すっげー変人だよな……」


 穴を掘り始めるとどうしても寡黙になる。

 周りが見えなくなって、大好きな穴掘りに意識が埋没する。


 こうしているとホッとするのだ。ただただこうやって穴を掘っていると安心する。

 大地を掘ることそのものが己の人生、己の役割だとさえ感じることもあった。



 ◇

 ◆

 ◇

 ◆

 ◇



 穴を掘っていると何かしらが出てくる。

 といってもここは石やら枯れた根やら、大した物が見つからない。


 場合によっては地に埋もれた宝石が見つかることもあるのだが、それらしき姿はない。

 いや、さらに作業を進めてゆくと再び俺は芋を掘り当てた。山芋ではない、これはキャッサバの一種だろう。


 生で食ったら腹を壊すやつだ。芋なんてどれもそんなものばかりだがな。


「どうしたんだよー、シンザー? なにそれ」

「芋があった。これはキャッサバだと思う、煮たり蒸かすとなかなか美味い」


 掘り当てた芋を、堀の上のラッキーさん目掛けて投げた。

 また困惑させてしまったようだ。変なことをしたつもりはないのだが……。


「また芋か……。こんなに庶民的な英雄は初めてだな。……おい、これを蒸かして持ってこい!」

「フ、そうこなくてはな。む、まだあったぞ、これも頼む。この様子だともっとありそうだ、手当たり次第探してみる」

「ちょっとシンザッ、目的が芋掘りにズレてってないっ!?」


「すまんな、俺は発掘家として芋が大好きなのだ」

「いや意味わかんないってっ!」


 芋を探って思わぬ方向に工事が蛇行したが、芋が見つからなくなるとまた無心の世界に俺は戻った。

 しかしなかなか大量に埋まっていたらしくてな、防壁の中では小さな芋煮大会になっていたらしい。


 俺が持ってきた海塩で味付けしたやつがカチュアの手で運ばれて、没頭する俺の口にねじり込まれたりもした。

 美味い。やはり芋は最高だ、他にもどこかに眠っていないものだろうか。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



 それから夜が訪れて太陽神から逃げる女神が空高く上った。

 簡潔に言えば夜更けだ。ふと我に返ると、俺は堀と堀を繋げていた。穴を掘りながらグルリと南門周辺まで一周して、村を囲む堀の完成を迎えたのだ。


「おいっシンザ殿っ、大丈夫か!?」


 そして背中から堀の底で地にぶっ倒れた。

 付き合ってくれていたのはラッキーさんと、見張りの門番だけだ。他の連中はまあ田舎者だからな、就寝が早いのだ。


「疲れたな……」

「今さらそれを言うのか……。村長の家に部屋を用意してある、少し休んだら帰ろう」


 身を起こしてラッキーさんに肩を借りた。

 どうにか堀からはい上がり、門を開いてもらって寝静まった村の中を歩く。


「たった一人で完成させるとはな……。よく聞けっ、みんなついにできたぞ!! シンザ殿が深くて広い堀を完成させてくれた、これでもう安心だ!!」

「おい……夜中だぞ」


 住居の集まる広場までやってくると、村の連中がまだ起きていた。

 その彼らへ、いや家の中にも聞こえるようにラッキーさんが大声で叫んだ。


 すると家々から子供まで起き出してきて、情けなく肩を借りる俺に口々に感謝の言葉を向けた。

 もうこれで中に入り込まれる心配もない。おみゃぁさんどえらい人だにー、と。そんなことばかり言われた。


 すると再び受付の言葉が浮かんできた。確かに俺は今、小さな英雄となっている。この仕事を受けて良かったと、心より思うことができた。


 それから汗と足を冷たい井戸水で流して、俺は村長の家の客間にお邪魔して、寝床に横になった。

 そこまできてようやくレンズとグローブを外せて、俺は英雄ではなく、元の異形の忌み子に戻っていた。すぐに眠れそうだ。


 やがて疲労した肉体が意識の主導権を奪った。達成感と疲れが理想的な安眠を呼んで、俺は泥のように眠り込んでいった。


次回挿絵回になります。

また再三の宣伝で申し訳ありませんが、『俺だけ超天才錬金術師 ゆる~いアトリエ生活始めました(1) 』がMノベルスから11/30に発売しました。

初週の勢いが大事なので、もし書店で見かけたら手にとってみて下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活
新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
[一言] この村絶対名古屋でしょ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ