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5-3 スコップ一つで築くド田舎砦 - スコップが最強であることを証明する -

 南門に着いた。外に行きたいとだけ門衛に伝えて、俺は村の外側から辺りを見回した。

 人が住むとその場所は伐採により自然と拓けるものだ。ゴブリンが隠れているとすれば、その平野の奥にある森だろう。


「さて。本当に俺に付き合うつもりか?」

「あんな薄謝で人を囮になどできない。やるならやってみせてくれ……」


「そうか、後悔しても責任は取らん、危なくなったら勝手に逃げろ」

「なんてやつだ。ははは、俺たちはどうやら、とんでもないやつを呼んでしまったようだな……」


 堀の構想が決まった。鋼のスコップを大地に突き刺して、俺は木造のバリケードを見上げる。

 ギルドの依頼内容からはズレている。だが村を救えという、邪竜の書の条件には近い。


 まんまと狙い通りにゴブリンを釣れたら、そこから先は力ずくの迎撃戦だ。

 ゲオルグと引き分けた今の俺ならやれる。そうそう死にはしない。あのシグルーンのように見事立派に戦い抜いて見せる。


 スコップLv3の力は、土や石への貫通力だけではない。掘り返した際の負荷や重量そのものを、羽のように軽くする。

 いざスコップを振るって堀作りを始めてみると、自分でも驚くべき造成速度となっていた。


 邪竜の書がもたらしたAGIが俺を加速し、VITが息切れ知らずの継続を可能にして、DEXが器用にも掘り返した土をバリケートに塗り付けさせた。


 要するに力業だ。耕作に適した水分を含む赤土が、軽々とまるでババロアのようにとろけていった。

 人間離れした作業効率で、たった一人で俺は堀を築き、外壁を増強する。ラッキーさんは人間の限界を越えた動きに絶句して、ただ呆然と俺の作業を見守っていた。


「こんな、バカなことが……なんなんだ、お前という男は……」

「シンザッ、自警団のみんな連れてきたぞ! って、えぇぇぇぇぇーっっ?!!」


 遅れてカチュアが自警団の連中をかき集めてきた。

 それから南門の物見ヤグラに上ると、連れてきた連中と一緒に絶叫していた。


 俺はスコップの可能性を見誤っていた。

 スコップは俺が思っていた以上に万能で、奇跡を起こし得る、世にもデタラメな力を秘めていたのだ。


「ヤバ、見とれちゃう。すげーっ、シンザすげーよっ、もっとやっちゃえっ、堀があれば襲撃なんてもう怖くないっ!」

「か、神様……」

「おみゃぁ、おみゃぁ救世主だぁおみゃぁぁっ!」


 大げさな連中だ。自警団は歓声を上げて俺を応援し始めた。

 剣や槍を持った者はバリケードの上に、弓手はヤグラに陣取っていた。


 彼らが警戒してくれるおかげで、俺は背後を気にせずに作業へ没頭できる。

 帝都のホタルさんはモグラとなって、南門周辺に次々と堀を築いていった。


 見晴らし台からカチュアが何度も応援してくれた。叔父のラッキーは万一の奇襲がないように、俺に張り付いてくれた。

 だが俺は彼らに返事も目線も返さず、黙々と作業に没頭した。


 不思議としっくりくるのだ。

 こうやって黙々と、黙々と拠点の守りを固める作業に、妙な懐かしさすら覚えた。

 異界の言葉で言うところのデジャヴというやつだ。


 これは脳の疲労による錯覚なのだと、ケレン味の利いた夏物語に載っていた。

 ちなみに弓手はカチュアを含めて8、次はもっと増やして欲しいところだ。


「畑のみんなにも召集をかけろ! これは――間違いなくやつらが来ることになるぞ!」


 防備が高まれば高まるほど、自警団の緊迫が高まる。

 それでも俺は無心に作業を進めていった。少しでも早く、少しでも深く堀を延長する。それこそが勝利の鍵だ。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



 こうして瞬く間に南門周辺の堀を完成させた。

 既にあったバリケードを骨組みに土壁を塗り固めると、それは堅固な防壁となった。


 コリン村は台地にある。西側が山で、他はなだらかな傾斜面だ。そのほぼ全てが森に包まれている。

 ゴブリンが現れるようになって伐採も不十分なのか、森の奥は深く鬱蒼としている。

 その深い森がわずかに揺れたような気がした。


「来たぞっみんな! 方角、西南西っ、弓構え!」


 しかし気のせいではなかったようだ。

 カチュアが声を上げて警告すると、森に向けて弓手たちが次々と矢をつがえる。


 どれもショートボウだ。森に囲まれたこの土地では、ロングボウは扱いにくいだけなのだろう。

 しかしあんな遠い場所が見えるなんて、カチュアの視力には恐れ入った。


「取り囲まれる前に、門の前に引き返した方が良さそうだな」

「本当に囮として残る気なのか……。俺たちの前だけじゃない、あいつらの前でもお前は奇跡を起こした! しくじれば殺されるぞ……」


「俺は頼まれた仕事をするだけだ。あの程度の烏合の衆に負けるようなら、この先も生き残れん」

「お前は変だ! 絶対に変だぞシンザッ!」


 森から一斉にゴブリンの軍勢が突撃してくる。

 その突撃にカチュアら自警団が弓を放った。ヒュンと矢尻が空気を切って、知能の乏しい亜族に突き刺さり断末魔が上がった。


 だがやつらはそれくらいでは止まらない。やはり狙いは俺だ。ならば俺が生きている限り、矢をぶち込んでの討伐し放題が続くということだな。


「撃て撃て撃て撃て! 撃たないとシンザと団長が死ぬよっ!」


 そうだな。がんばってくれないと死ぬかもしれん。

 門の前まで引き返すと、俺はラッキー団長に背中を任せて正面に立った。


「ラッキーさん、壁の向こうに戻りたかったら戻ってもいいぞ。俺は単騎でもどうにかなる」

「ああ、自分の心配をした方が良さそうだ……。短時間でこれだけの堀を築く者が、ゴブリンごときに負けるはずがないからな」


「そう言ってくれると恐怖心が薄れるというものだ。どんなに強くなっても、恐いものは恐いからな」


 弓手たちがゴブリンの軍勢をさらに削る。

 ギルドの飲んだくれどもは依頼の評価を見誤った。この依頼はクソ依頼ではない。超絶クソ依頼だ。敵軍勢は100を超えていた。


「逃げるチャンスを失ったな。後ろは任せたぞ団長」

「俺も死にたくない、どうにかしてみせよう」


 そうこうしているうちに俺たちは先陣とぶつかった。

 肉薄してきたコブリンの一匹目を、鋼のスコップで薙ぎ飛ばす。


 立て続けに飛び込んできた二匹目も同様にだ。これこそが身体能力育成に偏った邪竜の書の賜物だった。


 さてこんな時にすまんが、出発前にあの受付からゴブリンの性質を教わった。

 ゴブリンは敏捷性以外は人間に劣る。だが繁殖力が強く、異常なほどに命知らずだ。それゆえに恐ろしい脅威となる。


 一方、弱点はというと社会性そのものだ。ゴブリンは協調性に欠けて、本来は群れの長を構築しない。


「確かに死地だが、兄上と、比べると、まだぬるいな!」


 門の上から、自警団の槍と剣とパチンコが俺たちを援護してくれた。

 穴掘りほど黙々とはいかんが、醜悪な緑の肌を持つ小鬼どもを次々と片付けてゆく。


 圧倒的な敏捷性で石の刃を避け、矮小な敵の急所を狙い撃つ。

 倒しても倒しても新手が現れた。その数はここからでは正確に計れないが、まだ100以上も残っているように見える。


 もっとSTR()が欲しい。ゲオルグ並みの筋力があれば、急所を狙って立ち回る必要もない。

 こういった小さな相手には、巧みな技も必要とされたが、力でねじ伏せる強引さも欲しかった。


 ところで敵も虫けらほどバカではない。このままではどうにもならないと気づくと、今さらながらやつらが連携行動を取った。

 一斉に6体が示し合わせて、俺に飛びかかってきた。


「シンザ殿!」

「――すまん。危うく死ぬところだったようだ」


 だがカチュアの弓と、ラッキー団長の刺突が、迎撃し損ねたやつらを止めてくれた。

 相手の石の刃が二の腕をかすったが、肉には達していない。返り討ちにした。


「ラッキー、近くにホブゴブリンがいるはずだ、探し出して狙い打ちにさせろ。それとアンタは向こうに戻ってくれ、あと一息で俺を殺せると思わせたい」

「戻れだとっ?! シンザ、お前は本当に何を考えているんだ!?」


「いいから行け、コリン村のためだぞ」

「くぅ……お前は勇敢だが、狂人一歩手前だ……。わかった行くからなっ!」


 門の上の団員の助けで、ラッキー団長が俺の背後を去った。

 見るからに敵は色めき立った。囲めば殺せる、仲間の復讐ができると、俺をギラギラと凝視した。


 受付から聞いた話では、そのゴブリンを束ねる別の種族、ホブゴブリンという闇の亜種族がいる。

 そいつらはゴブリンを奴隷化する習性がある。ゴブリンの群れに、ホブゴブリンが加わることで、それは軍勢となるのだそうだ。


「さあこい、ゲオルグ兄上並みに俺を追いつめてみせろ」

「ちょっ、シンザ何やってんだよお前っ!?」


 背後からカチュアの絶叫が届いた。背後の守りすらも捨てて前進したのだから、まあそうなるだろうな。

 よって俺は四方を取り囲まれながら奮戦しなければならなくなった。


「さすがに、キツいか」


 ステータスとレベルをもっと稼いでおけば良かった。

 さすがに息切れしてきた。筋肉がつりそうだ。集中力が乱れて正確性が失われ、全方位を対応していると目が回りそうだった。


 だがついにチャンスが来た。ついに獲物が釣れた。

 ゴブリンとは異なる、俺より一回り大きな体躯を持つ怪物、ホブゴブリンがついに焦れて、突っ込んできたのだ。


 しかしこちらがそれを狙っていたとは、まさか思ってもいなかったのだろう。

 でかい蛮刀で俺を斬り伏せようと、振りかぶったところでヤツの胸に矢が立て続けに突き刺さった。


「出てきたところ早々で悪いな。成敗だ!」


 その時点で死んでいたはずだが、最後の仕上げにホブゴブリンの頭をスコップでぶん殴って演出をした。

 すると呪われた知能無き小鬼たちは、金切り声を上げて急に怯えだし、スコップを持った怪物から逃げ出してゆく。


 リーダー格を討った。これにて敵は潰走、俺たちの勝利だった。


――――――――――――――

- 目次 -

【Name】アシュレイ

【Lv】12→13

【Exp】1375→1455

【STR】26→27

【VIT】100→103

【DEX】90→93

【AGI】77→78

【Skill】スコップLV3

『貴様ほどのバカはこの世におらんな……。ヒヤヒヤして、見物けんぶつどころではなかったわバカ者ッ、そういう戦い方は二度とやるな!!』

――――――――――――――


 本に説教されてしまったがな。あながち悪い気分ではない。

 ジラント、異界の言葉を借りてもう一度言おう。アンタはツンデレだ。


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9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活
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