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5-3 スコップ一つで築くド田舎砦 - 命の軽さを活かした仕事 -

「はっくつか……??」

「古い遺跡や、遺物を掘り当てる仕事だ」


 金目の物が手に入ることもある。あの邪竜と出会うまで、足りないこづかいはそうやって稼いだ。

 金になるとは言い難い。金になるなら発掘家という商売は、今頃もっと流行っているだろう。


「いせきってなんだ? 良い(ブツ)を掘るのか……?」

「アホな姪ですまん……」


 田舎ではまともな教育も受けられない。

 いや家業さえこなせればそれでいいのだ。良いも悪いもない。


「遺跡とはな、人に忘れ去られたとても古い建造物のことだ。そこから得られた物のことを、遺物と呼ぶ」

「えー、全然わかんない……。なんでそんな古いのが欲しいの? 新しい方がいいじゃん」


「古いということは、珍しいということだ。今とは違う世界があったという証拠だ。異なる世界に思いを馳せて、妄想を膨らませることで幸せな気分になる者が、世の中には少なからずいるのだ」

「あ、それならわかる! オレ、吟遊詩人の古い歌は好きだよ! フギャッ!?」


 見るに見かねてか、俺に張り付く姪をラッキーさんが襟首の後ろをつかんで、強引に引きはがした。

 脱線もそろそろ潮時だろうな。


「そこまでだ。ここから先は村の状況をシンザ殿に伝える」

「すまんなカチュア、また今度だ」


「うちの村の人口は162人だ。そのうち自警団に加わって戦えるのは60名前後だろう。訓練された専業の自警団員は13名だ。……一応そこのカチュアも含む」

「一応ってなんだよっ、弓だけならオレが一番だろ!」


 カチュアの勇ましい自己主張を叔父さんは否定しない。

 どちらかというと諦めた様子で目をそらして、コリン村の話を続けた。


「帝国では長く平和が続いているからな、この村には従軍経験がある者はいない。普段は畑を耕したり、木こりや狩人をするただの村人だ」

「領主は軍を出してくれないのか?」


 山奥の村とはいえ、まともな領主なら兵を割いてくれそうなものだ。

 領主からすれば彼らは納税者、失えば税収を落とすことになる。


「渋られている。村を捨てて都市部に出ろとな。そうでなかったらギルドに依頼などしない」

「ああ、その要求は飲まない方がいい」


 どうやらまともな領主ではなさそうだ。

 わずかばかりの憤慨と共に、俺はスコップを肩に抱えなおした。


「そうなの?」

「口をはさむなカチュア……」


「ああ、確かに苦しい状況かもしれないが、土地を捨てた農民の末路は悲惨だ。奴隷同然に使い潰される」

「そうなのか。だがいやに詳しいな……?」


「いや、兄の受け売りだ。己の領民を奴隷化して、己の荘園で搾取するのが、少し前から流行っているそうだ」


 帝国では貴族の力が年々陰ってきている。理由は単純、平和だからだ。

 だから貴族勢力の拡大のために、国税のかからない荘園の拡張を許す法案が通ってしまった。と、ゲオルグが以前憤慨しながら俺と飯を食っていたのを覚えている。


「難しい話されてもわかんないよ! それよりシンザ、どうやってゴブリンたちやっつけるんだっ!? オレも手伝うからよっ、作戦考えようぜ!」

「カチュア、シンザ殿は俺たちのために言ってくれてるんだ、何度も話の腰を折るな……」

「いやいい。俺はゴブリン退治に来た、ただの冒険者だからな」


 武勇とスコップ一つで、数に勝るゴブリン軍団を討伐しようと考えるほど、俺は愚かではない。

 そこで俺は少し考えた。旅の間に大まかに考えていた計画に、コリン村の状況を照らし合わせて算段を整えた。


 答えはスコップだ。俺には他に能がないからな。


「来るときに村の入り口を見たが、堀は掘らないのか?」

「ああ……作ろうとはしたんだ。だが向こうはそうさせてくれなくてな、工事を始めるとすぐに邪魔されてしまう」


「なら好都合だ。その堀は俺が掘ろう」


 堀を掘れば、敵がここを襲撃してくれるそうだ。

 それはつまり、村の外壁を盾にして戦えるということだ。こちらから打って出るより、村人の被害を最小限に抑えられる。


「な、何を言っているのだシンザ殿……? ゴブリンを討伐しないで、堀を作るのか……?」

「俺は戦いよりも穴掘りが得意でな、まあ騙されたと思って、少しやらせてみてくれ。それと弓手をかき集めてくれ、やつらを減らすチャンスだ。俺が(おとり)になる」


 すると彼は絶句してしまったようだ。

 口を開けたり閉じたりを繰り返して、しばらく言葉を選びかねていた。


「シンザ殿、お前のような男は初めてだ……。こんなはした金で、自分を本当に囮にするのか!? こんなケチな田舎者に、なぜそこまでしてくれる?!」

「そんなに大げさに言われても困る。俺は俺のために命を賭けているだけだ。不思議な因果の結び付きで、アンタたちが救われると、俺も救われるのだ」


 それに、やはり見過ごせん。

 帝国が決めた荘園拡大法のために、領主の保護も受けられない者たちがいる。

 ここでやり切らなければ、ジラントと俺が望む正義のあらすじにはならんのだ。


「いいぜ、弓なら任せろよシンザ! 百発百中であいつら射止めてやるよ!」

「カチュア! くっ……絶対に柵の外には出ないと約束しろ!」


「出るわけねーだろ、オレが出たらぶっ殺されるに決まってるし!」


 さて、説得するよりもスコップの奇跡を直接見せた方が早い。

 鋼のスコップを背負った変人は応接間の扉を開け放ち、村の南門を目指して引き返していった。


――――――――――――――

- 冒険 -

 【コリン村を救え】

 ・達成報酬 STR+5 シャベルLV+1 EXP200

 ・『念のため言うが、死ぬなよ? 貴様には帝国の未来がかかっているのだからな』

――――――――――――――


 そうは言うがなジラントよ、相手の数によってはあっさり死ぬかもしれん。

 そのときはすまん、代わりに兄上にでも乗り移ってくれ。さぞ苦労するだろうがな。


本日「超天才錬金術師1巻」発売しました!

本作もジックリ続けていきます。フクマ、感想本当にありがとう!

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ダブルフェイスの転生賢者
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