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5-3 スコップ一つで築くド田舎砦 - コリン村のカチューシャ - (挿絵あり

 まあところでだ。ラッキーさんがいきなり渡された山芋の置き場所に困っていると、この応接間に新たな来客が現れた。

 それは気の強い顔立ちの女の子だ。腰に短い剣と、背にショートボウと矢筒をかけていて、やけに若い点をのぞけば自警団の射手(アーチャー)に見えた。


「この人が帝都から来た助っ人?」

「カチュア、来るなと言ったはずだぞ……」


 その黒髪の少女がどこか熱心に俺を見つめた。

 こちらを見定めにでも来たのかと最初は思ったが、どうも様子からしてそうではないらしい。それはどちらかというと、疑いよりも好奇心に近いような気がしてきた。


「指図しないでよ、叔父さん! あのさ、オレはカチューシャ。略してカチュアだ、よろしくな!」

「叔父さん……? ああ、グズっていたとは聞いていたが、こんなに大きい子だとは思わなかったな」


「それは妹だよ!」

「似たようなものだ……。すまんシンザ殿、すぐに帰らせる」


 若い親族を戦いから遠ざけたがるのは自然な感情だろう。

 だがカチュアは年頃だ。叔父の命令など聞くはずもない。帰宅を拒んで俺にばかり目を向けていた。


「っていうか叔父さん、なんで芋なんか持ってんの……?」

「いいから帰れ! これはただの……シンザ殿の手みやげだ……」


「んなわけないじゃん! 冒険者様が芋掘ってくるとか、聞いたことないよオレ!」

「掘ってきてくれたのだから仕方ないだろっ、シンザ殿は少し変わった人なのだ!」


 芋数本でここまでこじれるとはな、予想もしない情景だ。

 冒険者だって山芋くらい掘る。美味い物がそこに転がっていたから、旅のついでに採集しておいただけだ。


「それで用件は?」

「あっ、そうだった! ねぇシンザッ、帝都の話してよ!」

「話の腰を折るな……。シンザ殿は仕事で来たのだ、迷惑だろう」


 ラッキー叔父さんを無視して、カチュアが俺の前に飛んできた。

 やっとに落ちた。彼女は帝都に憧れる田舎娘で、外の世界の話に飢えているのだ。


 同時に勘違いでなければ、ラッキーさんは俺とカチュアを接触させたくないようだった。


「まあ構わんが。ならば代わりにこちらの条件を飲んでもらおう」

「え……。え、まさか、クラウンが足りない分――オレにエッチなことさせろとかっ、言うなよなお前っ!?」

「カチュアッ、失礼だ!」


 疑問はすぐに解けた。ラッキー叔父さんは俺がカチュアを気に入って、代価として請求することを恐れたのだ。

 報酬が足りない分、別の何かを請求されたら彼らは逆らえない。だからすぐに帰らせたがったのだな……。


「子供に手を出すわけがないだろう。コリン村について教えてくれ、代わりに俺は帝都の話をしよう」

「そ、そっちだって若造だろ! オレはもう15だ、十分大人だ、ほら胸もちゃんとあるぞ!」


「なら二つ下だな。それより帝都の話を聞きたくないのか?」

「聞くに決まってるだろっ!」

「すまん、シンザ殿……後で叱っておく……」


 ラッキーさんは俺にその気が無いことに心より安堵して、それから申し訳なさそうに身を乗り出すカチュアを引っ張り下げようとした。

 気に障ったのか、カチュアに乱暴にはねのけられていたがな……。


 カチュアの背が高く、叔父というわりにラッキーさんがまだ若いので、まるで兄妹のようにも見えてきた。


「一番の名物といえば、やはり赤の大通りだ。それは帝都を十字に刻む巨大な道で、そのほぼ全てに商店がひしめいている。甘い菓子屋や、美味いパスタ屋もあるぞ。帝都に行けばなんだって手に入る。ご禁制でもなければな」

「うっわぁ……店が多いって、そこまでなのかよっ!? でも、凄すぎて、ちょっと想像付かないな……。ホントにそんな世界が、外にあるんだな……」


 民の大半は、帝都の繁栄など一度も目にすることもなく墓へと入るだろう。

 いくら都に憧れようとも、地方の民は他の生き方を知らないのだ。彼らが帝都を目指すその時は、往々にして食い詰めて生きる道を失ったその時だ。


「ある。そこには皇帝の住まう宮殿もある。政府庁舎もかねていてな、中には軍人だけではなく、政治家や貴族も多く集まる。見物は巨大な空中庭園と、地下聖堂。それと広場にある初代皇帝の像だろう」

「行ってみたい! それに帝都って、冒険者ギルドの本部がある場所だろ!」


 だがカチュアは少し違う。帝都での生活に強く憧れていた。

 俺の話に夢中でのめり込んで、人の鼻先に興奮の息を吹きかけるくらいだ。


「アンタ、冒険者になりたいのか?」

「ダメだ、あまりに危険すぎる。そんな仕事していたら、すぐに死ぬことになるぞカチュア!」

「あっそ、危険だってさ。でもシンザの前で言っていいのかな、それ?」


 冒険者は極めて危険な仕事だ。

 シグルーンのような花形に目が行く反面、イルミア大森林でアビスハウンドに食い殺された者たちも思い浮かぶ。


 カチュアにやらせたくない気持ちもよくわかった。

 間接的に、爺の気持ちも少しだけな。だが俺も今さら生き方を変えられんのだ。


「ぐっ、そ、それは……。すまんシンザ殿、悪い意味で言ったんじゃない」

「別に構わない。何せ俺の命は訳あってけし粒よりも軽くてな。だからまあ、こんな副業を始めたのだ」


「副業? ならシンザの本業はなんなの?」

「ニート――いや、俺は発掘家だ」


挿絵(By みてみん)


ミニキャライラストや、デザイン画をしーさんが描いてくれています。

挿絵とは別にこれから各所に挟んでいきます。


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