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5-1 再びギルドで依頼を受けろと奇書が言う


前章のあらすじ


 6歳になるまでアシュレイは塔に幽閉されて爺と乳母に育てられた。

 塔から出ることを許されると、アトミナとゲオルグに出会うことになり、忌み子と嫌われる中、彼らだけはアシュレイを弟として大切に守りかわいがってくれた。


 アシュレイにとって、二人は皇帝家の光そのもの。隠されて育った己には、あまりにまぶしい存在だった。

 アシュレイはその日、負けっぱなしだったゲオルグとの試合に、引き分けまで漕ぎ着けた。


 アシュレイの勝利だと言い張るゲオルグと、アトミナから新しい鋼鉄製のスコップが彼に寄贈された。


 その後、アシュレイがアトミナ皇女のお使いに宮殿を出た。

 錬金術師ドゥリン・アンドヴァラナウトを訪れ、依頼を介して小さな錬金術師と知り合いになる。


 ところがその店に国教会の男が現れ、命が惜しければ帝都を去れとドゥリンを脅した。さらに石が投げ込まれ、店のガラスが割られてしまう。

 そこでアシュレイはただちに店を飛び出し、現行犯で犯人を捕縛した。教会の恫喝者は流れが悪くなるなり立ち去った。


 アシュレイは捕縛した犯人から、盗んだ金をガラスの修理代としてドゥリンに差し出して、アトミナのためのパウンドケーキを手に宮殿へと帰っていった。


――――――――――――――――――――

 辺境の弓手カチュア

  スコップ一つで始めるゴブリン討伐

――――――――――――――――――――


5-1 再びギルドで依頼を受けろと奇書が言う


 翌日の昼前、俺はようやく冒険者ギルドの扉を開くことができた。

 ああ、もちろん国教会がドゥリンにやったことは、皇女アトミナ姉上に伝えておいた。


 姉上の耳に入ると言うことは、ゲオルグ兄上の耳にも突っ込まれることでもある。

 皇族がこの事態を知った以上、国教会のおかしな一派もドゥリンに妙なことはできなくなるだろう。


 いやどちらにしろ、この件は政治と宗教がからむので俺の手に余る。

 あのケテルとかいうクズを不意打ちで地に屠るのも、ヤツの家に忍び込んで富を奪うのも、現状では過剰報復と言わざるを得なかった。


 ドゥリンは姉上と兄上が守ってくれる。そう信じよう。


「ようシンザ、ごぶさただな。女と良いところにしけ込んでたんだってな?」

「アンタ、そんな与太話をどこで仕入れてくるんだ」


 ともあれだ。ギルドに入って受付に目を向けると、まあ合っているような、全く合っていないような、微妙なところを突かれていた。


「シグルーンの姉さんが寂しそうにしてたぜぇ、ギャハハハッ、いよぉっこの色男!」


 いつもの冒険者(飲んだくれ)たちも奥のバーカウンターに陣取っている。

 どうでもいいがこの連中、働いているところを一度も見たことがない。バカな話だが小さな親近感を覚えた。


「ああ、だがアイツは止めとけホタルの兄ちゃんよ。美人っちゃぁ美人だけどよ? あんなのと付き合ってたらよー、命がいくつあっても足りねーよ」


 それにしてもホタルの兄ちゃんにシンザか。今ではこちらの偽名の方がずっと楽でしっくりくる。

 キャラルも国を出ていってしまったことだ。しばらくの活動基盤をギルドに定めるとするか。


「だが強い。あれだけ強ければ、いつか手柄を立てて帝国の騎士にすらなれるだろう。いや……」

「ギャハハッ、何言ってんだよシンザッ無理無理、ぜってー無理!」

「ギルドマスターだろうと、雇い主だろうと、なんだろうと、気に入らねぇ相手はぶん殴る。それがシグルーンの姉さんだぜ!」


 言ってみたものの全否定されて俺も納得してしまった。

 そうだな、ヤツの武勇は騎士をたやすく凌駕するが、全くもって向いていない。


 いやシグルーンだけではないな。俺もきっとそうなのだろう。

 弱者が虐げられているのを見ると抑えが利かない。今すぐ助けたいと思ってしまう。それは秩序側の人間の資質ではないのだ。


 ジラントが正義を果たす力ときっかけを運んできて、俺はすっかりそれに焚き付けられていた。

 だがそれは、もしかしたら俺の潜在的な願いを、ただジラントが叶えてくれただけなのかもしれない。


「で、まさかとは思うけどな、今日は俺とお喋りでもしにきたのかのか、シンザよ? あー、そいつらと付き合うのはオススメしねーぞ。うっかりお友達になると、有り金全部が酒代に消えるような生活に堕ちるぞ」

「おい待てよっ、それの何が悪い! 金なんて無くなってから働きゃいいんだよ!」

「そうだそうだ! じゃなきゃこんな仕事、好き好んでやるかよバーカ!」


 このギルドの中にいるだけで、こいつらの口の悪さが伝染ってしまいそうだ。

 そうなったらゲオルグ兄上にアトミナ姉上、爺にひんしゅくを買うことになるだろう。流されないように一応自制した。


「仕事がしたい。できれば戦闘になりそうなやつだ。そうだな、シグルーンが受けそうなヤツがいい」


 受付の男は飲んだくれどもと違って、仕事はちゃんとする。

 依頼がリストアップされたバインダーを開いて、ページをパラパラとめくりだした。


「他には?」

「団体行動は苦手だ、できればソロがいい」


「シンザ、お前も大概だな。OK、コイツなんてどうだ?」


 手頃なのが見つかったようだ。彼がページを開いたままバインダーをカウンターに置いた。

 もちろん客から見て、逆さまにな。

 文句はない、心配りなどいらん、ただ読めればいい。


――――――――――――――

 ――

 種別 討伐依頼

 ――

 対象 ゴブリン系の駆除

 ――

 場所 コリン村

 ――

 報酬 1720クラウン

 ――

――――――――――――――


「コリン村……?」

「ああ、帝都から遙か北の――とにかく山奥の村だ。そこまで行くと帝国の直轄地じゃねーからな、それだけヤバい仕事になるぜ」


 ゴブリンか。数任せで圧倒してくるタイプの標的だ。

 腕試しの相手として考えると、一体一体に手応えがなさそうな気もするが、そもそも俺はゴブリンと戦った経験がなかった。


「シグルーンと一緒にアビスハウンドを倒したんだろ。ゴブリン軍団くらい、お前さんならやれるって。よし決まりだ、こいつを受けろシンザ」

「北方か。悪くはなさそうだな」


 ところがなんだろうな、酔っ払いの一人が俺の後ろからバインダーをのぞき込んだ。

 恐ろしく酒臭い。その彼が内容に目を通すなり、悪態をついた。


「おいシンザッ、騙されるんじゃねーぞ! そいつはクソ依頼だ、受けるんじゃねー!」

「てめっ、おとなしくあっちで飲んだくれてやがれ!」


 クソ依頼だそうだ。

 そう言われても俺にはわからんが、受付の様子からするとどうも図星だ。


「うわっ、マジでクソだわクソ。お前悪いヤツだねぇ、信頼しかけた新人を騙してよ、こんなしょっぱい仕事斡旋するなんてよ、ひっでぇなぁ?」

「てめぇらこそ、いつからシンザの肩持つようになったんだよ! 引っ込んでろ、文句があるならよそで飲めよっ!」


 さらに飲んだくれが一人加わって、クソ依頼であることを保証してくれた。

 受付は否定しない。からかわれているだけかと思うときもあったが、確かに今俺は、飲んだくれどもに肩を持たれていた。


「どういうことだ?」

「よく見ろ、報酬の桁が一つ足んねーんだよ。コリン村つったら、片道4日はかかるぞ?」

「で、討伐するのはゴブリンの群れだ。おまけに群れてるってことは、でかいホブゴブリンが束ねてる。いいかシンザ、これはソロで受ける仕事じゃねぇ」

「そういうことか。おお、確かに報酬が少ないようだな」


 断りを入れずにバインダーをめくると、他にいくらでも報酬額の高い依頼があるようだった。

 受付の男はいいやつだと思っていたのだがな。俺が感じていたよりもずっと、したたかな仕事をするようだ。


 俺と目が合うと、彼は悪びれずに笑っていたよ。


「だがまあ考えてみろシンザ、村の方はお前を大歓迎してくれるぞ」

「そうなのか?」


「そりゃそうだ。満足に金も払えん村に、小さな英雄様のご登場だ。それにクラウンで支払えない分の報酬はよ、きっとな、お前好みの若い子がよ、身体でよぉー?」

「ああつまり、俺以外に受けそうなバカはいない、ということか」


 なぜだかわからんが誤解されているようだ。

 受付が俺の肩に手を回して、わかるようなわからん理屈を展開した。いややはりわからん、アンタが女好きって点以外は何もな……。


「そうだ。受けるとしたら、最初から村を騙すつもりの詐欺師か、それか――シグルーンのバカくらいだぜ」

「そうきたか」


 確かに俺はシグルーンが受けそうなクエストがしたいと言った。

 そこをまんまと突かれたわけだ。シグルーンくらいしかまともに受けないと聞くと、一転して興味を惹かれてくる。さぞやしょっぱくてハードな仕事なのだろうな……。


「やろうぜ? マジでモテモテになれるぜシンザ。冒険者やるなら、一度はこれを経験しねーと冒険者とは言えねーな。金以外の報酬ってのは、貰うとなかなか良いもんだぜ?」

「わかった、やる」


 バインダーを元のページに戻して、動機は下心ではないと受付に顔付きで示した。

 俺は皇帝家の一員だ。民にタダ飯を食わせてもらっている以上、ニートの俺もたまには恩を返すべきだ。


「おいシンザッ、人が親切にしてやってんのにてめー! てめーバカだろっ!」

「ギャハハッ、姉さんに気に入られるのも納得じゃねーか!」

「よっしゃシンザ、ならお前にこれやるよっ! ほら開けてみろ!」


 こっちに来ないで酒にかじり付いていたおっさん冒険者がいる。そいつから何か重たい布袋を投げ渡された。

 中を見てみれば、それは塩だ。内地で取れる岩塩と違って海の匂いがする。


「こんなにいいのか?」

「こっちじゃただの調味料だがよ、そういうのは内地じゃ結構な価値が出るんだよ。まあがんばりな、腕は良いが世間知らずな新人ちゃんよ」


「世間知らずで悪かったな。ありがたくいただくことにする」


 こうして新人冒険者のシンザはゴブリン討伐のクエストを受けて、辺境の地コリン村を目指すことになったのだった。


――――――――――――――

- 冒険 -

 【コリン村を救え】

 ・達成報酬 STR+5 シャベルLV+1 EXP200

 ・『このお人好しめ。だが悪くないあらすじだぞ』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ギルドで仕事を3つ達成しろ】

 ・達成報酬 EXP450/???

 ・『楽な依頼を3つ受ければいいものを、物好きめ』

――――――――――――――


 依頼を受けてギルドを出ると、邪竜の書の内容が更新されていた。

 しかしこの、シャベルLV+1とはなんなのだ……?


 そもそもだ、スコップのことをシャベルと呼んだり、逆にシャベルをスコップと呼ぶこともある。

 どっちがどっちなのやら……。ジラント、大ざっぱ過ぎる、これだけじゃ何もわからん……。


ドゥリンのエピソードの続きは次章からになります。

分割の都合で次話は文字数が少なめです。

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[良い点] 相変わらず出てくるキャラがめっちゃいいですね。 酔っぱらいに絡まれるテンプレ展開かと思いきやしっかりとアドバイスと面倒を見てくれる気のいい兄貴キャラこういうのは読んでいて気持ちいいですね。…
[一言] 如何わしい健康食品でも売ろうとしたら拒否されたってところかな?シンザが留守の間が心配だけど一人じゃ全部賄えないからねぇ
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