4-3 錬金術師アンドヴァラナウトに会えと姉上が言う
城を抜け出して赤の大通りに出た。
そこからいつもとは異なる方向、南側へと俺は歩き出した。
実はアトミナ姉上に頼みごとをされてしまったのだ。
いつも良くしてくれるからな、どうしても断りきれなかった。
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「そうだわ、アシュレイの勝利祝いに、お菓子でも作ろうかしら。でも小姓にいちいち注文すると、口うるさいのよね……」
食事を済ませて茶をすすっていると、チラチラと俺を見ながら、アトミナ姉上がそれみよがしに言った。
「わかった、代わりに買ってこよう」
「そう言ってくれると思ってたわ。それじゃね、今から言う店で買ってきて欲しいものがあるのっ!」
皇族として顔が知れていると、好きに城下へ行けなくて窮屈だ。
皇位継承権などいっそ放棄してしまいたいくらいだった。だがそういうシステムはこの国にはない。
そもそも俺が継承権の最下位にいることすら、大半の者は知らんのだ。
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姉上ご指名の店を見つけた。
錬金術師アンドヴァラナウトの工房。そう記された看板をぼんやりと見上げた。
妙な知り合いもいたものだ。錬金術師、あまり聞かない職業だ。
一体どんな得体の知れない男が経営しているのやら興味を覚える。その反面、よくわからない店なのもあって、入るのに若干の勇気がいった。
それから意を決して店の扉をくぐってみると、小綺麗な外側と違ってずいぶんとうさんくさい店だった。
陳列棚の上に無数の瓶が並んでいる。その中には色とりどりの液体や粉末、その他よくわからないものが入っていた。
「もし、アンドヴァラナウト氏はいるか?」
店主の姿はない。まさか昼寝でもしているのだろうか。
くだんのアンドヴァラナウトが現れるまで待つことにして、別の棚を眺めていった。
二枚貝に詰められた傷薬。瓶詰めの下剤、やたらと高価な紫の顔料、これは、媚薬……?
姉上との接点が気になった。妙な男だったら、ゲオルグに相談するべきだな……。
しかし媚薬か。コイツのせいでうさん臭さがバイプッシュだ。
ああ、バイプッシュというのは異界の言葉でな、バイというのは両性愛者、プッシュというのは雄という意味だそうだ。つまり――
「ひゃ、ひゃわわっ!?」
その時、甲高い少女の声が暗い店に響いた。
だが周囲を見回してもどこにも人影はない。
いや、いた。カウンターに隠れていてよく見えなかったが、ローブ姿の小さな女の子が目元から上だけ出してこちらを見ていた。
すっぽりとフードもかぶっているので、まん丸な目ばかりに視線が奪われた。
「は、はわわ……っ」
「驚かせてすまん。お父さんはいるか?」
「お、おっとぅ? おっとぅは、お空にいましゅ……」
「それは悪いことを聞いた。お母さんはいるか?」
「お、おっかぁもお空でしゅ……」
両親が他界していると聞いて、罪悪感と保護欲を覚えた。
こそこそカウンターに隠れるのは、人より臆病な証だろうか。
「そうか。重ね重ねすまん。では店長を呼んでくれ」
「はい」
ところがローブの娘さんは動かない。
室内だというのにフードをかぶっているのは、俺を警戒しているか。
それともただの恥ずかしがりなのか。変わった子だった。
「その、お嬢さん、悪いが店長を呼んでもらえないだろうか。俺はこんなだが、さるお方からの使いなのだ」
「はわわっ、い、いましゅ!」
少女が手を上げる。控えめに短くな。アトミナ姉上が好きそうな、かわいい子供だった。
しかし困ったな。いると言われて周囲を見回してみても、辺りに他の人影はない。
まさか透明人間が店主だとでも、言わないでくれよ。
「お嬢さん」
「ドゥリンは、ドゥリンでしゅ……」
「そうかチップか。店主を呼んでくれ」
銅貨一枚をカウンターに置いて、あらためて少女ドゥリンに頼んだ。
姉上とは親しいのだろうか。こんな子がいたら、姉上の方がほっておかないと思う。
「だから……違うでしゅ……。ドゥリン……アンドヴァラナウト……」
「ああそれだ。アンドヴァラナウト氏に会わせてくれ」
「錬金術師でしゅ」
そう言ってドゥリンが大きく手を上げて、忘れていたのかフードを慌てて下ろす。
そこに紺色の長い髪が現れて、それをドゥリンの手がローブの外にかき上げた。
そこから先はにらめっこだ。なぜか急に背伸びを始める少女を、小一時間眺めると、ついに足が疲れたのか元の身長に戻る。
それからようやくだな。ようやく唐変木と呼ばれる俺も理解した。
彼女が店主のアンドヴァラナウト氏だと。
「はわわっ、なんかお兄さんっ、ひかってるでしゅよぉーっ!?」
「ああ、一見俺は人間に見えるかもしれないが、実はな――ホタルなんだ」
こういうパターンは初めてだ。
邪竜の書を取り出して中をのぞくと、気づかぬうちに項目が増えていた。
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- その他 -
【錬金術師アンドヴァラナウトと会え】(達成)
・達成報酬 EXP+45 新たな出会い(受け取り済み
・『不用意に光りたくなかったら、こまめに我を開け』
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- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】12
【Exp】1330→1375
【STR】26
【VIT】100
【DEX】90
【AGI】77
【Skill】スコップLV3
『その小娘とは仲良くしておけ、けして嫌われるなよ』
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この書のおかげで、俺はゲオルグと引き分けのところまでたどり着けた。
だがな、こういうのはもう勘弁してくれジラント……。