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4-3 錬金術師アンドヴァラナウトに会えと姉上が言う

 城を抜け出して赤の大通りに出た。

 そこからいつもとは異なる方向、南側へと俺は歩き出した。


 実はアトミナ姉上に頼みごとをされてしまったのだ。

 いつも良くしてくれるからな、どうしても断りきれなかった。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



「そうだわ、アシュレイの勝利祝いに、お菓子でも作ろうかしら。でも小姓にいちいち注文すると、口うるさいのよね……」


 食事を済ませて茶をすすっていると、チラチラと俺を見ながら、アトミナ姉上がそれみよがしに言った。


「わかった、代わりに買ってこよう」

「そう言ってくれると思ってたわ。それじゃね、今から言う店で買ってきて欲しいものがあるのっ!」


 皇族として顔が知れていると、好きに城下へ行けなくて窮屈だ。

 皇位継承権などいっそ放棄してしまいたいくらいだった。だがそういうシステムはこの国にはない。

 そもそも俺が継承権の最下位にいることすら、大半の者は知らんのだ。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



 姉上ご指名の店を見つけた。

 錬金術師アンドヴァラナウトの工房。そう記された看板をぼんやりと見上げた。


 妙な知り合いもいたものだ。錬金術師、あまり聞かない職業だ。

 一体どんな得体の知れない男が経営しているのやら興味を覚える。その反面、よくわからない店なのもあって、入るのに若干の勇気がいった。


 それから意を決して店の扉をくぐってみると、小綺麗な外側と違ってずいぶんとうさんくさい店だった。

 陳列棚の上に無数の瓶が並んでいる。その中には色とりどりの液体や粉末、その他よくわからないものが入っていた。


「もし、アンドヴァラナウト氏はいるか?」


 店主の姿はない。まさか昼寝でもしているのだろうか。

 くだんのアンドヴァラナウトが現れるまで待つことにして、別の棚を眺めていった。


 二枚貝に詰められた傷薬。瓶詰めの下剤、やたらと高価な紫の顔料、これは、媚薬……?

 姉上との接点が気になった。妙な男だったら、ゲオルグに相談するべきだな……。


 しかし媚薬か。コイツのせいでうさん臭さがバイプッシュだ。

 ああ、バイプッシュというのは異界の言葉でな、バイというのは両性愛者、プッシュというのは雄という意味だそうだ。つまり――


「ひゃ、ひゃわわっ!?」


 その時、甲高い少女の声が暗い店に響いた。

 だが周囲を見回してもどこにも人影はない。


 いや、いた。カウンターに隠れていてよく見えなかったが、ローブ姿の小さな女の子が目元から上だけ出してこちらを見ていた。

 すっぽりとフードもかぶっているので、まん丸な目ばかりに視線が奪われた。


「は、はわわ……っ」

「驚かせてすまん。お父さんはいるか?」


「お、おっとぅ? おっとぅは、お空にいましゅ……」

「それは悪いことを聞いた。お母さんはいるか?」


「お、おっかぁもお空でしゅ……」


 両親が他界していると聞いて、罪悪感と保護欲を覚えた。

 こそこそカウンターに隠れるのは、人より臆病な証だろうか。


「そうか。重ね重ねすまん。では店長を呼んでくれ」

「はい」


 ところがローブの娘さんは動かない。

 室内だというのにフードをかぶっているのは、俺を警戒しているか。


 それともただの恥ずかしがりなのか。変わった子だった。


「その、お嬢さん、悪いが店長を呼んでもらえないだろうか。俺はこんなだが、さるお方からの使いなのだ」

「はわわっ、い、いましゅ!」


 少女が手を上げる。控えめに短くな。アトミナ姉上が好きそうな、かわいい子供だった。

 しかし困ったな。いると言われて周囲を見回してみても、辺りに他の人影はない。


 まさか透明人間が店主だとでも、言わないでくれよ。


「お嬢さん」

「ドゥリンは、ドゥリンでしゅ……」


「そうかチップか。店主を呼んでくれ」


 銅貨一枚をカウンターに置いて、あらためて少女ドゥリンに頼んだ。

 姉上とは親しいのだろうか。こんな子がいたら、姉上の方がほっておかないと思う。


「だから……違うでしゅ……。ドゥリン……アンドヴァラナウト……」

「ああそれだ。アンドヴァラナウト氏に会わせてくれ」


「錬金術師でしゅ」


 そう言ってドゥリンが大きく手を上げて、忘れていたのかフードを慌てて下ろす。

 そこに紺色の長い髪が現れて、それをドゥリンの手がローブの外にかき上げた。


 そこから先はにらめっこだ。なぜか急に背伸びを始める少女を、小一時間眺めると、ついに足が疲れたのか元の身長に戻る。


 それからようやくだな。ようやく唐変木と呼ばれる俺も理解した。

 彼女が店主のアンドヴァラナウト氏だと。


「はわわっ、なんかお兄さんっ、ひかってるでしゅよぉーっ!?」

「ああ、一見俺は人間に見えるかもしれないが、実はな――ホタルなんだ」


 こういうパターンは初めてだ。

 邪竜の書を取り出して中をのぞくと、気づかぬうちに項目が増えていた。


――――――――――――――

- その他 -

 【錬金術師アンドヴァラナウトと会え】(達成)

 ・達成報酬 EXP+45 新たな出会い(受け取り済み

 ・『不用意に光りたくなかったら、こまめに我を開け』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 目次 -

【Name】アシュレイ

【Lv】12

【Exp】1330→1375

【STR】26

【VIT】100

【DEX】90

【AGI】77

【Skill】スコップLV3

『その小娘とは仲良くしておけ、けして嫌われるなよ』

――――――――――――――


 この書のおかげで、俺はゲオルグと引き分けのところまでたどり着けた。

 だがな、こういうのはもう勘弁してくれジラント……。


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9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活
新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回登場したこの子とどう絡んでいくのか楽しみですし何やら重要そうな様子楽しみ! シンザの一芸はやはりジラントさんの悪戯か?
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