表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/225

21-1 スコップ一本で刻む内戦の終止符 - 電撃戦 -

「付き合わせて悪かったな」


 一人でジュリアスの足下を奇襲路を築くつもりだったが、今日まで俺を照らしてくれた太陽の欠片は、地下帝国の空に還ってしまったのだった。

 そこでキャラルが暇していると言うので、彼女に明かりを持ってもらうことにした。


「いいよ。だって決戦前夜だし、シンザ――じゃなくて、アシュレイが無茶する前にゆっくり話したかったから……」

「決戦前夜……そういった発想はなかったな」


「えぇ……っ、シンザは不安じゃないの……? 戦争に加わるんだから、展開次第じゃ死んじゃうかもしれないんだよっ!?」

「負ける気はない。厳しく見積もっても9割九分勝てる戦いだ。……と、言うと負けフラグになるのか……。やはり今のはなしだ」


 正面の硬い土をうがち、圧縮せずに後方に払った。

 今回は一定周期に残土をためる空洞を作って、土の始末をエリンの民間人に任せることにしたのだ。


 俺一人の力ではなく、皆の力で勝利への道を築く。

 少しでも俺の負担を減らそうというプィスの提案だったが、これは悪くない。


「ねぇ、この戦いが終わったら……アシュレイはどうするの……?」

「……エルキアに行く」


「エルキアって……北のエルキア領? なんで?」

「ケルヴィムアーマーを奪い去った連中は、そこを目指すそうだ。ジラントがたった一人でそこを守っている……」


「そう……」


 包み隠さずに答えると、どうしてかキャラルは黙ってしまった。

 女性というのはやはり俺にはわからん……。だが、わからんなら聞けばいい。


「なぜ急に落ち込む?」

「落ち込んでなんかいないよっ。ただ……アシュレイにとって、ジラント様は特別なんだね……」


「ああ、あれには世話になった。ヤツには人生を変えてもらった恩がある。特別かと聞かれたら、ジラントは俺にとって特別だ」

「それもそうっか……。じゃあ、質問ちょっと変えるね……? 女の子として、特別……?」


「質問の意味がわからん。だが、ジラントに父上と呼ばれるとむずかゆい。ジラントは俺を父親の代わりにしたいようだ」

「それってつまり……娘感覚ってこと……?」


「……かもしれん。本人には言えんがな」


 そう答えて後ろを見ると、キャラルが満面の笑顔を浮かべていた。

 やはり女はわからん。


「じゃあ、平和になったら……うちの水夫になるって話、試してみない……? シンザさえよかったら、私いつでも歓迎だよ……?」

「本当か……!? いや、だが、俺にも少し考えていることがあってな、即答はできん」


「え、何かしたいことあるの……?」

「復活した地下世界の発展を見守りたい。アンタと海を渡るのも楽しみだが、発展という最も見応えのある部分から目を離すのもどうかと思う」


「だったら、一月は私の船で過ごして、もう一月はそれを見守る生活っていうのはどう……? 少し離れた方が発展を実感しやすいんじゃないかな……」

「おお……それは名案だ、そうしてしまうか」


 だったらなおのこと、生きてエルキアから帰ってこなければな。

 そう言葉に加えかけて止めた。キャラルを不安にさせるだけだ。


「さて帰るか」

「え、奇襲路は……?」


「俺の直感によると、この真上がジュリアスの本陣だ。残りは当日に掘るとしよう」

「……アシュレイってさ、なんか最近、どんどん人間離れしていってない?」


「かもしれん。だが使える力は有効活用するのみだ」

「あ、ちょっと待って、アシュレイ」


「なんだ? んな……っ!?」


 キャラルは俺の横顔に回り込んで、急に近付いてきて背伸びをした。

 何か今、やわらかくて湿った感触が頬に走った。これはまさか……。


「決戦前夜だから……それっぽいことしてみた……。アシュレイ、死んだら絶対許さないからね! 絶対戻ってきてねっ!」

「死ぬ予定はない。俺は元から、ジラントのように世界のために命を賭けるたまではないからな。必ず帰ってくると約束する」


「とか言って、夢中になると止まらなくなるのもアシュレイだから心配だよ……。嘘付いたら、一生うちの水夫としてこき使ってあげるんだから!」

「いやその理屈だと、死んだ俺が水夫をすることになるのだが……?」


 俺たちは言葉遊び同然のやり取りを繰り返し、妙な興奮に自分たちが包まれるのを感じた。

 決戦前夜か。地上に戻ったらもう少しキャラルと一緒に過ごしたい気分だ。


 そう彼女に気持ちを伝えたら、よくわからんがキャラルははしゃぎだした。

 明日、俺たちは内戦を終わらせる。これが最後の夜と言えなくもなかった。



 ・



 先日の夜にエリンを出発した連合軍は、ジュリアス率いる南軍の背後に陣取った。

 宣戦布告の方はもう済んでいる。俺たちは北軍と南軍の双方にケンカを売り、地底と地上の両方から朝が訪れるのを待った。


 そしてついに時がきた。

 ジュリアス率いる南軍に地上の主力が突っ込み、同時には俺は地上――南軍本陣に繋がる地下道を開通させた。


 大量の兵員を一気に地上へと運べるように、でかいトンネルにした。


「な、なんだっ、地面が崩れ……うっ?!」


 当然だがでかい分すぐにバレた。

 次々と兵たちが俺たちを取り囲もうとしたが、先陣を切ったのはシグルーンだ。

 俺たち奇襲部隊はまだ薄暗い早朝の敵本陣になだれ込み、次々と近衛兵を倒してジュリアスの姿を探した。


「ジュリアス皇子、お覚悟を!」

「おおっ、あっちのようだぞっ、シンザ!」

「どういう耳をしているんだ、アンタ……」


 ジュリアスと本陣天幕が見つかったようだ。

 シグルーンの背を追って、群がる兵たちを殴りしてゆくと、いともあっさりと俺たちはキングの目前まで駒を進めていた。


 自分のやったことだが、拍子抜けするほどにあっさりといった。


「なんだ、アシュレイか……ゲオルグが殺しにきたかと思ったよ」

「俺だ。俺で悪かったな、ジュリアス兄上」


 ジュリアスの率いる兵は精強だ。

 少数精鋭での奇襲ということもあって、時間をかけていたら周囲の敵軍に俺たちが潰される。


「僕を殺すのかい……?」

「それが嫌なら降伏しろ。アンタを斬ると後が面倒だ」


「ま、賢明だね。なら追いつめてみなよ」

「そうする」


 ずっと嫌っていた兄だったが、今日のジュリアスはどこかおかしかった。

 妙な感じだが、今はジュリアスから狂気を感じない。

 次々とシグルーン含む精鋭が敵の近衛兵を倒してゆくと、すぐにジュリアスを取り囲めた。


「降伏しろ」

「いいよ、僕もモラクも叔母上も君に負けた。降伏しよう」


「……あっさりとし過ぎではないか?」

「あらがったところで君には勝てない。死んでいるはずのゲオルグが一軍に合流して、エリンの兵力が膨れ上がり、こうして挟撃を受けた以上、もうダメだと君たちに降伏するつもりだった」


 コイツ、本当にジュリアス皇子か……?

 あのマザコンのジュリアスが、一度も幻想の母親を引き合いに出さない。

 いや、だがこれは朗報だ。ジュリアスに降伏宣言をさせよう。


「ならば降伏を――」

「それは困る」


 ところが――どこからか聞き覚えのある声がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活
新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ