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19-14 託された秘宝

「バラバラになった世界を一つに繋ぐならば、あの場所を復活させるのが最も早いだろう。仮に俺が皇帝になったところで、地下社会で獣人はさらわれ続け、エルフは特定の地区で集まって暮らす他にない。だったらあそこを復活させて、全ての種族が真の意味で共存する土地を生み出せばいい」


 あの場所は世界各地に繋がっている。

 山岳や大河の底を進む地下道は、どのルートよりも素早く目的地にたどり着ける。


 あそこは交通の要所だ。交通の要所には町が生まれる。

 多くの者が行き来し、そこで暮らす者たちの共存を目にすれば、帝国の歪みを正せるかもしれない。


「バカ者! 復活させる方法があったら、とっくにやっておるわっ! 父上と母上はあの地にあった太陽を、地下帝国を照らしていた秘宝をその手に、この世界から立ち去ってしまったのだ! 残してくれてもよかったのに、あの分からず屋どもがっっ!!」


 太陽を作る方法か……。

 有角種の連中に頼んでも、こればかりは無理だろうか。だが諦めるのは――


「それならここにあるわ」

「……ぇ」


 ジラントの喉から、弱々しい少女の声が響いた。

 今なんと言った? ここにある……? 初代皇帝が持ち去ったのではなかったのか?


「えっええっ、それってどういうことっ!?」

「この家を出て空を見上げてみるといい。そこにあるものが、かつてア・ジール地下帝国を照らしていたものだ。持って行ってもかまわんぞ」


 ジラントは呆然と立ち尽くしていた。

 しかしそれは一時のことで、すぐに書斎から飛び出して家の外へと出ていった。


 俺たちも遅れて後を追うと、家の軒先に膝を突いてへたり込んでいるジラントを見つけた。

 地下空洞の上空を見上げると、薄紫色の何かが淡く光っている。

 よく見るとそれは球体をしていて、太陽と言われたら太陽に見えてきた。


「こんな……こんなところに、隠していただなんて……。父上、母上……こんなの、人が悪いぞ……」


 わからんが、出力を下げているのだろうか。

 こういったものは、有角種のプレアに見せておけば、後は勝手に上手くやってくれるだろう。


「当時は地下帝国を蘇らせようとする者も多かった。だが神々の秘宝をあそこに残しては、我が子たちの成長の害になると彼らは考えた」

「十分に自立した今なら、渡しても構わないと言うはずよ。持って行かなかったということは、そういうことだもの」


 アザトが術を放つと、紫色の太陽が降りてきた。


「わっわっ、空が降って、うわっ!?」

「わはははっ、愉快愉快!」

「大丈夫か、キャラル?」


 まるで空が降ってくるかのような錯覚を覚えた。

 驚いて腰を抜かしそうになったキャラルを支えて、シグルーンが尻餅を突いてひっくり返るのをそのままにした。


「あ、ありがと……。はぁっ、ビックリしたよ、もう……」

「おーいシンザァ、拙者も起こせ、冷たいぞ」

「アンタはそんなにデリケートじゃないだろ……。よっと」


 シグルーンを助け起こしてから、俺は降ってきた太陽に目を向けた。

 キャラルに肩を貸しながらそれに近付いてみれば、人の頭二つ分の大きさしかない。

 巨大と言えば巨大だが、太陽としてはあまりに小さな玉だった。


「でもさ、みんなは大丈夫なの……? これなくなったら困らない……?」

「リザードマンは元から穴蔵で生きてきた種族だ。ヒカリゴケの明かりだけでも問題ない。妻は、少し困るだろうな……」 

「私はあなたと一緒について行くわ。あの地下帝国でもう一度暮らせるなら、復活のお手伝いがしたいの」


 アザトに微笑んだ後に、奥さんは俺にも笑顔をくれた。

 それはアザトも同じだった。二人は何かを確かめるように俺を見つめて、顔を合わせて納得したようだった。


「本当に……本当に蘇るのか、あの場所が……?」

「らしいな」


 ジラントの方はまだへたり込んでいた。

 キャラルはもう大丈夫そうなので、俺はジラントの前に立って手を差し伸べた。

 するとまるで子供みたいな目で不思議そうに、ジラントは俺の手のひらを見つめるばかりだ。


「いいではないか! これがあればフィンブル領の足下に、大軍と駐屯させられるぞ! 後はシンザァッが敵の足下に通じる道を造って、中枢を制圧すればっ、内戦は即チェックメイトだっ!」

「相手の勢力が一つならそれが通じただろうな。だが今回は内戦だ、敵の頭が多過ぎる。地下からの奇襲というカードを一度切れば、その後は警戒されてしまうだろう」


 それはそうと、俺はいつまで手を出したまま待てばいいのだろう……。

 ところがもう一度ジラントに視線を戻すと、神の瞳に大粒の涙が浮かんでいた。


「父上……?」


 鳴き声でそんな言い方をされたら、胸が締め付けられるから止めろ。

 俺は一方的にジラントの手を取って、ちょっと乱暴に引っ張り上げた。


「俺が本当にアウサルと同一人物だとするならば、アンタのもう一人の父親になってもいいのだが。しかしだったらもう少し、可愛げのある娘らしく頼む」

「…………それは、本当か?」


「い、いや、意外にも素直に受け止めてきたな……。いつもの調子で、怒ってくれてもいいんだぞ……?」

「無理だ……。我が輩は、父上に捨てられたのだ……。アシュレイよ、この我が命じる。我が輩の父上になれ……」


「アンタの方が遙かに年上だろう。無茶を言うな……」


 素直で弱々しいジラントに当惑した。

 だが、もしかしたらこれが本当のジラントなのかもしれん。

 父親と母親だと思っていた存在が世界から去り、後には重責だけが残った。酷い人生だ。


 そんな中、奇書は空気を読まずに光を放ち、そのページに新たなミッションを書き加えていた。


――――――――――――――

- 開拓 -

 【地下帝国ア・ジールを復活させろ】

 ・達成報酬 EXP5000/花園と沃野

『我が輩はもう一度、あの光り輝く世界を見たい……。頼む、あの楽園を蘇らせてくれ。そして、我が輩の父上となれ……』

――――――――――――――


 ジラントの本性がが、これほどまでのファザコン娘だとは思わなかった……。

 それほどまでにあの地の復活を願うのならば、喜んで俺も事業に貢献しよう。

 父上扱いはその、まだ心の準備ができていないので、勘弁してくれ……。冗談のつもりだったのだ……。


 こうして俺たちはアザトとその妻、リザードマンの少数精鋭を引き連れて、次の停泊地にてヘズ商会の商戦団と合流した。

 リザードマンと竜人と天使の姿に、誰もが驚いていたがな、不思議なことにすぐに皆が打ち解けた。


 その辺りはシグルーンの手柄だ。

 あの女には、人と人の壁というものが存在していないからな。

 シグルーンよりリザードマンの方が純朴でマシだと思わせる部分すらある。


 船団はけた違いの航行速度でありとあらゆるものを追い越し、やがて――あの断崖絶壁に築かれたエリン港へと俺たちを導いた。

 既に帝国本土では内戦が勃発していた。


 父上の時代の因縁をも巻き込み、帝国諸侯は南北の軍勢に分かれ、決戦の幕開けを待ち望んでいた。


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[気になる点] 「それならここにあるわ」 と言ったのはジラント? 天使の奥さんでは無く?
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