19-12 ただの一度も選ばれることがなかった種族 2/2
港を抜けて町を進む。入植で生まれた町というだけあって、道という道が入り組んでいて複雑だ。
石造りの建物が都市にはひしめき、白い外壁たちが明るい荒野の日差しを反射させている。
「あ、あれ……? 今、あそこに何かいなかった……?」
「うむ、何かいるようだなっ!」
しばらくすると大通りが見つかった。
その通りを抜けて道を進んでゆくと、奇妙な気配が一つまた一つと増えていった。
こうしてキャラルが気づいた頃には、既に取り囲まれていたとも言う。
「おーいっ、いるのはわかっているぞーっ、出てこーいっ!!」
「いや、出てこいと言われて、ホイホイ出てくる人はそういないでしょ……」
「とはいえ囲まれているからな、姿を現すのも時間の問題だろう」
「えっ!? 私たちって今、囲まれてるのっ!?」
「ああ。だが敵意は感じない」
俺たちはその場にたったまま、向こうの動きを待った。
意地が悪いぞ、ジラント。こいつらの正体を知っているというなら、そろそろアドバイスをしてくれ。
『うむ、まずはその目のレンズを外せ』
妙な要求だった。もし竜の目を見せたら相手を警戒させてしまう。
指示に従うべきか迷っていると、ジラントが光と共に実体を現し、石だたみの上に着地した。
「あ、ジラント様」
「現れたかっ! もう少し登場が遅かったら、挨拶代わりにこの剣を披露していたところだぞっ!」
そう言いながらシグルーン剣のギミックに手をかけたので、俺は飛びつくようにその手を止めた。
キャラルも同じことを考えたのか、手と手が重なっていたな。
「ご、ごめ……っ」
「いやいい、悪いのはいつだってシグルーンだ」
「それはないぞーっ、シンザァッ!?」
しかしジラントが姿を現した以上、もう今さらだ。
俺も要求通りにレンズを外して、今は誇りである竜の目をさらした。
当然ながら向こうの連中は、俺の異形にヒソヒソと声を上げて驚いていた。
「む、むぅ、だがコイツら何か妙だぞ……」
それでもシグルーンは剣から手を話さない。
「というか、滅亡都市メルクェルって名前なのに、なんで人間が暮らしてるの……?」
「人間? 何を言っているキャラル、コイツらは人間ではないぞ」
「へ……? じゃ、じゃあなにっ、まさかアビスの怪物!?」
「いや、アレとは感じが違うな。やたら機敏で、動きに知性を感じる」
そろそろ種明かしをしてくれ、ジラント。
アンタはコイツらの正体を知った上で、ここへの遠征を薦めてくれたのだろう。
「ククク……当然だ。こやつらは人間ではない。もちろん獣人でも、有角種でも、エルフでもない。……早く出てこい。このジラントが紹介してやろうというのに、肝心の貴殿らが正体を現さなければ話が進まんぞ。それにほれ見ろ、アウサルも一緒だ」
ジラントがふわりと浮遊して、俺の両肩に後ろから手を置いて見せびらかした。
「何を勝手なことを言っている……。俺はシンザだ、先祖のようなド変人と一緒にするな」
「あっ、出てきたよ。あの、初めまし――え、ええええーーっっ?!!」
正面の物陰から彼らの一員が姿を現した。
その全身は鱗で覆われており、2m近い恵まれた体躯と、尻尾を持っていた。
キャラルが驚くも無理もない。それはリザードマンと呼ばれる空想上の種族だった。
「なんだ、リザードマンか。もったいぶった割にあっけないな!」
「何言ってんのっ!? 全然あっけなくないよっ!?」
だからジラントはレンズを外せといったのか。
リザードマンは俺とジラントの姿に己との共通点を見つけて、次々と建物の陰から現した。
「驚イタ……。俺タチニ、少シ、似タ、ニンゲン……」
「ジラント……」
「アウサル……。チチニ、聞イタ、名前……」
敵意はないようだが、リザードマンたちはカトラスやウォーハンマーで武装していた。
見回してみれば誰も彼もが巨大で、鋭いその牙に艶やかな鱗も相まって、なかなか威圧感のある風体だ。
「よくみろ、ただのドラゴン人間だ。シンザとシグちゃんと変わらん」
「それって目だけでしょ!?」
次々と後続が現れて、リザードマンたちの数は20名ほどに膨れ上がった。
最初に姿を現したやつがリーダー格のようで、ソイツだけが俺たちの前に歩み寄ってきた。
「ニンゲン、何シニ、来タ?」
「うむ、我が輩たちは使者だ。悪いが案内を――」
「あ、シンザが光った……」
だがすまん、ようやく邪竜の書が俺たちの到達に気づいてくれたようで、まぶしい光が俺を包み込んでいた。
これにリザードマンたちが驚かないはずがない。
彼らは光に弱いのか、まぶしそうに顔を覆った。なんてはた迷惑なやつなのだろうな、俺は。
邪竜の書に目を落とすと、この強い輝き相応の結果がそこに記されていた。
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- 探索 -
【ザルツランドの西、滅亡都市メルクェルに到達しろ】(達成
・達成報酬 EXP1600(獲得済み) 遺物の獲得(未取得)
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- 探索 -
【領地エリンに帰還しろ】
・達成報酬 EXP1
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- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】49→53
【Exp】10980→12580
【STR】120→130
【VIT】305→330
【DEX】275→281
【AGI】263→281
【Skill】スコップLV5
シャベルLV1
帝国の絆LV2
方位感覚LV1
移動速度LV2
穴掘り30倍
『場をわきまえろ! 我が輩が喋っているときに光るでない!』
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そうは言われても、これが仕様だとアンタが言うから、こっちだって諦めているのではないか。
新しいミッションの方はしょっぱいな……。
「すまん、俺は突然光ってしまう体質なのだ。通りすがりのホタルだと思ってくれ」
いつもの発光が終わると、リザードマンがたちが俺に向けて顔を上げた。
いやだが何か妙だ。一人、また一人と床に膝を突いて、示し合わせたかのように一斉にひざまずいた。
「マサカ、本当ニ、アウサル様、ナノカ……?」
「リザードマン、ノ、救世主……!」
「アウサル様……!」
先祖は全ての種族を救ったと聞いたが、まさかそれにトカゲ人間まで含まれているとは思わない。
しかもそいつらは世代を交代しても、先祖のことを忘れずに覚えていてくれた。
「だから違うと言っているだろう……。俺はシンザだ」
「クク、うちのシンザが迷惑をかけたな。地底で暮らすそなたたちにとっては、さぞ迷惑なホタル野郎であっただろう。……では本題だ、アザトに会いたい、我らをそなたたちの国に連れて行ってくれ」
アザト。それが彼らの国王か何かの名前のようだ。
俺たちにひれ伏したリザードマンたちは顔を上げ、よっぽどそのアザトとやらに俺たちを会わせたいのか、どこか誇らしげに案内を買って出てくれた。




