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19-10 南海に浮かぶ蜃気楼

・キャラル


 俗に言われる沿海州の最果て、ポートアケは元々は小さな漁村だったと船長に聞いた。

 場所は獣人の国の西部沿岸。航海が活発になった時代に、ヒューマンの入植者が集まる形で生まれたそうだ。


「毎度。しかし最近のヘズ商会はすげーな……どっからこんなお宝手に入れてくんだよ?」

「そこは企業秘密です。それなりにヤバい橋渡ってるから、まねしようとか考えても割に合わないと思うよ」


 シンザのかき集めた財宝を私はいつもの取引先に卸した。

 彼らはここから東にあるヒューマンの王国でこれを売りさばき、それなりの利益を上げる。


「ないない、こっちだって損のしようのない手堅い商売だ。ただでさえ、海運業は船が沈んだら大損だしな……。まねなんて俺には無理だ」


 こっちがシンザのかき集めた財宝を卸すと、向こうはこっちでしか手には入らない香辛料や絹、茶、獣人の薬に、白金と呼ばれる珍しい金属や、ダイヤモンドで支払ってくれる。

 それでも船倉に限界があるので、足りない分は金貨を貰う。こっちの地方では金が帝国より安いので確実に儲かる。


 ただしそれはこの人が言うとおり、船が一隻も沈まなければの話だ。


「それじゃ、また来るよ!」

「ぜひそうしてくれ。帝国が荒れてるうちはおこぼれにありつけるんだろ? それまでに稼げるだけ稼がせてもらう」


「ま、そう考えるよね」

「おう、平和になりゃ、こういうのは国内の人間に売った方が儲かる。財宝を手放す理由もないな。なら今だけだろう」


 カマをかけられているのかな。


「そうやって詮索するなら、取引先変えるけど?」

「おいおい、こりゃ世間話だ。俺は戦争に巻き込まれるのはごめんだ」


 私は探られないように釘を指してから、取引先の商館を離れた。

 ポート・アケは今日も暑い。幸いか不幸か、ここ一帯は砂地の地面のせいか緑が少なく、それだけ湿気が少なくカラッとしているところだろうか。


「取引はどうでした?」

「あ、船長。待っててくれたんだ……」


「女の子一人を歩かせるわけには行きませんよ。ただでさえアイツの大事な忘れ形見ですし」

「軍辞めてこっちに来てくれてありがとう。船長がいなかったら、途中でくじけてたかも……」


 私は兄の右腕だった人と並んで、カラカラに乾いたポート・アケの空の下を歩いた。

 黄色い砂にヤシの木に、材木と繊維を使った家々が湾口地区にひしめいている。


「帝国の状況、あまりよくないようですよ」

「知ってる。皇太子様が宮廷で剣を抜いたんでしょ……詰んだね」


 商人をしていると政治にも通じるようになる。

 貿易業ともなれば世界の流れを読んで、いかに対応してゆくかが大事だ。


 商人的には……ジラントには悪いけど、ゲオルグ様が勝つ結末がいい。

 私個人としてもそうなってくれないと、シンザがもし皇帝になったら手が届かなくなってしまう……。


「ん……何やら甲板の方が騒がしいですな」

「ホントだ……。もうっ、また仕事中に遊んでるなら厳しく言わないと!」


 自慢のガレオン船の前に戻ってくると、上の方が大騒ぎになっていた。

 南の出身の水夫はいい加減だから、甘やかすとどこまでもだらける……。


「わざわざ、自分が嫌われ役を演じなくてもいいんじゃないですか。たまには俺にどやせと――」

「そんな必要ないよっ! こらーっっ、アンタたちっ、また遊んでるんじゃないでしょうねーっ!!」


 私ははしけを駆け上って、ふとどきな甲板の上に乗り込んだ。


「うむっ、やっと来たなっっ!!」

「待っていたぞ」

「ど、どうも、お邪魔してるキャン……」


 ぇ…………?

 途端に私の頭は真っ白になった。

 だってそこに、黒角のシグルーンと白狼のヤシュ、それに――会いたかったシンザがいたんだから……。


「なんでいるしっ!?」


 あり得ない……。

 私たちの方が先に船で出発したのに、なんでシンザたちが追い付いてるの……!?

 というより、帝国が大変なのに、この人たちなんでここにいるの!?


「なんだそれだけかぁー? もっと面白い反応を返せ、どうやって追い越したのっ!? とか聞いたらどうだっ!?」

「だから言ってるじゃんっ、なんでいるしっ! シンザとシグルーンが非常識な人なのはわかってるけど、もう、本当にどうやって追い越したのよ……」


 この人たち、やっぱりおかしいよ……。

 シンザは元から奇跡を平気な顔して起こすような人だったけど、今回ばっかりはあり得ない……。


「地下を走ってきた」

「うむっ、それに乗ってきた!」

「あのですね、初代皇帝陛下が掘った地下空洞を、シンザ様が台車を引いて、引っ張ってきてくれたワン……」


「なーんだそうなんだー、あははっ。いや非常識だからっ、あり得ないからっ、私たちが航海している間に地面の底を走って追い越すとかっ、船が自慢の私の立場にもなってよ、もうっ!!」


 シンザはいつだってメチャクチャだ……。

 でも、こんな場所で彼の姿を見られるとは思わなくて、それに背中を追いかけてくれたみたいで本当は嬉しかった……。



 ・



・地の底を走って船を追い越す非常識な男


「すまん。驚かせようとダメ元でやってみたら、意外と上手くいってしまったようだ」


 憧れのポート・アケで、俺はキャラル・ヘズと再会した。

 するとそれがきっかけになったのか、これこそが俺の望んだ展開だったのか、奇書が光を放って俺をホタルに変えた。


「人の船の甲板で何の前触れもなくいきなり光るなぁぁーっっ!!」

「重ね重ねすまん。きっと会えて嬉しかったのだろう」


「いやいやいやいやっ、感動で光る人間がいるかーっ!」

「シンザさん、なんで光ってるんだーっ!?」


 水夫たちも目を丸くして俺を見ている。

 南国の日射しに対抗してか、それはひときわ強い輝きだった。


――――――――――――――

- 探索 -

 【沿海州の最果て、ポート・アケに到達しろ】(達成

 ・達成報酬 なし

『案の定、報酬は0だがな……』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 探索 -

 【さらに南の果て 幻の国を目指せ】

 ・達成報酬 なし

『スカの次がスカとはな。止めておけ、行く理由も暇もない』

――――――――――――――


 皆に背中を向けて奇書に目を落とすと、残念よなうでワクワクとする結果が待っていた。

 スカの次がスカでも別に構わん。帝国のゴタゴタが終わったらキャラルを誘って行ってみるのも一興だ。


「とにかく会えてよかった」

「何なんでもなかったように澄ましてるキャンッ!?」


「それよりも飯は食ったか? 夕飯を一緒に食べたい、おすすめの店を紹介してくれ」

「そうそうそれだそれっ! そのために朝飯はバナナ一房しか拙者たちは食べていない!」

「ツッコミどころいちいち増やさないでよっ! 夕飯っ!? いいよわかった、今から食べに行こうよっ、もーっ!」


 よくわからんがご立腹だ。この暑さの上に突然のことだからな、仕方なかろう。

 俺たちはキャラルを借りて、ポート・アケの街へと繰り出した。


「魚はまずいよ。こっちの人たちは平気で食べてるけど、やっぱり美味しくない」

「ならなんなら美味いのだっ!?」


「南国の果物とか……ライチとか美味しいよ!」

「肉がいいキャン……」

「そうだなっ、腹が減ったら死んだ獣の肉だ! 死んだ獣の肉が食いたい!」


「じゃあ、焼き肉屋でいい……?」

「それで頼む」


「焼きバナナとかあるけど」

「それはいらん」


 俺たちは焼き肉屋とやらに入って、ギットリとした肉汁たっぷりの生肉を自分で焼いて食った。

 こちらの郷土料理は、フルーツ類が当然のごとく使われていて、慣れない舌には不思議な味わいだった。


 帝国生まれの俺からすれば、帝国人の舌に整えられた帝都の飯の方が美味く感じるのは当然か……。

 どうやら寒い地方の方が飯が美味いようだった。


 しかしサトウキビをふんだんに使った菓子類は、姉上にみやげとして持って帰りたくなったがな。

 日が落ちても空気が生ぬるい。俺たちは街を歩きながら、何かと甘い屋台物を食い散らしては、本国の友人のための土産物を探した。


 姉上と兄上には――サトウキビでも買っていくか。

 姉上様が部屋に隠れて、サトウキビをかじる姿を想像したら微笑ましい。

 いや、錬金術師ドゥリンがあの不思議な釜で精製してしまうのがオチか……。


「皇女殿下への土産か! それならこの猿の腕とかどうだっ!?」

「ひぇっ、んな気持ち悪い物持ってこないでよっ!」

「一生口聞いて貰えなくなること確実ワン!」


 サトウキビでいいか……。ドゥリンに姉上が頼って、姉上が精製された砂糖で菓子を作り、ドゥリンが褒められて喜ぶ姿が目に浮かぶからな……。


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