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19-6 トンネルを抜けた先は――だった

 フィンブルを発ってより二日目の夜、ついにエルフィンシルに到着した。

 ユーミルが言うには、二日で到着するなど絶対に有り得ないそうだが、二日で着いてしまったものは仕方があるまい。


「な……なんだ、お前たちは……?」


 些細な問題はもう一つある。

 初代の作った地下隧道は、よくわからんが風呂場に繋がっていた。

 そこには半裸の少年エルフが一人おり、恥ずかしげに股間を隠していた。


「ユーミル、これはどうなっている?」

「し、知らないわよっ!?」

「わはははっ、ちっちゃいなぁーっ、お前!」

「み、見てないワン、何も見てないワン……ッッ」


 第三者から見て、俺たちは外交の使者というよりも、刺客そのものだったことだろう。

 だが、その少年は目を丸くして俺を見つめるばかりだった。


「すまん、繋げる場所を間違えたらしい。入浴中に済まなかったな、今塞ぎ直す」

「……もしかして、貴方はアウサル様? その昔、風呂場をぶち抜いて現れたという、伝説の……」


 初代よ、アンタは何をやっているんだ……?

 アンタの築いた道を、疑いもせず進んだ俺も俺だが、なぜ風呂になど繋いだ……。


「わははっ、それなら話は早いっ! スコ夫っ、竜の目と腕を見せろっ! それで話はまとまるぞ!」

「それは――本当に大丈夫なんだろうな……」


 しかし口で説明するよりも早そうで、そこが俺好みだったので従った。

 異形をさらすのは恐ろしかったが、認めてくれるのではないかという、期待があったのかもしれん。


「ほ、本者……っ!?」

「いや、俺は初代ではない。その遙か末裔のアシュレイだ。一部の連中は、俺のことを先祖帰りだと言うが、俺は俺だ。風呂場をぶち抜いた先祖より、ずっとな」


 するとその少年は、何を考えたのか俺の足下に跪いた。

 そして期待の眼差しを上げる。


「申し遅れました。私はこの国の王にあたる、グフェンと申す者。貴方が再び現れる日をお待ちしておりました、アウサル様。ああ……私たちは、貴方たちに棄てられたのでは、なかったのですね……」

「……ああ、こちらの要求を飲んでくれるなら、アウサルを演じてやっても構わん。まずは悪いが、そうだな、先に一風呂貸してくれ」


「は、仰せのままに……」

「マイペース過ぎるワン……」

「だってアウサルくんはそういう人だもの……。ん、だけど穴蔵暮らしで、ベタベタのドロドロ。お言葉に甘えようかしら……」


 グフェン王が小姓を呼ぶと、さすがに俺たち狼藉者に驚いていたようだった。

 しかし王が納得しているのだから構わん。

 仲間たちが浴室を出て行くと、俺は王にしては若々しい彼と裸の付き合いをした。


「しかし若いな、アンタ」

「いえ、私はこの見た目以上に歳を重ねております」


「では年下らしいことをするか。グフェン王よ、俺が背中を洗おう」

「……伝説通りの変わり者ですね」


「だからそれは他人のそら似だ。俺はアシュレイ、ア・ジール帝国の皇子だ。俺たちがここに来たのは――」

「皇帝の崩御。不完全な戴冠式。兄弟による骨肉の争い。あちらの状況は最悪のようですね」


「まあ、そういうことだな、そういうわけで王よ、俺達に力を貸してくれ。下手をすれば、世界中を巻き込んだ戦乱になる。それを俺たちは避けたい」

「そういった要請は、ありとあらゆる帝国の陣営から来ています。ですが――いえ、今はゆっくりしましょうか」


 俺たちは互いの背中を流して、さっぱりした後に謁見の間へと向かった。

 国王といえど、こういった話では独断専行などできないそうだった。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



 謁見の間に集まると、王の隣に老いた有角種の男がいた。

 彼は顧問役だそうで、彼の承認無しでは重要な決断は通らないとグフェンに説明された。


「シグルーンか……大きくなったな」

「わははっ、大きくなったのは乳だけではないぞ!」

「シグルーン様ッ、そんなこと誰も言ってないキャンッ!」


「そうなのかっ!? というか、爺さん誰だ!?」

「幼い頃をお前を知っているだけだ……。災厄の子よ、変わりないな」


「なんだジジィは同郷かっ!」


 ヤツは胸を自慢するようにドンと胸を叩いて、その性格を知らぬ者を呆気にとらせた。


「連れてくるんじゃなかったわ……」

「すまん、コイツは無視でいい。話がこじれるからな」

「そう言うな! エルフィンシルの者たちよっ、拙者たちに協力しろっ! このアシュレイとゲオルグこそが勝ち馬であると、有角種である拙者が保証してやるっ! あいたぁっ、何をするユーミルッ!?」


 ユーミルが前に出たシグルーンを引っ張って戻した。

 こんな要求に乗るやつがいるか。いきなりひっかき回されて、俺たちは次の言葉を見失ってしまった。


「グフェン様、この話……」

「ま、待つワン! シグルーン様はノーカンにしてほしいキャン!」


 相談役の有角種はきっぱりと言い放った。


「お受けなさい。言動は粗暴ですが、あの狼藉者の言葉にも一理あります」

「私も賛成です。彼らと同盟を組むとしましょう」


 受けろと。

 もはや交渉にすらなっておらず、俺たちは仲間同士で顔を合わせて混乱した。


「どういうことだ? もう少し迷ってくれた方が、こちらはスッキリするのだが……」

「私は顧問として戦略的に考えただけですな。実は同じような誘いが、帝国側の各陣営から来ています。金や割譲よる懐柔を試みる勢力もあれば、従わないなら帝国領のエルフに危害を加えるやら、この国を将来滅ぼすとまで言われてしまいました」


「それは、帝国の恥だ……すまん」

「しかし聞けば、貴方たちは白の地下隧道を復活させたそうですね。これがあるのなら話は別です。アレがあるならば、正しく貴方こそが、勝ち馬で間違いないでしょう」


 合理的に考えた上で、彼は俺たちに味方すると言う。


「かつてアウサル率いる反逆の帝国は、敵の本拠の足下に道を造り、強襲をもって国を奪還したと聞きます。アシュレイ様が先祖と同等の力を持っているのならば、貴方に味方する方が勝つでしょう。仮に戦争になるならば、の話ですが」

「おおっ、ジジィのくせにわかってるではないか! そうだっ、このアシュレイの手にかかれば、悪党の富など――フングゥゥッッ?!!」


 ユーミルとヤシュが飛びついて、ジラントお気に入りのトラブルメーカーの口を塞いだ。

 義賊のプリティ・ベルが実は男だったと、俺は世間にすっぱ抜かれたくなどないぞ……。ああ、助かった……。


「本当にいいのか?」

「はい、いつの日か、貴方がお帰りになられる日がくると、私たちは信じていましたから」


「グフェン……。だから俺と先祖は別人だと言っているだろう……」

「私たちにとっては同じです」


 どうもしっくりこないが、こうして東の大国エルフィンシルが味方になってくれた。

 地下隧道を用いて、資金援助と軍の派兵をしてくれるそうだ。

 その段取りを固めるために、ユーミル嬢にはここに残ってもらうことになった。


 だが俺たちの最終目的地はここではない。

 これから地下帝国の跡地に引き返し、今度は南を目指す。


 同行者としてヤシュを借りたのはこのためだ。

 目指すは獣人の国カーハ。南へと続くこの道を開通させて、カーハからの追加の援軍をいつでも得られるようにしよう。


 東のエルフ、西の有角種、南の獣人の力を得れば、内戦を防ぐこともできるはずだ。


まだ来週の更新分が完成していません。

書籍の締め切りが非常に厳しく、現在は趣味作品に時間を取りようがない状態になっています。

まず間違いなく遅れると思います。ごめんなさい!


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