18-4 ギルドで昇級試験を受けろと奇書が言う - グラニテ -
「みんなはもう帰りなさい……」
「えーーっ、お兄さんが光るところ、また見たい!」
「お前、名前なんてゆーんだ!?」
「冒険者のシンザだ」
「マジかよ! 俺も将来なりてぇ!」
「カッコイイ……ポッ。シンザお兄ちゃん♪」
冒険者ギルドの支援で成り立っているせいだろう。
冒険者はここではステータスで、しかし女教師の顔色からすると、できるだけ就かせたくない仕事のようだった。
かくして次の試験問題が、疲れた様子の女教師によって黒板に記された。
俺はそれを一問ずつ確認しては、己の黒板に答えをチョークで記した。子供たちに囲まれながらな。
内容は相変わらずの算数と語学だ。
女教師が全問を書き並べて振り返るなり、試験が終わることになった。
「貴方には簡単過ぎるみたいね……。また全問正解よ……きゃっ……!?」
「やったーっ、また光ったぁーっ!」
「すげーすげー、にーちゃんなんかわかんねーけどすっげーなぁ! サインくれ!」
再び青白く光る男の姿に、子供たちは大興奮の渦となって俺をさらに取り囲んだ。
「これでランク・岩か。さあ次を受けさせてくれ」
書を確認すると、期待通りの新しい項目が追加されていた。
――――――――――――――
- 冒険 -
【冒険者ランク・岩に昇格しろ】達成
・達成報酬 EXP300(受け取り済み)
――――――――――――――
――――――――――――――
- 冒険 -
【冒険者ランク・御影石に昇格しろ】
・達成報酬 EXP600
『ランク・グラニテのシンザか、なかなか勇ましく見えなくもないぞ。その女教師には同情するがな、クク……』
――――――――――――――
経験値600は大きな冒険一つ分だ、これはでかい。
そしてこれまでの流れから理解した。
受付のあの男が自己の裁量で俺に仕事を回したように、ギルドのランクはただの勲章だ。
確かにこれは昇級試験という理由を付けて、冒険者たちに勉強をさせようという仕組みだったようだ。
だから受付のあの男も、俺には必要ないと面倒そうな顔をしていたのだ。
「あの、試験が終わったら……シンザさんはまた、光るんですよね……?」
「ああ、まず間違いなく光るだろうな」
「なんなのですか、貴方は……? だって、光る必要なんてないじゃないですかっ!?」
「カッケーッじゃん! カッケー以外の理由なんて、いらねーよ先生!」
「私、あのピカピカ、また見たい!」
「俺はただのホタルさんだ。それより試験を頼む」
女教師が再び疲れ果てた様子で、教壇に身を突っ伏せた。
低い声でため息を吐いて、それが済むと黒板を荒々しい動きで消す。直ちに次の試験がそこに記されていった。
最後の試験には歴史が追加されていた。
だが読書マニアの俺にそんなもの端から敵ではない。
すぐに試験も終わった。
ただ答えを記すだけの俺と、細かな設問を作り出さなければならない彼女では、労力に差があった。
「はぁ……またもや、全問正解です……。ああ……そして、また光っていますね……はぁ、意味がわからない……これは夢? 目を閉じて、もう一度開いたら、きっと私はお布団に――いないわ……」
「すげーすげー!!」
「お兄ちゃん、神様みたい……」
「今日帰ったら、おっとーにこの話しなきゃ!」
「だ、ダメですそれはっ! ここであったことは、みんなの秘密にしましょう、ねっ!?」
彼女にも立場あるようだ。それはまずいと、彼女は秘密の共有を提案した。
話したければ話せばいいと俺は思うが。
確認のために邪竜の書へと目を向ければ、非常に嬉しい結果がそこに待っていた。
――――――――――――――
- 冒険 -
【冒険者ランク・御影石に昇格しろ】達成
・達成報酬 EXP600(受け取り済み)
――――――――――――――
――――――――――――――
- 冒険 -
【冒険者ランク・方解石に昇格しろ】
・達成報酬 EXP1200
『驚いたな……。もしや沿海州行きのミッションも、ああ見えて、破格の報酬が隠れている可能性があるな……』
――――――――――――――
――――――――――――――
- 冒険 -
【冒険者ギルドで仕事を受けろ。ただし任務地は帝国外のものとする】
・達成報酬 発掘LV+1 EXP500
『これは発掘の才能が増すということか? よし、これを手にして、プリベルの2巻を手に入れろ!』
――――――――――――――
アンタもはまったものだな。
いっそ次に姿を現わすときは、変身シーンも加えてみたらどうだ。
『うむ、悪くない意見だ、検討しよう』
神々しさは完膚なきまでに失われると思うがな……。
「こんなに簡単だとは思わなかった、前倒しで次も受けさせてくれ。ギルドには伝えておく」
「いいえ……帰って下さい……」
「なぜだ?」
「だから、もう帰って下さいっ!! 光る不審者が現れる学校に、子供を通わせたがる親がどこにいると思いますか……っ!?」
「なるほど、一理あるな」
「一理どころじゃありませんよっ!? お願いします、助けると思って、もう帰って下さいっ!」
子供たちもそれは困るらしい。
この学校が好きで、通えなくなるなんて悲しいと、気を落とし始めていた。
「世間とは難儀なものだな。わかった、ではまた来る」
「また来るつもりなんですか……」
「次は目立たないようわきまえるつもりだ」
倍々ゲームで経験値が増えている。
こんなに楽なミッションは始めてだ。向こうは心より迷惑そうにしているが、必ずまた来よう。
「またなー、光るにーちゃん!」
「このことはー、みんなの、内緒にするねっ!」
「そうしてくれると助かる。そこの先生が特にな」
俺は+1050経験値を手に、子供たちの明るい眼差しを背に学校を出た。
それから以前よく通っていた、あのケバブサンドのカフェに立ち寄った。
「アンタ、アシュレイじゃないかっ!! 最近全然顔を出さないから、心配したよぉ……っ!?」
「すまん、最近始めた仕事が立て込んでいてな……。ケバブサンドとカツサンドをあるだけ頼む」
「あいよっ、羽振りがいいねぇ!」
「まあな。冒険者を始めて、そこそこ儲かるようになったのだ」
「そうかい。あたしゃさ、アンタが……これは、変な話だよ? アンタが実は皇子様のアシュレイ様なんじゃないかって、疑ってたよ」
動揺を隠すのは容易ではないが、おばさんには道楽人のアシュレイでいたかった。
感情は隠せたはずだ。
「まさか、俺がそんなご立派なはずがないだろう」
「だけどアシュレイ、アンタが紹介してくれたんじゃないのかい……? アトミナ様と、ベガル大使を……」
「おばさん、俺みたいな皇子様がいるわけないだろう」
「あははっ、それもそうだねぇ……! 変なこと聞いちゃってごめんよ、アシュレイ。またおいで」
皇帝や、それを支える地位に就くと、俺は道楽者のアシュレイではいられなくなる。
カフェのおばさんも、二度と俺と親しく接してくれなくなるだろう。
やはりそんなものはお断りだ。
俺は久々のケバブサンドを、しっかり味付けされたそれを頬張りながら、その日は予定を変えて、ジラントを掘り当てた遺跡に向かった。
目当てはもちろん……。
『よし、プリベル2巻だ! 必ず掘り当てろ、二人の恋の行方が気になる!』
そうは言うがジラントよ、ああいうのはダラダラとくっついたり離れたりが続くものだと、他の本に記されていたぞ。
まあ望み薄だががんばってみよう。
『わかっとらんな! そのダラダラがいいのだろうっ、全く情緒を理解しないやつめ!』
わからん。一気に最後まで行った方がスッキリしないか?
いつまでもくっつかないカップルなど、こっちは見ていられん。
『そなたは、つくづく、お子ちゃまよの……。すれ違う二人が苦難の果てに結ばれるからこそ、カタルシスがあるのだ! そなたには乙女心が足りん!』
仮にあっても困るだろう、そんなもの……。
俺とジラントは心の中で、やんややんやといつまでも言い合った。
だが残念だ。プリベルの新刊は、いくら掘っても俺たちの前に現れることはなかった。
『む、これはなんじゃ? 持っていかんのか?』
「ああ、それはいいんだ。持ち帰るとまずいので、奥の建物に保管する」
『む……? うむ、これは、ふむ……気に入った。全て持ち帰るとしよう』
「断る。アンタの頼みでもそれは断る。絶対に持って帰らないぞ」
趣味の違いばかりはどうにもならない。
何よりプィスのやつがこれを目にしたら、睡眠時間の全てをコイツに傾けるに決まっていた。
『よい。そなたと一緒に読もうとまで言わん。うむ、では持ち帰るぞ』
それは男と男の恋愛。女と女の恋愛を描いた本たちだった。
こんなものが俺の部屋の本棚に、ギッシリと詰まっている姿を誰かに見られたら、俺の立場はどうなる。
こちらの人間には異界の文字が読めなくとも、際どい表紙絵を見られた時点で終わりだ……。
「いい機会だ……アンタの部屋を作るよう頼もう……」
『ククク……そこで一緒に読むか?』
お断りだ。俺の好みは冒険小説だ。そういう趣味には付き合えん。
◆
◇
◆
◇
◆
その後日、プィスが青い顔をして仕事をする日が増えたのは、言うまでもない。
ある日、俺とゲオルグ兄上がエリンの館で雑談を交わしていると、プィスはそれを見て、エヘヘヘヘヘ……と、不気味な笑いを上げた。
あまりの突然のことに、俺たちはプィスが狂ったのではないかと。驚かされたのは言うまでもない。
☆
★
☆
――――――――――――――
- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】46→48
【Exp】9685→10735
【STR】114→118
【VIT】295→302
【DEX】268→273
【AGI】253→260
【Skill】スコップLV5
シャベルLV1
帝国の絆LV2
方位感覚LV1
移動速度LV2
穴掘り30倍
『優れた力も発揮しなくては意味がない。その気になればそなたは、己の力を出し切り、プリベルそのものにもなれるのだ。よく覚えておけ……』
――――――――――――――
俺が力を出し切っていないとジラントが言う。
それはあるかもしれん。俺は元々は武人ではなく道楽者のバカ息子だ。
願わくば、またあのケルヴィムアーマーのような怪物とやり合えれば、力の出し切り方を身体で覚えられそうなのだがな……。




