表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/225

18-4 ギルドで昇級試験を受けろと奇書が言う - グラニテ -

「みんなはもう帰りなさい……」

「えーーっ、お兄さんが光るところ、また見たい!」

「お前、名前なんてゆーんだ!?」

「冒険者のシンザだ」


「マジかよ! 俺も将来なりてぇ!」

「カッコイイ……ポッ。シンザお兄ちゃん♪」


 冒険者ギルドの支援で成り立っているせいだろう。

 冒険者はここではステータスで、しかし女教師の顔色からすると、できるだけ就かせたくない仕事のようだった。


 かくして次の試験問題が、疲れた様子の女教師によって黒板に記された。

 俺はそれを一問ずつ確認しては、己の黒板に答えをチョークで記した。子供たちに囲まれながらな。


 内容は相変わらずの算数と語学だ。

 女教師が全問を書き並べて振り返るなり、試験が終わることになった。


「貴方には簡単過ぎるみたいね……。また全問正解よ……きゃっ……!?」

「やったーっ、また光ったぁーっ!」

「すげーすげー、にーちゃんなんかわかんねーけどすっげーなぁ! サインくれ!」


 再び青白く光る男の姿に、子供たちは大興奮の渦となって俺をさらに取り囲んだ。


「これでランク・(ロック)か。さあ次を受けさせてくれ」


 書を確認すると、期待通りの新しい項目が追加されていた。


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ランク・(ストーン)に昇格しろ】達成

 ・達成報酬 EXP300(受け取り済み)

――――――――――――――


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ランク・御影石(グラニテ)に昇格しろ】

 ・達成報酬 EXP600

『ランク・グラニテのシンザか、なかなか勇ましく見えなくもないぞ。その女教師には同情するがな、クク……』

――――――――――――――


 経験値600は大きな冒険一つ分だ、これはでかい。

 そしてこれまでの流れから理解した。

 受付のあの男が自己の裁量で俺に仕事を回したように、ギルドのランクはただの勲章だ。


 確かにこれは昇級試験という理由を付けて、冒険者たちに勉強をさせようという仕組みだったようだ。

 だから受付のあの男も、俺には必要ないと面倒そうな顔をしていたのだ。


「あの、試験が終わったら……シンザさんはまた、光るんですよね……?」

「ああ、まず間違いなく光るだろうな」


「なんなのですか、貴方は……? だって、光る必要なんてないじゃないですかっ!?」

「カッケーッじゃん! カッケー以外の理由なんて、いらねーよ先生!」

「私、あのピカピカ、また見たい!」

「俺はただのホタルさんだ。それより試験を頼む」


 女教師が再び疲れ果てた様子で、教壇に身を突っ伏せた。

 低い声でため息を吐いて、それが済むと黒板を荒々しい動きで消す。直ちに次の試験がそこに記されていった。


 最後の試験には歴史が追加されていた。

 だが読書マニアの俺にそんなもの端から敵ではない。


 すぐに試験も終わった。

 ただ答えを記すだけの俺と、細かな設問を作り出さなければならない彼女では、労力に差があった。


「はぁ……またもや、全問正解です……。ああ……そして、また光っていますね……はぁ、意味がわからない……これは夢? 目を閉じて、もう一度開いたら、きっと私はお布団に――いないわ……」

「すげーすげー!!」

「お兄ちゃん、神様みたい……」

「今日帰ったら、おっとーにこの話しなきゃ!」


「だ、ダメですそれはっ! ここであったことは、みんなの秘密にしましょう、ねっ!?」


 彼女にも立場あるようだ。それはまずいと、彼女は秘密の共有を提案した。

 話したければ話せばいいと俺は思うが。

 確認のために邪竜の書へと目を向ければ、非常に嬉しい結果がそこに待っていた。


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ランク・御影石(グラニテ)に昇格しろ】達成

 ・達成報酬 EXP600(受け取り済み)

――――――――――――――


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ランク・方解石(カルサイト)に昇格しろ】

 ・達成報酬 EXP1200

『驚いたな……。もしや沿海州行きのミッションも、ああ見えて、破格の報酬が隠れている可能性があるな……』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ギルドで仕事を受けろ。ただし任務地は帝国外のものとする】

 ・達成報酬 発掘LV+1 EXP500

『これは発掘の才能が増すということか? よし、これを手にして、プリベルの2巻を手に入れろ!』

――――――――――――――


 アンタもはまったものだな。

 いっそ次に姿を現わすときは、変身シーンも加えてみたらどうだ。


『うむ、悪くない意見だ、検討しよう』


 神々しさは完膚なきまでに失われると思うがな……。


「こんなに簡単だとは思わなかった、前倒しで次も受けさせてくれ。ギルドには伝えておく」

「いいえ……帰って下さい……」


「なぜだ?」

「だから、もう帰って下さいっ!! 光る不審者が現れる学校に、子供を通わせたがる親がどこにいると思いますか……っ!?」


「なるほど、一理あるな」

「一理どころじゃありませんよっ!? お願いします、助けると思って、もう帰って下さいっ!」


 子供たちもそれは困るらしい。

 この学校が好きで、通えなくなるなんて悲しいと、気を落とし始めていた。


「世間とは難儀なものだな。わかった、ではまた来る」

「また来るつもりなんですか……」


「次は目立たないようわきまえるつもりだ」


 倍々ゲームで経験値が増えている。

 こんなに楽なミッションは始めてだ。向こうは心より迷惑そうにしているが、必ずまた来よう。


「またなー、光るにーちゃん!」

「このことはー、みんなの、内緒にするねっ!」

「そうしてくれると助かる。そこの先生が特にな」


 俺は+1050経験値を手に、子供たちの明るい眼差しを背に学校を出た。

 それから以前よく通っていた、あのケバブサンドのカフェに立ち寄った。


「アンタ、アシュレイじゃないかっ!! 最近全然顔を出さないから、心配したよぉ……っ!?」

「すまん、最近始めた仕事が立て込んでいてな……。ケバブサンドとカツサンドをあるだけ頼む」


「あいよっ、羽振りがいいねぇ!」

「まあな。冒険者を始めて、そこそこ儲かるようになったのだ」


「そうかい。あたしゃさ、アンタが……これは、変な話だよ? アンタが実は皇子様のアシュレイ様なんじゃないかって、疑ってたよ」


 動揺を隠すのは容易ではないが、おばさんには道楽人のアシュレイでいたかった。

 感情は隠せたはずだ。


「まさか、俺がそんなご立派なはずがないだろう」

「だけどアシュレイ、アンタが紹介してくれたんじゃないのかい……? アトミナ様と、ベガル大使を……」


「おばさん、俺みたいな皇子様がいるわけないだろう」

「あははっ、それもそうだねぇ……! 変なこと聞いちゃってごめんよ、アシュレイ。またおいで」


 皇帝や、それを支える地位に就くと、俺は道楽者のアシュレイではいられなくなる。

 カフェのおばさんも、二度と俺と親しく接してくれなくなるだろう。


 やはりそんなものはお断りだ。

 俺は久々のケバブサンドを、しっかり味付けされたそれを頬張りながら、その日は予定を変えて、ジラントを掘り当てた遺跡に向かった。


 目当てはもちろん……。


『よし、プリベル2巻だ! 必ず掘り当てろ、二人の恋の行方が気になる!』


 そうは言うがジラントよ、ああいうのはダラダラとくっついたり離れたりが続くものだと、他の本に記されていたぞ。

 まあ望み薄だががんばってみよう。


『わかっとらんな! そのダラダラがいいのだろうっ、全く情緒を理解しないやつめ!』


 わからん。一気に最後まで行った方がスッキリしないか?

 いつまでもくっつかないカップルなど、こっちは見ていられん。


『そなたは、つくづく、お子ちゃまよの……。すれ違う二人が苦難の果てに結ばれるからこそ、カタルシスがあるのだ! そなたには乙女心が足りん!』


 仮にあっても困るだろう、そんなもの……。

 俺とジラントは心の中で、やんややんやといつまでも言い合った。


 だが残念だ。プリベルの新刊は、いくら掘っても俺たちの前に現れることはなかった。


『む、これはなんじゃ? 持っていかんのか?』

「ああ、それはいいんだ。持ち帰るとまずいので、奥の建物に保管する」


『む……? うむ、これは、ふむ……気に入った。全て持ち帰るとしよう』

「断る。アンタの頼みでもそれは断る。絶対に持って帰らないぞ」


 趣味の違いばかりはどうにもならない。

 何よりプィスのやつがこれを目にしたら、睡眠時間の全てをコイツに傾けるに決まっていた。


『よい。そなたと一緒に読もうとまで言わん。うむ、では持ち帰るぞ』


 それは男と男の恋愛。女と女の恋愛を描いた本たちだった。

 こんなものが俺の部屋の本棚に、ギッシリと詰まっている姿を誰かに見られたら、俺の立場はどうなる。


 こちらの人間には異界の文字が読めなくとも、際どい表紙絵を見られた時点で終わりだ……。


「いい機会だ……アンタの部屋を作るよう頼もう……」

『ククク……そこで一緒に読むか?』


 お断りだ。俺の好みは冒険小説だ。そういう趣味には付き合えん。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



 その後日、プィスが青い顔をして仕事をする日が増えたのは、言うまでもない。

 ある日、俺とゲオルグ兄上がエリンの館で雑談を交わしていると、プィスはそれを見て、エヘヘヘヘヘ……と、不気味な笑いを上げた。

 あまりの突然のことに、俺たちはプィスが狂ったのではないかと。驚かされたのは言うまでもない。



 ☆

 ★

 ☆



――――――――――――――

- 目次 -

【Name】アシュレイ

【Lv】46→48

【Exp】9685→10735

【STR】114→118

【VIT】295→302

【DEX】268→273

【AGI】253→260

【Skill】スコップLV5 

    シャベルLV1

    帝国の絆LV2

    方位感覚LV1

    移動速度LV2

    穴掘り30アクティブ

『優れた力も発揮しなくては意味がない。その気になればそなたは、己の力を出し切り、プリベルそのものにもなれるのだ。よく覚えておけ……』

――――――――――――――


 俺が力を出し切っていないとジラントが言う。

 それはあるかもしれん。俺は元々は武人ではなく道楽者のバカ息子だ。


 願わくば、またあのケルヴィムアーマーのような怪物とやり合えれば、力の出し切り方を身体で覚えられそうなのだがな……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活
新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
[一言] >光る不審者が現れる学校に、子供を通わせたがる親がどこにいると思いますか それこそ、何回にも分けて来られるより一回で済ませたほうが噂にはなりにくいんだけど、目先の脅威から逃げることしか考え…
[一言] >いつまでもくっつかないカップルなど、こっちは見ていられん。 なあシンザ、イチャイチャする方が好きなん?w俺は好きだよw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ