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18-4 ギルドで昇級試験を受けろと奇書が言う - グラベル -

「昇級試験、昇級試験なぁ。そういやそんなのもあったな……」


 見るからに乗り気ではない顔色だ。

 面倒だと言わんばかりに、受付の男はイスにだらしなく座り込んでしまった。


「何か不都合でもあるのか?」

「別にいいけどよ、お前さんが大きな仕事を受けてくれると、俺もお気に入りの女に会いに行けるんだけどなぁ……?」


「それはまた今度に期待してくれ」


 どうせ奇書はまた俺に無理難題を要求する。

 この男の望み通りになる日もそう遠くないだろう。


「できるだけ早いとこ頼むぜ。もしかしたらよ、商売どころじゃなくなるかもしんねーしよ……」

「ああ、そうだな」


 皇帝の病のことを言っているのだろう。

 彼のような草の根の存在にまで広まっているとなると、いよいよ本格的に陰謀が渦巻きだす頃か……。


 しかし問題はそれだけではない。この男には、本名の一部を見抜かれている。

 灰色(シンザ)は偽名で、(アッシュ)だろうと、初めてここで会った日に言われた。


「で、お前よ、ランクはどんくらいだったっけか?」

「そう言われても、ここで試験など一度も受けたことがないぞ」


「んじゃ、砂利(グラベル)か。薬草採集とか、僻地へのお使いとか、情報集めやら、ジャイアントラットの駆除を受け持つランクだな」

「なんでそんな砂利ごときに、アンタはゴブリン軍団の殲滅を任せたんだろうな……」


 俺が皮肉を言ってやると、いつだって酒臭い受付はやや気だるそうに笑った。


「そりゃ初仕事で、シグルーンの野郎とアビスハウンド倒しやがったからな。いいカモが来たと、俺の中じゃお前の評価がサモーンの川登りってやつだ」

「相変わらずだな。それより昇級試験をさっと片付けたい」


「ああそうかい。まあ受けさせてやってもいいが――こりゃほとんど見栄みたいなもんだぞ? 一つ上の(ストーン)ランクで満足してるやつもいる」

「そのようだな。ちなみにシグルーンは?」


 シグルーンの話を振ると、誰も彼も顔色が変わるので面白い。

 大多数の反応に漏れず、受付もまた疲れた顔をした。


「アイツか……。アイツは黒曜石(オブシテディアン)だ。扱いを間違えると怪我するぜ、って警告を込めてよ、ヤツのためにわざわざ新設させたやつだわ……」

「カチュアは?」


「あのお上りさんなら、(ロック)だ」

「ならその上のランクが欲しい。まとめて受けさせてくれ」


 あの奇書の出題傾向を先読みすれば簡単なことだ。

 必ずあの書は、さらに上を目指せと俺に要求してくるはずだった。 


「横着するやつだな……ま、何度も機会損失出されても困るから、こっちはいいけどよ」

「俺がアンタの望み通りの仕事を受けて、必ず成功すること前提で言われてもな」


 受付がちぎったメモを折り畳んでこちらによこした。

 わざわざ中を見る必要もないだろう。懐に押し込む。


「今やお前さんはうちのギルドのトップだ、俺の知る限りな。それにシグルーンよか、よっぽど使いやすいのがでかいわ。あの女はよー、お前の前じゃ大人しくしてるがよ……とんでもねぇぞ」

「いや、全く大人しくないので困っているくらいだ。それよりどうすればいい?」


「そうでもねぇ、あの女は誰の命令も聞かねぇが、お前の意向だけは辛うじて聞くんだよ、辛うじてな……。んじゃ、今から言うところに行ってもらうぜ」


 気に入られているということだろう。

 迷いたくないので彼の言葉を正確に覚えて、俺は昇級試験のために帝都を東に向かった。



 ◇

 ◆

 ◇

 ◆

 ◇



 帝都ベルゲルミルは地価が非常に高い。

 庶民向けの学校一つを置くにしても、設置場所に難儀するそうだ。これは俺ではなく、しばらく前まで学生だったプィスの言葉だがな。


 そういったわけで、指定されたその場所は帝都でも僻地も僻地だった。

 周囲には二階建ての集合住宅がひしめき、その一室一室は俺の部屋が豪邸に見えるほどに狭苦しい。


「すみません、関係者以外の方には――あ、いえ、もしかしてギルドの方ですか?」

「いや、そこで仕事を受ける側だ。ここで昇級試験を受けさせてもらえると聞いてきた」


 そこは小さな学校だった。それも若年層を主とする、庶民向けのものだ。

 受付からの殴り書きを手渡すと、その女教師は近眼なのかそれに眼鏡を近付けた。


「わかりました、すぐに試験の準備を進めます」

「学校の仕事もあるのにすまんな」


「いいえ、ここはギルドからの寄付で成り立っているので、貴方が気にする必要はありませんよ」

「そうか。では悪いが頼む」


 こうして俺はすぐに昇級試験を受けさせてもらうことになった。



 ◆

 ◇

 ◆



 (ストーン)ランク昇級試験の課題、それは――


「では、全問を埋めたら提出して下さい」


 筆記試験だ。


「ジャイアントラットを100匹狩れとか、もっと新人イジメ的な無茶を言われると思っていたな……」

「はーい、みんなもお勉強の続きをしましょうねー♪」


 当惑はそれだけではない。

 俺の試験と平行して、子供たちの授業が始まっていた。

 予算も有限で、人が足りていない。そんなこと見ればわかった。


「……冒険者は命を掛け金にしたバクチ商売です。ですから、一般的な学が足りない方が多くてですね、そこで最低限の教養を身に付けさせようと、始まったのがこのランク制度なんですよ。……はーい、今日はかけ算の練習をしましょうねー♪」


 すまん、グチらせてくれ。とてつもなく居心地が悪い……。

 子供たちが奇異の目で俺を見ている。大きなお兄ちゃん、なんでここにいるの? という目だ……。


『ククク……この書とそなたは本当に面白いな。まさかこんな光景が見られるとは思わなかったぞ』


 人が困っているのに笑うなんて、アンタは性格が悪いぞ……。

 不器用な微笑みを子供たちの丸い目に返して、俺は黒板の端に書かれた設問を見た。


 内容は子供たちが受けてるものと大差ない。

 簡単な数学と単語テストだ。筆記板に答えを羅列させた。



 ◆

 ◇

 ◆



 ほどなくして授業が終わった。

 それに合わせて、だいぶ待つことになったが筆記板を女教師に見せた。


「わっ、全問正解です、よくできました~♪ そしておめでとうございます、昇級ですよ、パチパチパチ♪」


 授業の終わりまで待ったのには意味がある。

 別に声をかけ損なっていたわけではなく、俺が試験を通過するなり発生するこの現象が、何かと不都合だったからだ。


 要するにだ、俺はいつものように光ってホタルとなった。

 突然光り出す謎の男性に、そこにいた者は誰もが驚き目を見開いた。


「兄ちゃんすっげぇー!」

「わーわー、光ってるー! なんでー、なんでー!?」

「人間って、光るんだぁ!?」


 子供たちが目を輝かせていた。

 どうやらウケている。女教師の方はオロオロとしていたが、子供たちには大好評だった。


 彼らの目線を避けながら、机の下で邪竜の書を開いてみると、俺の読み通りだ。


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ギルドの昇格試験をクリアしろ】達成

 ・達成報酬 EXP150(受け取り済み)

――――――――――――――


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ランク・(ロック)に昇格しろ】

 ・達成報酬 EXP300

――――――――――――――


 新しいお題が追加されていた。

 簡単な試験を受けるだけで、さっきの倍の経験値を得られるそうだ。

 ちなみにミッションとしては極めて容易だったからか、すぐに俺の光は収まっていた。


「よし、次の試験を受けさせてくれ」

「なんで光ってるのとかっ、特にそういう説明はないんですかっっ!?」


 やさしそうな眼鏡の女教師が大きな声を張り上げた。

 それは困惑だ。だがいちいち光る体質にある俺としては、いちいち応対してなどいられなかった。


「体質だ。何かを達成したと感じると、俺は己の意思に反して光ってしまうようだ」


 かすかにジラントの笑い声が聞こえた。

 面倒だ。真面目な態度で押し通そう。


「そうなんだー!」

「いいないいなー! ピカピカ光ってきれー!」

「俺も羨ましがられたのは初めてだ。いいだろう」


「うんっ、いいなぁぁーっっ!!」


 女の子が目を輝かせていた。


「そんなわけないじゃないですかーっ! 人間が光るなんて、私聞いたことがないですよぉーっ!?」

「それより次の試験を受けさせてくれ、一気にやってしまいたい」


 俺がどういう人間なのか、そろそろ理解してくれたようだ。

 女教師は疲れた様子で、崩れるように教壇に寄りかかった。


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