18-3 おっさんとシグルーン
・女豪傑
「も、もう勘弁して下さい……シグルーン様ッ……」
「ん、なんだ、もう終わりか?」
練兵の仕事はなかなか楽しい。
しかしせっかくのオモチャたちが動かなくなってしまった。
犬に猫、狐、イノシシ。多種多様な容姿の獣人たちが、地にはいつくばっている。
スタミナ切れのようだ。
「俺たち精鋭が束になっても敵わないなんて……」
「囲んでる俺たちの方が先にバテるとか、どうなってるんだよぉっ!?」
「おかしい! 絶対にシグルーン様はおかしい!」
喋る元気はあるくせにな、獣どもは立ち上がらずにピャンピャン言っていた。
練兵は楽しいな。特に獣人たちは拙者の動きに付いてきてくれるから最高だ!
「そう言わずもう少し楽しもうではないか。うむ、あと二人増やすか」
「これじゃ、シグルーン様を鍛える訓練じゃないかワン!?」
「わははっ、拙者に勝てたら卒業だっ!」
「そんなのみんなそろって留年確定じゃないかーっ! もうやだ、動物虐待反対ーっ!」
ブーブーとエリンの練兵所に声が上がっていた。
「あっ、あそこ見て下さい、あそこ!」
言われて後ろを振り返った。ん、あれは錬金術師のドゥリンと――おおっ、鍛冶のおっさんとついでにプレアのやつではないかっ!
「動物虐待でしゅか……? 聞き捨てならないでしゅ」
「助けて下さい、ドゥリンちゃんプレア様! シグルーン様が10人で一斉に斬りかかってこいって言うんですよぉーっ!」
「ププッ、なにそれぇー♪ 頭悪くてマジで引くんですけどぉー♪ 有角種の誇りぃー、ゼロみたいなぁー?」
イラッときたのでそれとなく剣をプレアに向けた。
まあその程度でおくびれる女ではない。
獣人どもはプレアにひれ伏して、尻尾のあるやつは股の間に丸めていた。
「そんなことはどうでもいい! 鍛冶屋っ、ついにできたかっ!?」
「おぅ……」
「なんだその反応は!? なんか拙者に対する態度だけっ、他の連中と違うだろう、おっさんよっ!?」
「悪ぃな、なんか知り合いに似てんだわ、お前さん……。それよかプレアちゃん、うるせぇから見せてやってくんな」
プレアに目を向けると、鞘入りのショートソードを持っていた。
ついにきた! 鍛冶屋に前から聞かされていたヤツだ!
「泣く子に飴玉、シグルーンに新品の剣みたいなー? プレアちゃんもー、ドゥリンちゃんと一緒にがんばっちゃったぁー♪」
「というよりでしゅね、プレアさんに後から改造されちゃったでしゅ……」
「いやっ、俺は好きだぜこういうの! 今の時代の有角種はおもしれぇな!」
ドゥリンとプレア、そして鍛冶屋のおっさんの合作だそうだ。
期待のままに拙者はプレアから剣を奪い取った。
おおっ、ズッシリとした良い重さだ。
鞘より剣を引く抜くと、薄緑がかかった灰色の刃が輝いた。
「おじさんが剣を作ってー、ドゥリンちゃんがー、錬金術で切れ味を強化させてー? そんで、私がギミックを仕込んじゃった♪ プッ……うけるぅー♪」
「ぎみっく、とはなんだ?」
「あのでしゅね……柄の飾りのところをずらすとでしゅね……」
言われた通りに弄ってみると、装飾がスライドしてそこに小さなボタンが現れた。
ボタンは押すものだ。即、押した。すると驚きだ!
「お、おおおおおおーーっっ?!! ふふふ震えているぞぉおぉぉぉっっー!?」
剣が小刻みに振動した。
「きゃはーっ、どーよっ♪ 凄いでしょ、シグルーン♪」
「うむ! うむ……まあ、意味がわからないが気に入ったぞ!!」
これはなんのために震えるのだ?
拙者は首を傾げて、よくわからんが面白いからいいと、考えるのを止めた!
「ほら、言ったじゃないでしゅか……。全然わかってないでしゅ……」
「コイツ、バカだからなぁ!」
「そーそー、クッソバカなんだよねぇー♪ なんかー、知能全否定みたいなぁー?」
「要するによ、こりゃ動くノコギリだ。自ら震えることで、本来斬れない物も斬れるようになるのよ。わかったか?」
「うむ、わからんっ!! だがいい重さだ、気に入った!」
「ただちょいと問題もあってよ、そのボタンを2回早押しするとよー?」
「お、こうか?」
ボタンを二回早押しした。するとさらにとんでもないな!
たちまち剣が超高音を放って、皆が耳をふさぐことになったぞ。
「わははっ、これはやかましいな! おい、プレア、面白いがこれは欠陥品だぞ!」
「だってぇー、使うのシグルーンだしぃー? シグルーンなら全然平気じゃん? むしろ本人が一番うるさいみたいなぁー?」
「クソうるせぇけどよ、俺は良い邪道っぷりだと思うぜ」
さすがにやかましい。スイッチを止めた。
潜伏性能は台無しになるが、なんか面白いからよしとしよう。
「わははっ、確かに邪道だな! だがそこがいい! これは世界に一本だけの超ヘンテコ武器だ!」
「だから言ったでしゅ……プレア様に変な改造されたでしゅ……。せっかく本格的な仕上がりだったのに、ヘンテコ武器さんの完成でしゅ……」
うむうむ、アトミナ皇女のお気に入りは小動物かわいいな。
つい抱きしめたくなるが、どうやら拙者は危険人物と認定されているようだ! 警戒されている!
「あの、なんで近寄るでしゅか……?」
「うむ、頼む、ギューーッてさせてくれっ! 感謝の気持ちを示したい!」
「え、遠慮するでしゅ……」
「おう止めとけ止めとけ、骨へし折られんぜ、カカカッ!」
「後でプレアちゃんがー、ギューッあげよっかー、シグルーン?」
「ダメだっ、ドゥリンちゃんじゃないとイヤだっ!」
「こ、困るでしゅ……ドゥリンには、アトミナお姉さまがいるでしゅ……」
今は警戒されている。これは隙を見て、力いっぱいお礼せねばならん。
「おいおい、おっさんには何もしてくれねぇのかよ?」
「そうだったな! お前は何をしたら喜ぶのだ!?」
「ああ、おっぱい見せてくれ」
「そうか。わかった」
ドゥリンちゃんが鍛冶ハンマー(おっさん本体)を持っていたので、拙者はそれを引ったくり――
「あっダメッ、おいこら何をするつもり――だぁぁぁぁぁぁーーっっ?!!」
遠投50mほどの大記録を達成させた。
◇
◆
◇
◆
◇
・スコ夫
昨晩はジラントとプリベルに熱中して、つい夜更かししてしまった。
発掘作業をがんばって、どうにか続巻を発掘できないものか。
まあそんなわけでな、昼前に起きた俺は朝食を腹に収めて、帝都まで速度二倍による軽いランニングをこなした。
目的地は冒険者ギルドだ。俺はギルドの昇級試験を受けにやってきた。
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- 冒険 -
【冒険者ギルドの昇格試験をクリアしろ】
・達成報酬 EXP150
『腹ごなしにはちょうどよかろう。さっと終わらせてしまえ』
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これまでのパターンからすると、課題を達成すると新しいチャレンジが現れる。
報酬がささやかであろうと、俺に続きを期待させた。
「おっ、出やがったな大金持ち。……いやおめーだよっ、おめーっ!」
後ろを振り返っても誰もいない。
昼という時間帯もあって、冒険者ギルドの受付に並ぶ者はいなかった。
「なんの話だ?」
「いや金受け取ってねーだろお前っ!?」
受付の前に立つと、いつもの無精ひげの男が金貨袋をカウンターに積んだ。
「ああ、例の報酬か。忘れていた」
「よく忘れられるな、お前……。シグルーンの姉さんだって、金にだけはキッチリしてんぞー?」
金貨袋を手元に引き寄せて、この前のバインダーに受け取りのサインを入れた。
本当だ。みんなのサインがぎっしりと並んでいる。
「で、今日は何しにきた?」
「ああ、昇級試験を受けたい。案内を頼む」
すると受付は、いかにもめんどくさいと言わんばかりに渋い顔をした。
そうだろうな。試験を行っても、ギルドは一銭も儲からん。
それでも俺は簡単にできるこの課題を、できることなら一時間以内で終わらせて、帝都を食い歩きたかった。
可能ならそれに兄上を誘いたいが、それは望み薄だろう。




