3-4 義賊になれと奇書が言う - スコップ背負った取り立て人 -
3-4 義賊になれと奇書が言う - スコップ背負った取り立て人 -
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- 粛正 -
【汚れた富を100000クラウン盗め】
・達成報酬 AGI+50
・『皇帝の子にして義賊アシュレイよ、悪に一泡吹かせろ』
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邪竜の書は俺の決断がお気に召したようだな。悪から金を盗んでしまえと俺をそそのかした。
もちろんやってやるぞジラント、アンタのためじゃない、キャラルの再出発のためにだ。
それにキャラルも一矢報いたい気持ちがあったのだろう、俺の計画を伝えると彼女は明るく笑って賛同した。
奪われた物を取り返す。キャラルにはその権利があった。
「あ……アシュレイ、様……今、なんと……?」
「ヒャマール商会の倉庫から交易品を盗む。すまんが他に頼れる者がいない、力を貸してくれ」
キャラルが店の整理と中古船の購入を進めてゆく中、俺は一度宮殿生活に戻った。
色々とやることがあったからな。コレもそのうちの1つだ。
「爺、聞こえなかったか? 悪党から金を盗む。時がきたら一緒にナグルファル港まで行って、船への運搬を手伝ってくれ。それと俺は外ではシンザと名乗っている、アシュレイとは呼ぶな」
「ア……アシュレイ様ァァァァァーッッ?!! な、なな、なななな、それは弟皇様が黙ってはおりませんぞォォォッッ?!!」
口の堅いヤツを集める必要があった。
そうなると爺だ。爺はなんだかんだ俺を甘やかしてきた。俺の頼み事をほぼ断らん。
「だからバレないようにやるのだ。俺は皇帝の子だ、その七男として、弱者が悪党に食いつぶされてゆくのを見るのは、もう我慢ならん。手伝え爺、アンタは俺の小姓だ」
「アシュレイ様ッ、あなたはもう少し年寄りに対するいたわりを持って下さいませ……! 確かに志はご立派でございますが、それは犯罪、でございますぞ……」
「あるべき物をあるべき者に返すだけだ。では爺、時がきたら頼むぞ」
「そんな! はいだなんて私は一言も……アシュレイ様ッ、どうかお考え直しを……!」
「くどい。俺はやると決めた、仮に爺が協力しなくとも決断は変わらん。だから手伝え爺」
文句をグチグチたれていたが、爺の方はそれで話がまとまった。
それから俺はモラク叔父上の部屋にも押し掛けた。
「叔父上」
「アシュレイか……また不吉な顔を見せてくれたものだ。なんだ、用件ならさっさと言え」
「キャラル・ヘズを説得した。彼女は店をたたんで帝国を出るようだ」
「なんだその話か。まだ生きていたのだな……」
刺客の命は安い。この様子では返り討ちになったことすら知らなそうだ。
「彼女から手を引くように、縁のある例の商人に言ってくれ」
「物好きなことだな。まあそれなら手を出す理由もない。わかった、俺から彼に言っておいてやる」
これで調停は完了だ。
殺しにも金がかかる。再び対立することがない限り、キャラルが狙われることはないだろう。
「助かる。父上より叔父上の方が話のわかる大人のようだ」
「ふん……当然だ、俺を誰だと思っている」
だか叔父上、いつか覚えていろ。
今は見逃すが、いつかアンタにもツケを払わせてやる。アンタは皇族の恥さらしだ。
「ああそういえば、ヒャマールは皇后陛下にも献上品を捧げていると聞いた。何を贈ったら俺も気に入られるのだろう?」
「あの女に取り入るのは止めておけ、アレは怖い女だぞアシュレイ。だがもし彼女に何か送るなら、金だ。指がもげそうな純金の指輪でも送れ」
これで裏も取れた。俺は決行の時がくるまで、黙々とタフな肉体で帝都を歩き回って待った。
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こうして5日後、俺と爺は海運都市ナグルファルに入った。
乗り合い馬車を使えば一日だ。それからこの前泊まった宿に入って、キャラルの部屋を訪ねた。
「恨みますぞ、恨みますぞ、アシュレイ様……ッ」
「それより爺、本当に食べないのか?」
「そんなものストレスで喉を通りませぬッッ!」
扉の前で焼きイカを平らげると、扉の向こうにキャラルが現れた。
既に爺と何度も会っている。すぐさま彼女に導かれ、俺たちは部屋の中に身を隠した。
「今さらだけどシンザ、本気でやんの……?」
「い、今なら引き返せますぞ……これは、犯罪でございます……」
「アンタたちが思ってるほどリスクは高くない。日が落ちたら俺が穴を掘り、アンタたちが見張りをする。倉庫破りに成功したら、キャラルが目利きをして、俺たちが荷馬車に運ぶ。ただそれだけのことだ」
見ていろジラント、今夜世紀のビックリショーを見せてやる。
未来の大商人キャラル・ヘズの門出と一緒にな。
「ぁぁ……甘やかした私が悪いのですか、アシュ……シンザ様……」
「お爺ちゃん元気だしてー。ていうかさ、シンザってマジでお金持ちのおぼっちゃんだったんだねー」
爺をいたわるキャラルを横目に、部屋の窓から外をのぞく。夕刻だ。じきに日が落ちて決行の時となる。
不思議と緊張はなかった。あるのは、何が起きても切り抜けられるという、根拠のない確信だけだ。
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ある廃倉庫に目星を付けていた。
これから俺たちが潜入するヒャマールの倉庫は、ここから倉庫3つ分先だ。
見張り役の二人を背に、俺は土くれの地面にスコップを突き刺した。
そこからは魔法のようなものだ。
湾岸労働者と積み荷に踏み固められた重い土を、俺はモグラのように地下トンネルへと変えていった。
土を掘り出して外に捨て、壁をスコップの背で圧縮してゆく。
「嘘……! 何ソレ地面に道が……嘘ぉーっ!?」
「アシュ……シンザ様? そ、そのお力はいったい……私は、夢でも見ているのでございますか……?」
実はジラントを見つけた遺跡で事前にこの力を試した。
この驚くべき力を使えば、邪竜の書から得たスコップLV3の力は、いともたやすく地下トンネルを生み出せる。
時間はそうかからなかった。
あっけに取られる爺とキャラルをおいて、真っ暗闇の地下道を伸ばしていった。
するとキャラルがカンテラを持って中にきた。
この辺りは海だ、土というより砂の壁を崩して、地下道を登り道に変えると、やがて空気の美味い地上に到達した。
「着いたな。爺を呼んでくる、そっちは目利きを頼む」
「うんっ任せてシンザ! お金になりそうなお宝がいっぱい……こうなったら私っ、開き直ってがんばるよ!」
「そうするべきだ」
見張り役となった爺のところまで行って、彼と悪徳商人の倉庫に忍び込みなおした。
あらためて見てみると凄まじい。帝国製の武器防具、宝石、貴重な香料、それから絵画や彫刻などの芸術品のたぐい、それに金の延べ棒まであった。
「じゃ、これ運んで!」
「ああ、ついに泥棒になってしまうときが、きてしまいましたな……よよよ……」
「違うぞ爺、俺たちは義賊だ。これが法律違反だろうと、俺たちが正しい」
迷いなき俺の言葉は爺をさらに苦悩させたようだ。
結局渋々手伝ってくれたがな……。
申し訳ありません。
先ほど誤って、別のお話を投稿してしまっていました。
それと、平行連載の「超天才錬金術師」の表紙絵を活動報告で公開しました。
とてもかわいくて魅力的に仕上がっているので、もし良かったら見てみて下さい。
誤字報告もありがとうございます。とても助かっています。




