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18-1 病床にて 2/2

「誰が予想できたでしょうな。お互いにいい歳を迎えたというのに、同じ若い女に心を奪われようとは……」


 昔話と夢の境界を行ったり来たりしていると、意識が不意に覚醒した。

 黄金時代が終わり、皇帝の器としての生活が始まり、そして長い月日を経て、私たちに白銀の時代がきた。


 私たちの二度目の絶頂期にして、別れの始まりだった。


「ユーリアは母親によく似ていましたからな。私たちの一番輝いていた時代にあった、あの面影が現れては、心を奪われるのも当然でしょう」


 私たちは二度、同じ女に好意を寄せた。

 ギデオンの実家に疎開していた頃、私たちが憧れた女がいた。


「いやはや……。男というのは愚かな生き物ですな……」


 その女は私たちが土地を去った後、何を思ったのか国教会に身を捧げ、その後に故郷にて子をなした。

 子の名をユーリアという。その子がある日、亡き母の遺言に従い、形見を手にこの赤竜宮に現れた。


「今でも思います。ユーリア様が亡くなられなかったら、アシュレイ様はどう育っていたのかと。いえ、そのおかげで、私は我が子同然にアシュレイ様の隣にいられたのですが……」


 ユーリアは子を産んで死んだ。

 その子は竜の瞳と、白い腕をもって生まれた。


 ようやく見つけた伴侶を失い、皇子と名乗らせることも困難な、異形の子だけが残った。

 私が人生を捧げて守ってきた秩序を、ユーリアの名誉を、その子供は存在だけで破壊してしまいかねなかった。


「陛下、私は羨ましいのです。貴方はもうすぐユーリアたちのいる世界に行けるのですから」


 異形の子の首を、私は絞めなければならなかった。

 だがギデオンも私もできなかったのだ。愛した女の子供をどうして殺せる……。


 だが当時の私にはもう、アシュレイを見るのは苦痛でしかなかった。

 異形の子がユーリアを殺したとすら、私は思い込みかけた……。


「アシュレイ様のことは私にお任せ下さい。お二人の忘れ形見、このギデオンの命にかけても守り抜いてみせましょう。はぁぁ……ただアシュレイ様は、私の言うことなど、まるで聞いてはくれませんがね……」


 私はユーリアとの思い出を消すように、ギデオンとアシュレイを己から遠ざけた。

 誰の目にも届かない塔に閉じ込めて、全てをなかったことにした。


「いつもいつも無茶ばかりで、誰に似たのでしょうあれは……。あんなふうに育てたつもりはないのですが。いえ、度を過ぎて頑固なところは、貴方にそっくりでしょうかね、ふふ……」


 ユーリアのいる世界に行けるのならば、死など怖くない。

 アシュレイ……私とユーリアと、掛け替えのない友人ギデオンの子……。


 お前がたくましく育ったと聞くたびに、私は誇らしい感情と共に、己の胸から悔いが消えてゆくのを感じてならない。

 お前は忌み子ではない。私の誇りだ。



 ◆

 ◇

 ◆



・皇帝の愛し子


「どうした、風邪でも引いたか?」

「いや、急に鼻がむず痒くなっただけだ」


 その晩、領館のベッドで読書をしていると、退屈なのかジラントが現れた。

 そして何を考えたのか俺とは反対に寝そべり、視界の右側に白い両足を置いた。


「そろそろ寝ろ、遠征の疲れが残っているのを感じるぞ」

「だが寝たら明日が始まってしまうではないか」


 己の部屋でゆっくりするなど久々だ。

 誰にも邪魔されずに――いや、ジラントに若干邪魔をされているが、好きに本を読める時間が人生には必要だった。


「むぅ……何を熱心に読んでおる……」

「アンタの影響だ。趣味ではないのでずっと敬遠していたが、異界の恋愛小説を読んでいる。なかなかこれはハマるな」


「ほう、良い傾向だ。どれ、どんな話か語ってみよ、特別に聞いてやる」

「何がなんでも邪魔する気だな……」


 しおりを挟み、ザッとページを読み返した。


「クククッ、読書家というのは、本の内容を語りたがるものだろう。大好きな本を、大好きな我が輩に語れるのだから、そなたは天にも昇るほど幸せに決まっている」

「自信過剰もそこまでいけば尊敬ものだ」


 ジラントの足が顔に飛んできたので受け止めた。


「それでこの本はな……普通の少女がある日、ジラントのような使い魔と出会って、悪と戦う話だ」

「む……さっきそなた、恋愛小説と言わなかったか? それのどこが恋愛なのだ……」


「恋愛描写もちゃんとあるようだぞ。ざっくりそこは読み飛ばしたが」

「うつけめっ、そこが一番いいところだろうが!」


 少女が身を起こして、人の背中へと馬乗りになった。

 少し腰も疲れていたので、なかなか悪くない。効く。


「それよりジラント、この変身(・・)というやつなのだが、俺にもできないだろうか? ほら見ろ、挿し絵がある。変身によって、衣装が変わって、飛躍的にパワーアップするらしいぞ」

「む……それは興味深いな。もっとよく見せてみよ」


 その後、俺は小説プリベル・インフィニットハートを、1ページ目から読み直すことになった。

 邪竜というより、ただの少女にしか見えないジラントに、早くページをめくれと急かされながらな……。


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