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16-4 復讐に燃えた村 - 燃える鬼 -

 俺たちはそのまま町を直進していった。

 その先でアビスオーガの巨体を見つけるたびに、俺とシグルーンは戦車の護衛役と斬り込み役を交代した。


 シグルーンの刃が、バリスタと矢の雨が悪鬼を一体ずつ各個撃破して、鬼に滅ぼされた町を清めていったのだ。

 戦いの物音がさらなるアビスオーガを引き付け、やつらは次々と俺たちの網にかかってくれた。


 ところがだ。その網に規格外どころではない大物がかかった。

 俺のような若造が言うのもおこがましいかもしれんが、こんなおかしな個体は、初めて見た。


「何あれ……も、燃えてるよ……?」

「わははっ、しかもこっちに突っ込んできてるようだなぁっ!」

「どうするもこうするもねぇだろっ、撃て撃て撃て撃て撃ちまくれやっお前らぁっっ!!」


 それは燃える鬼(・・・・)だった。

 アビスオーガより一回り大きな背丈を持った、炎をまとう人型の何かだ。


 そいつが俺たちの乗る戦車に向けて、悶え苦しむような絶叫を上げながら、やや鈍い足取りで駆けてきた。

 誰もヤツの種族名を口にしないということは、それこそ本当にコイツは、正体不明の怪物なのかもしれん。


「シグルーン、アンタは遊撃を頼む」

「なんだとっ、拙者の盾になる気かっ!? そんなのずるいぞ!」


「ああ、俺の方が足止めや時間稼ぎが得意だ。いくぞシグルーン」

「待ってシンザッ、あんなのに接近戦なんてそんなっ、何考えてんのさっ!?」

「何も考えてねぇだろうなぁ……」


 バリスタの担当は照準を定めかねている。外したら次の装填まで時間を食うからな。

 撃てないのではなく、大事な一撃を外せないのだ。


 それと先ほどからボウガンや弓が燃える鬼に撃ち込まれていたが、どうやらまともに効いていないらしい。


 矢が炎の肉体に吸い込まれて、(やじり)だけを残して燃え尽きていった。

 アビスオーガもタフだったが、こいつはそれ以上だな。

 こちらに突っ込んでくる鬼に対して、戦車を降りた俺はその場に小細工を仕込んで待ちかまえた。


「悪いな、正々堂々は無理だ」


 いつもの手口ですまんが、落とし穴を掘った。

 だが相手は人間の倍の大きさを持つ巨体だ。そうそう簡単に埋められるようなものではない。


 そこで俺は俺自身を囮にした。

 後方に複数の小さな落とし穴を作って、ヤツが足を引っかけてくれるよう祈りながら、飛び退いた。


 燃える腕が目前に伸びてきて、ゾクリと背筋が凍ったが無事成功だ。

 腕を伸ばした前のめりの姿勢のまま、ヤツは落ちる地面に足を引っかけて受け身も取れぬまま転倒した。


「好機ッ! バリスタをぶち込めっ、拙者も続くぞぉっっ!!」


 燃える鬼の動きが止まった。矢の一斉射撃に続いて、バリスタが空を切って鬼の肩に突き刺さった。

 連続してシグルーンが足首を狙って、二本の剣をそこに振り下ろす。


「うわちゃちゃちゃちゃっっ?! 大変だ、コイツ熱いぞ、シンザッ!?」

「それは見ればわかるだろう……」


「おまけに硬い! まるで体が鉄でできてるみたいだぞっ!」


 バリスタが浅くしか突き刺さらなかったのは、その硬い肉体のせいか。

 燃える鬼は怒りの絶叫を上げて、もがきながら立ち上がろうとしている。


 ならば厄介な炎を先に消すとしよう。

 俺は足下の石畳をひっぺ返して、その下の冷たい土を燃える肉体に次々と投げつけていった。


「全く消えんな……」

「いやっ、消える消えないというよりもだなっ。かぶせた土が、丸ごと溶けていってないかっ!?」

「ええ~っ!? だったら、どうやって倒せばいいんだよっ、こんなのっ!?」


 溶けた土を身体から滴らせながら、燃える鬼が立ち上がった。

 こんなもの、もはや神話の世界の生き物ではないか。


「そこは諦めないで根気よくぶっかけてみよう。――ッッ?!」


 あまりに何気ない挙動だったので、俺は対処を怠ってしまった。

 ヤツの腕が己の腹や胸に触れて、そこにある物をすくい取り、赤く液体化した土をこちらに投げつけてくるなど、誰に予想できるというのだ。


 そしてその赤く燃える土が、いや溶岩が俺の肌にかかる前に、急激に凍り付いて地に落ちるとは、誰にも予想などできわけがない。


「ふん……冷静なのはいいが、そなたには警戒心や危機感が足りんようだな」

「すまんジラント、返す言葉もない。後少しで酷い大火傷を負うところだった……」


 炎の巨人の前に、氷の力を得意とする竜ジラントが立ちはだかった。

 そうか、ジラントだ。アビスアントを氷漬けにしたあの力ならば、ヤツを一撃で倒せるかもしれない。


「ククク……それは断る」

「なんだと……?」


「このくらいの苦境、そなたたちの力で切り抜けてみせよ。我が輩がここでアレを片付けたら、そなたに成長はない」


 ケルヴィムアーマーとやり合ったときと、言っていることがだいぶ違うぞ、ジラント。

 アンタがその気になれば、あんなもの一撃だろう……。


「さよう、だからこそ都合がよい。死にそうになったら我が輩が助けてやる」

「ならば異界の言葉を借りよう。そういうのを、ナメプーというのだ!」


「なんだそれは?」

「知らん!」


 ならばどうするべきかと考えた。

 ジラントはこう言っているが、仲間に危険が及べば必ず守ろうとするはずだ。なんだかんだ言ってやさしいやつだ。


 だったら戦線の維持をジラントたちに任せて、俺は別のアプローチを探すべきだ。


「うむ、そのくらいなら構わんぞ。カチュアには、例の小説の結末を読ませてやりたいからな」


 人は困りに困り果てたとき、周囲を見回すものらしい。

 どこかに解決の糸口が転がっていないものかと、俺はジラントを盾にしながらエネスの町を眺めた。そしてそこに答えを見つけていた。


「シグルーン、ジラントと連携してヤツの足止めを頼む!」

「おうっ、伝説の竜神と共闘できるとは、嬉しい限りよ!」

「無双の剣士に言われると悪い気はせんな。して、そなたはどこへ行く?」


「すぐにわかる。しばらくの間もたせてくれ」


 町には水路が走っていた。そうだ水だ。水をこの場所まで引いてしまえばいい。

 やることが決まったので、俺はただちに己の足下を掘った。


 スコップ30倍の力を発動させた。

 まずは巨人が水浴びできるだけのプールを施工して、それが済むと水路があった方角めがけて大地を掘り上げて進む。

 堀り抜いた土、岩、石畳を軽々と外に投げ捨てて、コリン村に堀を築いた要領でひた進む。


「んなっ、なんじゃそりゃぁぁっ?! てめぇは、てめぇはモグラかなんかよぉっっ!!?」

「夢でも見てるのか俺たち……。燃える巨人に、地面を進むシンザ、だと……」

「あっオレわかったっ、シンザは水路をここまで引くつもりなんだよっ!」


 そういうことだ。先祖のスコップがもたらす力は、何もかもをゼリーのようにやわらかくして、あっという間に水路の壁をぶち抜かせてくれた。

 しかし深く掘りすぎたな。ヘドロ混じりの水流が顔面に降ってきた。


 幸いは、気持ち悪いという感情を抱くゆとりさえ今はなかった点か。

 顔面を拭い、口に入った液体を何度か吐き出した頃には、新しい水路に足下まで水が流れ込んでいた。


「シグルーンッ、そこにやつを落とせ!!」

「よくやったなシンザッ、その頼みっ、おやすいご用だっ!! ふぬぅぅぅぅ……どぉぉりゃぁぁぁーっっ!!」


 あの女豪傑がどんな手を使うのかと気になって、深い水路からはい上がると、視界の彼方に見えたのは力業だった。

 やつは若い樹木を一本な……信じられないバカ力で引っこ抜いて、湿った根の方を槍にして燃える巨人に突っ込んだのだ。


 驚いたのはそれだけではない。巨人との力勝負になんとヤツは勝利して、見事俺のオーダー通りに燃える巨体をプールへと突き落としてくれたのだ。


分割の問題により、明日と明後日分が薄めになります。


それと! ネット小説大賞一次通過しました!

これも皆様の応援のおかげです。ありがとう!

書籍化したい。再三合わないレベルの超改稿したいです。



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[一言] 土が溶岩みたいになるというと水蒸気爆発起こしそうな温度だが……
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