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16-2 報酬額一万クラウンの大仕事

「ようシンザァ~。うちをよぉ……コイツとの待ち合わせ場所にしねぇでくれるかねぇ……。いつ騒ぎを起こすかよぉ、こっちは気が気じゃなくてよぉ……。尻の穴がヒクヒクしちまうぜ……」


 約束があるからと兄上との練兵を断って、俺はいつもの酒場宿に立ち寄った。

 店主の一言目は文句だったが、それもまたいつものことだ。軽く流した。


「待ちかねたぞ、シンザッ!」

「ゲオ――お兄さんの説得はどうなったの?」

「成功だ、一ヶ月以内に戻れだそうだ」


 聞くなりカチュアが立ち上がり、シグルーンもジョッキの中身を飲み干して、皿を抱えてナッツ類を全て腹に入れた。

 ナッツはともかく、まさかもう酒を入れていたのか……?


「わははっ、一ヶ月もあれば、2つ3つは大仕事が受けられるなっ!」

「待て、コイツに酒を飲ませたのか……?」


 カチュアと主人に目を向けても、二人はしかめた顔を浮かべるばかりだ。

 そうだな。コイツが人の指図をうけるはずがない……。


「シグルーン様がアタシの意見なんて、聞くわけないじゃん……」

「うちも商売だからなぁ、頼まれたら断れねぇよなぁ」

「何、こんなもの景気付けだ! それよりシンザァ~ッ、一緒に旅ができるなんて、拙者は嬉しくて嬉しくてたまらないぞっ!」


 シグルーンが俺の首に腕をかけて、でかい乳を押しつけてきた。

 やわらかいが酒臭い。景気付け程度では、到底済まない量を飲んでいるな……。


「じゃあさっさと行け、ほら毎度あり。あばよ、シグルーン」

「わははっ愉快愉快! またくるからなぁーっ!」


「ま、そいつら保護者付きなら歓迎するぜ……」


 今日は暴れなかったと安堵する店主を尻目に、俺たちは冒険者ギルドに向かった。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



「あっ、シンザカチュアシグルーンじゃん!!」


 建物に入ると、ギルドの女給仕が真っ先に気付いてこちらに手を振っていた。

 どうやらカチュアとシグルーンと仲がいいようだ。

 その証拠に二人は、とても親しげに給仕へと駆け寄っていった。


 俺がそれに加わっても話題が合わないと決まっているので、こっちは受付に並ぶことにしよう。

 昼前という中途半端な時間帯もあってか、前の二人組が仕事を手に入れると、すぐに俺の番がやってきた。


「待たせたな、シンザ。生きてまた会えて嬉しいぜ」

「アンタはいつもここで受付をしているな。もしかしてここはブラック企業なのか……?」


「ブラックきぎょー? なんだそりゃ?」

「待遇の酷い雇い主のことだ」


「ああ……その話は、この場所でしたくねぇな、ハハハッ! 今度お兄さんのグチをたらふく聞いてくれやっ!」


 受付の男は相変わらずのようだった。

 俺の後ろに客はいない。そのせいか、いつもよりマイペースだ。


「飯を奢ってくれたら考えよう」

「そうケチ臭いこと言うなよ、お前ら現役の方が金持ちだろがよぉー?」


「ならご破算だ。それより仕事をくれ、1人あたり1万クラウン稼げるやつがいい」

「おいおい、カチュアはともかくシグルーンと組む気か? へー、おもしれぇことにはなりそうだな……。おし、ちょっと待ってろ」


 手前にバインダーがあるのに、受付は奥の赤くて薄いやつを取りに行った。

 それをカウンターの上で開いて、俺に読めと突き出す。それから紙切れを2枚並べた。


「これは、契約書なのか……?」

「そうだ、サインだけ頼む。内容は、死んでも文句言いません。ってやつだな」


「そんなもの今さらだろう」

「それだけムチャクチャな依頼が多いんだよ。おいカチュアッ、こっちこい! シグルーンはくるなっ、話がこじれるからてめぇはいらねぇっ!」


 ざっと目を通した感じ、サインしても問題のない書類のようだ。

 そこはプィスに法律を叩き込まれた成果だ。サインだけの簡単な作業をカチュアと一緒にこなした。


 くるなと言われたシグルーンは、我先に赤いファイルをめくり、気に入った物があったのか、とあるページを指さした。


「シンザ、これなんて命の危険が多そうでいいぞっ!」

「いやっ待ってよっ、なんでわざわざ危険なのを選ぶのさっ!?」

「ほぉらこじれやがった、こういうやつなんだよ……」


 だが俺たち3人がそろってこなせない仕事もそうあるまい。

 そう思って、俺はページに目を通した。


 報酬額は10万5800クラウンという超破格だ。人数指定は10名以上とあるな。

 10人編成ならこちらの要望通りの仕事になる。危険度はそれだけけた違いだろうがな。


「ソイツはシグルーンお得意のアビス周りの仕事だ。場所は帝都から遙か西、エネスの町――とかつては呼ばれていた、廃墟だな……」


 内容は大まかにバインダーに記されているが、受付が詳しく説明してくれた。

 ヤバい仕事なのは本当らしく、厳しく凄みのある顔付きに豹変していた。


「というのも、町がアビスから発生したアビスオーガの軍勢に占拠されていてな。これが危険なんてもんじゃない。騎士団まで討伐を渋っている始末だ……」

「それはおかしいな。近隣の領地に害を及ぼしかねないのに、なぜ討伐しないのだ?」


「色々腹があるらしいな。食い詰めた民が出ると、得する連中がな、いるらしいのよ、この世界には」

「だが討伐した方がリスクを最小限にできるぞ。そんな綱渡りめいた金の稼ぎ方をしてどうする」

「だったらこの依頼、コリン村と同じだ……」


 シグルーンついては説明するまでもなく、カチュアのやる気も十分だった。

 コリン村も奴隷荘園を拡大したい領主の腹で、あわや滅亡するところだったからな。

 この依頼にするか……。


「ま、こんなご時世だからな……。先行きも暗いってもんで、思うように動けねぇってのもあるみてぇだな」

「判断はシンザに任せる。別のやつがいいなら拙者も反対しないぞ。ただな、行き先が西方というのは、拙者の都合に合っているのだ」

「受けよう。俺もこの仕事がしたい。何、アンタと俺とカチュアが組めば、アビスオーガの軍勢などどうにかなる」


 アビスオーガとは角のある巨大な怪物だ。

 知能は低いが優れた肉体を持っていて、そしてとにかくでかい。そう図書に記されていた。


「シグルーンの姐さんと、シンザが受けるならだいぶ勝算がありそうだな……。よう、俺たちも混ぜちゃくれねぇか?」

「いつぞは一緒に仕事しようってよぉ、言ったよなぁ、忘れてねぇよなぁ、シンザ?」

「おいおいっ、いきなり酒くせーなっ、シグルーンよぉっ!?」


 すると話を聞きつけて、見覚えのある飲んだくれがこちらにやってきた。

 そうか。ここでこいつらが飲んだくれているのは、割のいい仕事にありつくためでもあったのか……。


「わははっ、今日はお前らの方が酒臭いぞ! シンザッ、こいつら人格はさておき、経験は確かだ。連れて行くぞ!」

「ま、腕だけはな。あと、そいつらは前に出たがらねぇチキンでもあるな」


 受付がそう言うと、飲んだくれの一人が無骨なボウガンを見せてくれた。

 どうやら俺とシグルーンを囮にして、後ろからズドンとやるつもりらしい。


 下手に前衛に加われて、死なれると寝覚めも悪い。

 それに俺とシグルーンだけで前は十分ともなれば好都合だ。


「でもさ、手プルプルしてるよ、この人たち……」

「そこは酒が入ってるせいだ。……酒が抜け過ぎても、震えるから困るんだけどよぉ、ガハハハハ!!」


 そこは笑うところだったのか?

 酔っぱらい――いや、アルコール中毒どもが馬鹿笑いをした。


「ちょうど七人か。ならば頼りにさせてくれ」

「任せとけシンザ! そっちこそよ、戦闘中に光らないでくれよ、ホタルさんよぉっ!」


「それは到底約束できんな。機会があれば光る尻を見せよう」

「み、見せられても困るよっそんなのっ?!」


 俺たちはギルドで依頼を受け、アルコール漬けの命知らずどもと手を組んで、金を出し合って西方への遠征の準備を始めた。

 ちなみに命知らずどもは、シグルーン同様に契約書へとサインをしなかった。


 経験は確かというのは本当のようだ。

 ギルドに常駐するあの飲んだくれどもの、お手並み拝見といこう。


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