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15-10 余話 脱出路を造れと兄上が言う - カニ -

 ヘズ商会が余剰金をエリンに置いていってくれた。

 沿海州まで仕入れ値ゼロの財宝を運べば、それが莫大な儲けに変わるのだ。


 気前よくポンと、大金を残して去ってゆくのだから頼もしいものだった。

 まだ十分な財源とは言えなかったが、これでキャラルが戻ってくる1ヶ月後までもちそうだ。


 コッドウォールの屋敷で保護した少年は、命に別状はないそうだ。

 栄養失調と酷い負傷で、立ち上がれるのはいつになるかわからないと聞いた。


 翌朝目覚めると、自分がユーミル嬢とアトミナ姉上の看護を受けることになろうとは、少年も予想だにしなかっただろう。

 さらにはシグルーンの荒っぽい看護がトドメとなったそうだった。同情だ。


 インテリジェンス・鍛冶ハンマーのおっさんとは、名前を聞けずじまいで今日まで至っている。

 スコップはあんなに早く作ったきたのに、まだゲオルグ兄上の長剣の仕上げをこだわっているようだ。


「こういうよぉ、正統派の剣士でいいんだよ。何が悲しくて、魔霊銀使ってまでよ、スコップなんぞ作らなきゃならねぇんだかなぁ……」

「いや、気持ちは嬉しいのだがな……。伝説の鍛冶師殿、もう少し早く手配できないものだろうか?」


「ダメだ。なんか気に入らねぇ……。相手はアビスの魔剣だからな、ちゃんとしたものじゃねぇと満足なんてできねぇな!」

「アシュレイのスコップは、数日で仕上げてきたと聞いたが……?」


「ああ……。あの小僧は、アウサルの野郎と似た力を持っていたからな。だがゲオルグ兄ちゃんはただの人間だ。ま、俺に任せときな!」

「に、兄ちゃん……う、うむ。急いでくれ、俺もヨルドに対抗する手段が欲しいのだ……。でなければ、アシュレイに守られることになりかねん……」


 兄上の剣はもう少しかかりそうだ。

 シグルーンの剣はその後だ。


「おい幽霊爺、早く拙者の分を作ってくれ。……ん、どうかしたか?」

「いや……なんでもねぇ。昔お前さんみたいなバカ野郎がいたなって、ふいに思い出してな……」


 人となりが知りたいから会わせろと言うのでシグルーンに引き合わせると、おっさんはずいぶんと微妙な顔をしていた。

 出会って間もないというのに、シグルーンの人となりを察していた。さすがは職人だ。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



 まあかくしてコッドウォール卿の倉庫を暴き立てた翌々日、俺は兄上のプランを進めていった。

 それは有事の際の脱出路造りだ。


 初代皇帝が生み出した、あのふざけた地下隧道に対抗したくなって、俺もエリンと帝都を繋ぐものを造りたいと思った。

 そうしておけば逃げ道になるだけではなく、有事の際に帝都に侵入しやすくなるという、兄上らしい目論見だった。


「これは……ふぅ……」


 本音を言おう。作業を始めて半日で嫌になってきた。

 一回限りの使い捨てだったこれまでと違って、この作業には強度を気にしたり、広沢を確保下と手間暇がかかった。


『どうした、もう飽きたか?』

「ああ、その通りだ。ここには芋も異界の本もない。閉鎖空間に閉じこもって、何日もトンネルを掘り続けるとは正気とは思えん」


『では我が輩がお話をしてやろう。昔昔、あるところに、カニがいた』

「カニ……? それはいきなりシュールなものだな……」


『そして、サルもいた……』


 丸一日かけて、エリンから帝都への地下隧道を掘ったが、まだまだこれは完成しそうもない。

 ちょうどエリンに兄上が来ていたので、その晩、俺は兄上のための一室に報告に向かった。


「完成度2割か。まあ今はそこまで急ぐことはないだろう。ところで、爺から例の話は聞いたか?」

「……あまりその話題には振れたくはないな」


「その反応からすると、そうか、知ったか」

「ああ……父上め、勝手なことをしてくれる……」


 兄上は珍しく俺に何かを強制しなかった。

 ただ俺の顔色をのぞき込んで、様子を見ているように見えた。


「ユーミル嬢なら悪い相手ではない」

「ああ、それはわかっている。彼女は義賊の仕事を自ら手伝ってくれた」


「な、なんだと……」

「貴族のしきたりに縛られた人間かと思えば、意外にあれは熱いやつだったぞ、兄上」


「何をしでかすかわからない弟に、じゃじゃ馬の嫁か……。むぅ……」


 兄上が難しそうに顔をしかめたので、このやり取りは俺の勝ちだ。

 俺には恋愛というものがよくわからないが、きっとユーミルと俺はそこまで相性は悪くないだろう。


「たまには一緒に食事にでも行くか? お前に紹介したい店がナグルファルにある」

「本当か? もちろんそれは、兄上のおごりだな?」


「当たり前だ」

「わかった、姉上には?」


「秘密のつもりだったが、お前が望むなら呼んでもいい」

「なら姉上も一緒だ。三人でこっそり行こう」


 姉上を交えて、俺たちは夜のナグルファルで外食をした。


「ねぇ、アシュレイ、どっちにするの? カチュアちゃんも素朴でかわいいけど、キャラルちゃんも明るくて私好きよ! でもね、ユーミルちゃんともいい感じよね、うふふっ♪」


 誘ったのは失敗だった。

 それでも俺とゲオルグ兄上は、アトミナ姉上の明るい笑顔を見つめて、今ある幸せを噛みしめたのだった。


時間に余裕があったら、兄弟の休暇をサイドエピソードとして書きたいです。(以前のエリンの休暇なども)

けど時間がありません……。


それとスパム化していてすみませんが、超天才錬金術師2巻が4月30日に発売します。

挿絵のHarcana先生がとんでもない作画カロリーを披露して下さいましたので、お気が向きましたら予約してくれると嬉しいです。

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