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15-9 コッドウォール卿に下った天罰

後日談――


・妻殺しの悪党


「ヒ、ヒヒヒ、ヒヒャヒャヒャヒャ……こんなもの、悪夢だ……。なんで、こんなことになってしまったんだ……」


 俺の名はコッドウォール、騎士団の金庫番だった者だ……。

 我が商会は騎士団との強いコネクションにより、手堅く儲かって、投資すれば投資した分だけ、金が返ってくる仕組みに与れていたはずだった……。


 だがその仕組みが破綻した……。

 盗賊だ。世間を騒がす姿なき大悪党が俺の大切な倉庫を漁り、根こそぎ奪い取っていったせいで、我が商会は運転資金の8割を失った……。


 どうして俺は金を分散させておかなかったのだ。

 今月の支払いに充てる金がない。騎士団への上納金など出せるはずもない。


 騎士団長、ヨルド皇子を含む有力騎士たちの募った融資も何もかも、全てを奪い取られた……。

 なぜ、このタイミングで、盗賊は俺の屋敷を襲ったのだ……。もうままならない。どうにもならない。

 残り2割の資金が残っていても、商会の建て直しは不可能だ……。


 俺は破滅だ。いや、まだだ。わずかに残った金をかき集めて、この帝国を捨ててどこにかに高飛びすれば、まだ再起の可能性が一応はある……。


「旦那様、ヨルド様がいらっしゃいました」

「ヒッ……ヨ、ヨルド……様ッ?!」


 使えない使用人が背中にヨルドを連れて、俺の書斎にやってきた。

 ダメだダメだダメだ、ヨルド様にだけは気づかれてはならない。


 この前から、ご外遊から帰ってきてより、彼は何かがおかしい。近付き難い気配を放っていた。


「コッドウォール、何をそんなに驚いている」

「よ、ようこそ当家へ……歓迎いたします、皇子様」


「少し近くまで寄ってな。顔色が優れないようだが、大丈夫か?」

「は、はい……少し、体調がすぐれないようでして……」


 ヨルドは神経質で、苛立ちを周囲にまき散らす付き合いがたい男だ。

 しかしおだて易く、利己的で、与しやすい男だと思っていた。


「ヨルド様、な、何を……お、お待ち下さい、ここは私の屋敷ですよ!? こ、こら待てお前たちっ、どこへ行く!?」


 ヨルド皇子が剣を抜いた。

 その剣を手にしてから、彼がおかしくなったと言う者もいる。


 高い金を払ってやったのに、使用人は俺を捨てて逃げ出していた。

 これでは、俺が失態を冒したと明かしているようなものではないか、無能どもめが!


「お前の周囲で、金の流れが滞っているようだな、コッドウォール」

「そ、それは、一過性のもので……」


「俺のことを無能なイノシシ武者だとでも思ったか? 生憎、こっちは皇子だ。汚い争いには慣れきっている……。すぐに俺の金を返してもらおう」

「投資の資金を、すぐに返せるわけがありません! 三日、いや二日お待ち下さい、ヨルド様ッ!」


 バレている! 金を失ったことがバレている!

 これは取り立てだ。自分だけでも、ヨルドは俺に投資した金を取り戻そうとしにきた!


「人間不信のお前のことだ、金ならこの屋敷にため込んでいるだろう。案内しろ」

「う、あ……それ、は……」


 ない。ないのだ。ここにある金は全て奪われた!

 払えと言われてもここに金はない! だが、払わねば、お、俺は、ヨルド様に……。


「地下倉庫に案内しろ」

「どうか、どうか一日だけ、ご猶予を……急に言われても困るのです……」


「早くしろ。他の連中が破綻に気づく前に回収したい。連れて行け」


 ヨルド皇子の剣が、石造りの支柱に向けて振られた。

 信じられない……。あんな分厚い石の柱が硬い音を立てて真っ二つにされていた……。


 連れていくしかない……。

 だが連れていっても結局は殺される。ならば、ならばもう……。


「どうぞ、お先に……私は施錠がありますので」


 地下室にヨルドを案内した。

 俺は地下室への鍵を閉めるふりをして、皇子の背中を睨んだ。


 屋敷を警護する兵たちまで俺を裏切った……。

 密かにヨルドを殺せと命じても、誰一人従わなかった。


 中には、ついに天罰が下るときがきたのではないかと言い放って、この屋敷から出ていった。

 たかが傭兵の癖に、この俺に偉そうな口を聞きやがって、もう許せねぇ……。どいつもこいつも! 無能無能無能無能めが!!


 死ね……お前はここで死ね、死ね死ね死ね、死ねヨルドッ!!

 気づかなければよかったんだ! 気付かなければ、お前は俺にここで殺されることはなかった! 死ね、無惨に死にさらせヨルドッ!!


「ァ……アアアアアアアアーッッ!! ァ……レ……」


 静かに剣を抜き、ヨルドの無防備な背中を狙って俺は絶叫を勇気に変えて突っ込んだ。

 だがヨルドが消えて、背中に現れて、俺の背中を斬った……。斬られた、斬られた、焼けるように痛い、痛い、痛い、そんな、血が止まらない……!


「そん、な……」

「空、だと……? 空というのはどういうことだ……。貴様、俺の金を、どこにやったのだこの無能がッ!! お前のせいで、クーデターの計画が滞ったではないか! おのれ、おのれ、おのれっ、糞が! ゲオルグ……ゲオルグさえいなければ、こんなことには……この役立たずのクズがッッ!」


 柱すら斬る魔剣で、ヨルドは俺をみじん切りにした。

 すぐに絶命しないように、俺をいたぶり、暴言の限りを吐いた。


「助、けて……助け、アアアアアッッ!!」


 これは俺ではない……。

 これは妻だ。騎士団から貰った少年だ。けして俺ではない。俺が、死ぬなんて、そんなわけ……。

 ああ、ああああ……ヨルド、お前も、お前こそ、地獄に、堕ちろ……。


 ◆


『この日、妻殺しの男に天罰が下った。地下室には無惨に切り刻まれたコッドウォールの残骸が残された。屋敷の者は血塗れのヨルド皇子に恐怖し、ただちに逃げ出して、その後、ヨルド同様の取り立て人の手によって、腐った肉の塊が発見されたそうだ。クククッ……アシュレイよ、この顛末をキャラル・ヘズに語るのは止めておけ。ヤツには相応の天罰が下った。その一言で十分だ』


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