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15-7 ホタルは妻殺しの悪党コッドウォール卿から全財産を盗む - 少年 -

 その次は離れにある蔵だ。

 俺とシグルーン、ユーミルは一足先にそちらの蔵に向かい、地下をぶち破って地上に出た。


「ぅ……ぁ……」


 そこには思わぬものが眠っていた。

 どうもそこは、騎士団に支給する武器や鎧の一次保管庫らしい。


 鉄は金になる。根こそぎ奪おう。だがそれはそれとして、これはどうしたものだろうか……。


「おいシンザッ、早くそこをどけ! お前の尻をユーミルが凝視しているぞっ!」

「だ、男性の尻を見て喜ぶ趣味はないわよっ!」


「なら拙者の尻を見るか?」

「なんでそうなるのよっ!」


 後続の二人に振り返って、シグルーンから順番に手を差し伸べた。

 この二人に現在の状況を認識してもらって、判断を聞くためにな。


「え、男の子……? なんでこんなところに……」


 確かにその蔵も金目の物であふれていたのだが、どうやら者まで保管されていた。

 壁際に少年が鎖に繋がれて、息も絶え絶えにこちらに向けて口を開け閉めしている。

 これはもしや『たすけて』と言っているのか?


「クックハハッ……シンザ、今から拙者と、ヤツの寝首をかきに行かないか? もう一秒たりとも生かしてはおけん、処刑しよう」

「バカ言え、それでは帝国に混沌をまき散らすだけだ。……ところで見たところ彼は、見習い騎士のようだな」


 ボロボロだがこの服は見習い騎士の正装だ。蔵に死にかけの少年が監禁されている。

 驚きはそれだけに止まらず、気になって太陽の石を近付けてみると、虐待の痕跡まで確認できてしまった。


 全身傷だらけのあざだらけ。顔だけ無事なのも妙に生々しい……。

 顔の綺麗な見習い騎士を、慈善事業で蔵に監禁していたのでもなければ、これは……。


「と、う……ぞく……」

「いいや、俺たちは盗賊ではない、誇りある義賊だ。悪党コッドウォールの富を奪いにきた」


「ぁ……。おね、が……た、す、け……て……」

「助けてと言っているな。さあどうする、拙者たちの顔を見られたぞ?」

「どうするって、助ける他にないでしょっ!?」

「ああ、次からは覆面が必要だな」


 騎士団所属の少年となると、ヨルド皇子の配下ということになる。

 助けたところで、恩を仇で返される可能性も少なくもない。


「なか、ま……に、して……。もう、いや……いや、だ……。あん、な……きもち、わるい、こと……っ」

「アンタ、なぜこんなところにいる?」


 問いかけにまともな返事はない。

 すると何を考えたのか、シグルーンが少年の口元に小さな水筒を押し付けた。


 水が喉を潤すと、彼は少し落ち着いたようだ。

 酷い状態だったが、いくらか喋れるようにもなっていたらしい。


「売られ、ました……」


 売られて、監禁されて、虐待か。


「誰にだ?」

「……騎士団。コッドウォール様が、僕を、気に入って、僕は……ぁ、ぁぁっ……あんなこと……信じられない……尊敬、してた、のに……」


 平民が貴族になれる数少ない道、それが騎士だ。

 立身出世に憧れて、その騎士の配下である下級騎士や、従者になりたがる者は多い。


 だがその待遇はというと、それは帝国の闇の一つだった。

 なり手の多い世界は、それだけ雇い主が人を使いつぶす世界でもあったのだ。


「この子、裏切られたの……?」


 少年は小さくうなづいて、力なく首をうつむかせた。


「シンザ、コイツは拙者が面倒を見よう。この期に及んで、拙者たちを裏切るとは思えん。助けてやってくれ」

「それでも何かの拍子に裏切る可能性もあるぞ」


「うむ、承知している。だがそれでも見てられんだろう。最悪洗脳してでも、拙者たちの味方にする。だから頼む」

「シンザ、私からもお願い。この子、今日まで酷い目に遭ってきたのよ。私たちが義賊なら、助けないと……」


 俺はすぐに返事を返さず、少年と見つめ合った。

 これは酷いな。肩に火傷がある。いや他の部分にも、焼けた鉄を押し付けられた痕が残っているな……。


 ド変態のサディストが何食わぬ顔でこの国の騎士団に属しているなど、ホラー小説の方がまだぬるい。


「惨いな……。わかった、この子は任せたぞ、シグルーン」


 彼の手かせ、足かせの両方にスコップを押し付けて、少年を戒める拘束を解いた。

 軽いな。栄養状態も思わしくないか……。


「うむっ、そうこなくてはな!」

「よかった……私、応急手当をするわ!」


 少年を二人に任せて、俺は蔵にあったブロードソードを6本抱えてそこを出た。

 それから獣人のリーダーに事情を説明して、廃材で簡単な担架を作った。



 ◆

 ◇

 ◆



「ふぅふぅ……これで最後の一本ですワン……。さあ逃げましょう、シンザ様!」

「ああそうするとしよう。明日あの倉庫を見たコッドウォールは、どんな反応をしてくれるかな。見れないのが残念だ」


 やがて俺たちは財宝の全てと、捕らわれの少年を荷馬車に積載して、エリンに向けての逃避行を開始した。


 とんでもない重量に車体がきしみ、馬が重いと抗議のいななきを上げても、どうにかもってくれと祈るしかなかった。


 エリンにさえ到着すればあとはどうにかなる。

 黄金と鉄で過剰積載された馬車を、馬と一緒になって押して押して、俺たちは帝都の西門をくぐり抜けた。


 幸いゲオルグ兄上の手配で、警備に俺たちが止められるようなことはなかった。


「ここで別れよう。この子は拙者たちに任せて、そちらは積み荷を頼むぞ」

「あ、待って……。こんなこと言うのも変かもしれないけど、一緒に働けて楽しかったわ。私、貴方のことを見直したかも……それじゃね、アシュレイ皇子様……」


 エリンに入ると、シグルーンとユーミルが担架に少年を乗せて、領主の館を目指して去っていった。

 この財宝をエリン港に運び込めば、提督ことキャラル・ヘズとはまたしばらくのお別れとなるだろう。


 俺も一緒にあのガレオンに乗って、沿海州に旅立ちたくなってしまった。

 だがそれはできない。最低の騎士コッドウォールがどんな末路を描くか、見届けなければならないからだ。


 キャラルがまたこちらに戻ってきたら、今回の結末を必ず伝えるとしよう。


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