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15-5 同情の余地のない悪党から、富を根こそぎ奪う

 エリン港が完成したその翌日、俺は帝都にいた。

 噂の騎士の素性調査を済ませて、ヤツが同情の余地のない悪党であることを、確認し終えたところだった。


 コッドウォール卿の妻は、これまでに合計5人も他界している。

 最初の妻は騎士の娘だったが、以降は平民だ。


 その男の屋敷のメイドに探りを入れると、子供ができるまではやさしいが、生まれるなり暴力を振るうようになるそうだ。

 もう主人に付き合い切れないので、あんな仕事は辞めると吐き捨てていた。


 そこまでメイドに思い立たせたのは、6人目の妻の姿が消えたからだ。

 やっと貧乏生活から脱却できたと嬉しそうに笑っていたのに、自分が主人の本性を伝えなかったがために、彼女を失踪させることになったと悔やんでいた。


 また、これはプィスの調査資料によるものだが、ゲオルグ兄上によると、複数の嫁の親族が、消えた娘の捜索を国に願い出ていたが、どれも申請を取り下げられているそうだった。


『黒だ。もはや迷うことはない、やってしまえ、アシュレイ』


 ジラントのその言葉は今日で5度は聞いただろうか。

 しかしそれでも最後の確証が欲しかった。


 そこで俺は素性を隠して、騎士コッドウォール卿と接触することにした。

 わざと往来でぶつかってやって、相手の反応をうかがったのだ。


「貴様……俺の財布をすったな?」


 薄汚い格好をしたのが悪かったのだろうか。

 こちらから難癖を付けるつもりが、向こう側から俺にちょっかいをかけてきてくれた。


「さてな。そこまで言うなら、ここで自分の財布を確認してみればいい」

「薄汚い野郎が偉そうな口を叩くな。いいか下民、俺は騎士だぞ……偉い騎士様なんだ……。身分が違うのならば、言い方というものがあるだろう。言い直すチャンスをくれてやる……」


 第一印象は粘着気質の権威主義者。続いてこの男は何かがおかしいと感じた。

 騎士という位によっぽどの執着と誇りを持っているのか、目がギラギラと病的に光っていた。


「どうせ金で買った位だろう。その剣もどこまで使えるのやら、わからんな」

「ほぉ……」


 さてどう出るかと、あえて怒りを逆なでする言葉を選んで相手の様子を観察した。

 急に背筋が冷たくなって、とっさに俺は動物的に後ろへと飛び退く。


 どうやらコイツは狂っているようだ。そう確信した。

 ヤツはいきなり剣を抜いて、俺に斬りかかってきたのだ。もうこの時点でまともではない。


「お待ち下さいコッドウォール様ッ、ここでは人の目が!」


 往来での暴行に、さすがに引き連れていた護衛たちが動揺した。


「なぜそんなにイライラとしている。アンタは栄誉ある騎士の位にあるのだろう。恵まれているなら、余裕を持ったらどうだ」

「うるさい! 下民などに、俺の苦しみが、わかってたまるかっっ!」


 往来で堂々とヤツが剣を振り回すので、近辺はちょっとした大騒ぎになった。

 女子供が恐怖に声を上げて、逃げ出したり、遠巻きに俺たちに目を向けていた。


「ならば自分の妻に慰めてもらえ。ああ、だが不可能か。アンタの妻は六人目まで漏れなく行方不明だ」

「ッ……貴様……俺を、貴様……ッ!」


 コッドウォール卿は言葉を失った。

 見るからに動揺して、感情任せに剣を振り回す。それを紙一重でローブ男がかわすたびに、人々の絶叫が上がった。


「短気なやつだな。やはりアンタが全員殺したのか。妻殺しは裏切り者の所行だ」

「こ……殺せ! こいつを今すぐ殺せェェーッッ!!」


 護衛兵は命令に逆らえず、狂った主人と共に俺へと凶刃を振り下ろした。

 もしもここでスコップやシャベルで迎撃すれば、さすがに素性を悟られてしまうだろう。


 そこで選んだ方法は、身体能力任せの素手だ。

 回避し、力ずくの敏捷性で間合いを詰めて、護衛兵を順番に殴り倒していった。


 一撃必殺で主人以外の全てを無力化すると、少し気になって、落ちていた剣を拾い上げてみることにした。


「な、なんだお前は……!? まさか、暗殺者か!?」

「やはりダメか……」


 試しに上段に振ってみると、信じられないことに刀身だけが剣からすっぽ抜けて、握り手だけが残った。

 誰かに格闘術を教わっておいた方がいいかもしれんな、この先。


「ま、待て! 俺を殺したら、ヨルド皇子が黙っていないぞっ!?」

「それは承知している」


 ヤツの剣を紙一重で回避して、護衛にしたのと同じく間合いを詰めて、ヤツの頬を被害者の代わりに全力で殴り飛ばした。


「うっうぐぁぁっ……?! い、痛いっ、何をする貴様ッ……この俺の、顔を、下民ごときが殴るだとぉっ!? 貴様ッ、その顔を俺に見せろっ!!」

「心の整理が付いた。アンタは黒だ」


「待て、逃げる気か! お前を必ず見つけて、なぶり殺しにしてやるからなぁっ!」


 確信を得た俺は、すぐにヤツの前から退散した。

 民に刃を向ける時点で、どちらにしろコイツは黒だ。表に露見していないだけで、これは他にもやらかしているに違いない。


 この男の倉庫を空っぽにしてやりたい。

 いますぐ地に埋めてしまいたい気持ちを抑えて、俺は計画を実行に移すことに決めた。


 これから俺は悪から富を奪う。

 誰に命じられるわけでもなく、俺の意志で、腐敗した法に代わって悪党に罰を下そう。


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