15-3 ナグルファルを田舎娘と提督と一緒に食い歩こう
エリンから馬車を出してもらい、昼過ぎにナグルファル港の南部に到着した。
馬車を降りてすぐの通りで、まずは干した貝柱と、舶来の果物を買って二人に振り返る。
「昼食はあの店の魚介のパエリアにしよう。カチュアと姐上の弁当は船でのおやつだな」
「あ、うん……。昼食前に間食するんだ……」
「さすがの食い意地だよね……。でもあそこのパエリア美味しかったし、私もそこは賛成!」
キャラルが貝柱を摘まむと、カチュアも遠慮がちに口へと運んだ。
気に入ったようだ。すぐに次を欲しがったので、袋ごとカチュアに押し付けた。
「わぁ……モグモグ……。わぁぁ……」
山育ちのカチュアには見るもの全てが新鮮で、あっという間にラタトスクで見せたおのぼりさんモードに入っていた。
また人にぶつかりそうになっていたので、世話を焼くとキャラルなぜか笑っていた。
「あ、果物は二人で食べて。南で飽きるほど食べたから、そんなにここのは欲しくなかったり」
「そうか、それはまた贅沢な話だな」
代わりに彼女は魚の塩焼きの屋台にかけていった。
すぐに一匹確保して、美味そうに焼きイワーンフィッシュにかぶりつきながら、こちらに合流した。
「そんなものでいいのか? それこそ食べ飽きてるのでは」
「ううん、南の方の魚ってね、あんまり脂がのってないから、こっちの魚は格別なんだよ。モゴモゴ……」
「……美味そうだな。少しくれ」
「え。……う、うん、まあいいけど……はい……」
「そんなに惜しそうに出されてもな。ん、美味いな」
「いや、惜しいんじゃなくて……はぁ……」
「わかる。シンザってこういうやつだから。こういうところは、もう諦めるしかないよ……」
また女同士で結託して、俺にはわからない文句を言っていた。
悪いな。そういうのは説明してくれないとわからん。
この前のレストランを目指しながら、俺は二枚貝の酒蒸しを買って、二人と分けた。
◆
◇
◆
「あ。あれって、あの時の人じゃない……?」
「あの時……おお、あの時の彫金師か」
往来にバザーがひしめいていたが、そこに煌びやかな装飾品を飾る店があった。
キャラルがその前で立ち止まって、俺たちに右手の指に付けた真鍮の指輪を見せてくれる。……ん、妙だな。
「その指輪、なぜ潮風にやられていないのだ……?」
「うん、実は錆びてきちゃったから、金メッキしちゃった」
「あ、もしかしてそれ、シンザのプレゼント……?」
この国の皇后のように、純金の重い指輪を付けるよりはずっと合理的だな。
「そうっ、いいでしょ~!」
「いいな……。それは素直に羨ましいかな……」
「だってっ! シンザッ、カチュアにも何か買ってあげなよ!」
「えっ、いやっ、オレ、そういうつもりで言ったんじゃ……!? それに、似合わないからいいよ……っ」
「カチュアは要らんと言っているぞ」
「言葉を額面通りに受け止めたらダメだよ、シンザ。特に女の子は、素直じゃないんだから。ほらっ、何でもいいから、シンザが選んでプレゼントする!」
「いや、でも、オレ、こんなの……」
彫金師が俺たちを期待と共に見上げていた。
まあ、その昔よりも財布も厚くなった。もっと贅沢してもいいだろう。
そこで俺は銀のネックレスを手に取る。
それはチェーンまで細かく作られていて、職人の仕事を感じさせられた。
「これをくれ」
「70クラウンだよ」
「結構するな」
「うちは亜鉛や鉛を混ぜてないから良心的だよ」
金を払ってネックレスを受け取った。
それをカチュアの首にかけて、結んでやった。
「い、いいの……?」
「ああ、これなら服の下に付けられる。恥ずかしがりのカチュアにいいだろう」
「へへ……くれるっていうなら、しょうがないよね……。ありがとう、シンザ! それに、キャラルもありがと!」
「いいよいいよ、お金出したのシンザだし。私って実はさ、これで天涯孤独だから、だんだんカチュアが妹みたいに見えてきちゃって」
本当は買って欲しかったのか……。
女心というのはわからんな……。いや、俺が不器用過ぎるだけなのか。
「じゃあこれから、キャラル姉さんって呼ぼうかな……」
「え、それは嫌。姐さんと響き近いし……」
「じゃあ、お姉ちゃん……?」
「それは……それはありかも! アトミナ様が羨ましがりそうだけどね、あはは」
俺がネックレスをプレゼントしたのに、キャラルに美味しいところをすべて持っていかれているような……。気のせいか?
それにしても腹が減った。こんなツマミ程度では足りんな。
「早くレストランに行こう。腹が減った」
そう伝えたら、二人が笑いながら駆けだしていった。
なぜ急に笑われたのか、真剣に理由がわからない……。
後10年経ったら、俺にもわかるようになるのだろうか。
俺には無理だと思った。




