表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/225

14-4 スコップ一つで築いた反逆の地下帝国 - 一致度95% -

 次の目的地は旧都ア・ジールだ。

 ジラントはこの地にずいぶんと執心で、己の策が劇的な効果を呼ぶと信じているようだ。


「ところで、そのア・ジールとやらはどんなところなんだ?」

「それは行けばわかるわ。あそこは、その昔にあたしたちの神様がいた場所。でももういない」


「思わせぶりだな。まあ行けばわかるか」


 宮殿を出て、フィンブル公爵領を馬車で南に向かった。

 この領地は広大で、その南部には豊かな穀倉地帯を有している。


 その豊かな土地を南に抜けて、やがて俺たちは森の前で馬車を降りた。


「この奥よ。この先にあるの」

「本当にこんな森の向こうに都があったのか?」


「行けばわかるっていったでしょ、おとなしく付いてきなさいよ」


 ちなみにジラントはエネルギーの節約のために、あの宝物庫を去るときに実体化を解除した。

 今は俺の中から、いつもの覗き見をしている。


 その不思議な森を進み、道ならぬ道を抜けてゆくと、その奥に朽ちた建造物が現れた。

 どうやら放棄された砦のようだった。


「これがア・ジールか?」

「これは厳密には違うわ。ア・ジールはこの先にあるの」


 ユーミルに導かれて、俺は今にも崩れそうな砦に入った。

 その砦の内部には、一カ所だけよく整備されている通路が残っており、その先に奇妙な穴が空いていた。


 エルフの令嬢はさも当然と、光の魔法を灯らせて、その地下に続く穴を進んでゆく。


「そこを進むのか……」

「早くきて」


「わかった。こうなればどこまでも付き合おう」


 戸惑いはあったが、ここまできたら従う他にない。

 彼女の背中を追いかけて、俺は地下空洞を下っていった。


「帝都はね、本当はここにあったの。この場所こそが、本当の帝都。ベルゲルミルは偽りよ」

「こんな穴蔵の底にあったのか?」


「うん。ヒューマンは寿命が短いわ。だからたびたび、歴史を改変させる。ここもその一つ。なかったことにされた、本当の始まりの地よ」

「初耳だ」


「そうね……。だから、実はね、私たち、今の皇帝家が本当に初代の血族なのか、ずっと怪しんでいたの。けど、その姿を見せられたら、信じる他にないわ」

「そうか。やはりよくわからんな」


 詳しく説明する気はないらしく、ユーミルはそれ以上何も言わなかった。

 下へ下へと螺旋を描く地下道を進んで行くと、やがて俺たちは広い空間に行き着いた。


 見れば奥に、何やら巨大な門がある。それに近付いてみると、それはあのジラントが通れそうなほどにさらにでかかった。


「そこはもう通れないわ。昔は通れたそうだけど、今は堅く閉ざされたまま、どうやっても開かないの。遺跡の一部分だと思って」

「だが、これは凄いな。地下世界にこんなものがあるだなんて、不思議で、夢の広がる光景だ」


「ふーん……貴方って物好きなのね。少しだけ近くで見ていく?」

「そうしてくれると嬉しい」


 ユーミルと共に扉に近付いてみた。

 彼女が照明魔法を強くして、明るい輝きが巨門を照らす。近付けば近付くほどやはりでかかった。

 扉に触れてみると、金属でできているようで、それは凍えそうなほどに冷たい。


「一致度95%……本人ト確認……」


 ジラント、今何か言ったか?

 心の中で問いかけても、ジラントは返事を返さない。


「あの、アシュレイ。変なことを聞くけど、今扉から、おかしな声がしなかった……?」

「アンタも聞こえたか。なんだ、これは……。ッッ――まずいっ、この扉! 何やら激しく震えているっ、逃げるぞユーミル!!」


「ぇっ……ぁ……っ」


 古い遺跡だ。俺は安全のために急ぎユーミルの手を引き、扉から距離を取った。


「オ帰リ、ナサイ、マセ、サマエル様。捜シ物ハ、見ツカリ、マシタカ?」


 すると扉が世迷いごとをのたまいながら、地響きを鳴らしながら開いてゆくではないか。

 サマエル? 捜し物? なんのことかわからんが、とにかくこれは凄い。


「ひ、開いてしまったわ……。嘘、この扉が開くだなんて、そんな……」

「ああ、驚いたな。しかしこれは……」


 扉の向こうにあるのが本当の帝都ア・ジールだというならば、一体ここに何が起きたのだろうか。

 都と名付けられたその空間には、何も存在(・・・・)していなかった(・・・・・・・)


 青白い光がところどころに灯るだけの、あまりに寂しい大空洞がそこに広がっていた。


「光っているのは、残り火だそうよ。かつてここには、もう一つの太陽があったの」

「太陽が、地底にか? アベコベも極まっているな」


 それよりジラント、そろそろ返事をしろ。

 さっきのサマエルとは、絶対神サマエルのことか? それともまさか、あの扉はアンタに反応したんじゃないだろうな?


 心に念じても、ジラントはまともな言葉を返してくれない。


『どういうことだ……。なぜこの門が反応を……』


 聞こえてくるのは独り言だけだった。

 無駄だな。ジラントはしばらくあてになりそうもなかった。


「さて行くか。道が恐ろしく険しいが、まあどうにかなるだろう。ユーミルは、西へと繋がる地下道を知っているか?」

「う、うん、一応……。わかった、案内するわ。足下に気をつけなさいね」


 ユーミルと共に俺はその大空洞を下り、ようやく勾配が落ち着いたところで、西に向かって岩盤の大地を進んだ。


「ん、あそこに何か落ちているな」

「えっ、あっ本当ね。キラキラ光っているけど……」


 気になったので近付いて拾い上げた。

 それは片手で握れるくらいの石ころだ。


「この石、妙だぞ……」

「妙って、きゃっ、ひ、光り始めたわっ!?」


 ところが俺がそれを拾い上げると、自ら空中に浮き上がって、オレンジ色のまぶしい光を放ちだしたから驚いた。


『太陽の破片といったところか……。まさかそんなものがまだ残っていたとはな……』


 本当に地底に太陽があったとでも、言い出しそうな口振りだな。

 ともあれこれは便利だ。俺はその太陽の破片とやらを予備の靴紐で縛ると、それを衣服に繋げた。


「よくわからんが、これでカンテラ要らずだな」

「そういう使い方していい物なのかしら……。それって昔に、このア・ジールを照らしていた物なんじゃないの……?」


「ああ、歴史的発見物なのかもしれんな。だが使える物は有効活用するべきだ。それより西の隧道とやらに案内してくれ」

「わかったわ。アシュレイ、貴方って、私が思っているより凄い人なのかも……」


 ユーミルに案内されてさらに西に向かうと、確かにそこに大きな横穴が広がっていた。

 進んでみると不思議なもので、硬い岩盤が見事に切り抜かれて、広い通路がそこにできあがっていた。


 本当に、こんな地下トンネルを一人で掘ったのか……? 間違いないな、初代皇帝は大バカ者だ。


「ここは空気がなくなったりしないのか?」

「地上との空気口があるそうよ。塞がっている可能性もあるけれど……」


「怪しいところだな。息苦しくなったら引き返すとしよう。……ん、あれが崩落部か」

「そう。でもどうするの?」


「撤去しろと言っているやつがいるからな、要求に従うのみだ」

「ぇぇ……っ?」


 説得するより見せた方が早いので、俺は崩落した硬い岩盤をスコップで貫き、30倍化のスキルを発動させた。


「う、嘘……」


 瞬く間に崩落部は貫かれ、人が通れる通路と瓦礫が確保されることになった。


「な、なんなの貴方っ!? これなら本当に、ア・ジールの地下隧道を、復旧できる……凄いわ!」

「俺の数少ない取り柄だ。とはいえ、地底の岩盤はなかなか厄介だな……」


 見ればスコップが欠けてきている。

 この世界にあるのは土ではなく岩盤だ。なおさらこんな場所を生み出したやつの気が知れない。


「悪いがもう少し付き合ってくれ。明るい方が作業しやすい」

「いいわ。この先に何があるのか、小さい頃から興味があったの。私も手伝うから、どんどんいきましょ!」


「ああ、意外とアンタ、やんちゃなお嬢様なんだな」

「公爵令嬢に向かってやんちゃとは何よっ!」


 そこから先は単調なようで、やかましい作業と言い合いの繰り返しだ。

 俺たちは崩落部を見つけるたびに通路を修復して、奥へ奥へと進んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活
新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ