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14-2 魔剣に対抗する手段を得るために、名工を探せ - 高速巡航と、じゃがバター -

 酒の残ったその足で、俺は帝都に引き返して名のある鍛冶屋を訪ねて回った。


「無理だ。これはうちの炉じゃ溶けん」

「それは他の鍛冶師にも聞いた。何か別の方法はないか?」


 だがアビスの魔貴族がよこした魔霊銀は、飛び切りに厄介な代物だった。


「むぅ……いや、炉で熱しても柔らかくならねぇとなると、加工は不可能だ。魅力的な素材だがな……これでは手が出せん」

「そうか。それは残念だな」


「俺もだよ……」


 加工しようにも加工できないと、どこに行っても言われた。

 叩いて伸ばそうにも、あまりに硬すぎて歯が立たないらしい。


 そんなとんでもない金属だ。この素材ならば、ヨルドの魔剣に対抗できるだろう。とはいえ、インゴットのままどつき合うわけにもいかん。

 さてどうしたものか。俺は途方にくれたあまり、屋台でフライドチキンを3つも頬張ることになっていた。美味い。帝都の屋台飯は最高だ。


「クククッ、やはり無理か」


 そこに人間の姿に化けたジラントが路地から現れて、俺の4つ目の食いかけを奪い取った。

 正体は竜だ。ジラントは肉が好きなのだろうな。


「今、失礼なことを考えたな?」

「いや、失礼とは思っていない。それよりわざわざ現れたということは、何かあるのか?」


「うむ……追加を注文してしばし待て。はぐはぐ、んぐっ……おい、追加を注文しろと言ったぞ、早く頼め、いいな?」

「ああ、プィスからお小づかいをもらったからな、そのくらいの余裕はある」


 軍資金に使えと、プィスが金貨をくれた。

 よく確認していないが、だいたい1000クラウンはありそうだ。

 その金で屋台に並んでいたフライドチキンをもう4つ買った。衣がサクサクで、美味いやつだ。


「買ってきた。それで?」

「うむ、当時あのヤシュが美味そうに食べていたからな、ずっと食べてみたいと思っていたのだ」


「いや、そっちの話じゃない……」


 とはいえ俺もまだ食い足りない。

 半分貰って、骨だけになるまで黙々と肉を頬張った。


「いくつか心当たりがある」

「ああ、ナグルファルに行ったらパエリアも食おう」


「そっちではない。が、それはそれで気になる。わかった約束だ、必ず連れて行け」

「ああ、人と食べ歩きするのは嫌いじゃない。それで?」


「うむ……初代皇帝のな、その古巣に……彼の使っていたスコップが残っているかもしれん……」

「ご先祖様もスコップを使っていたのか? それはそれで興味深いが――俺は兄上が、ヨルドに対抗できるようにしておきたい」


「ならば、その初代が使っていたスコップを生み出した、伝説の鍛冶師を頼れば、この魔界の銀も加工できるであろう。おまけにフィンブルには、旧都ア・ジールがある」


 急に旧都と言われても、どうにもわからない話だ。

 その伝説の鍛冶師とやらも、果てしない過去の登場人物だろう。

 ならば今の時代に生きているわけがないではないか。


「その心配はいらん。まだ生きている」

「……となると、またもや遠征だな。それだけの時間をかける価値が、ちゃんとあるんだろうな?」


「ある。この骨をかけてやってもいい」

「いや、新しいやつを買ってやるから鳥の骨は止めておけ、刺さるぞ……」


「丸飲みにすればよい」


 ワンピースを着込んだ華奢な少女が、骨を自分ののどに押し込んで丸飲みにした。

 唐突に曲芸でも見せられたかのような気分だ……。


「そうか。しかし悪いがな、往来ではもう少し人間らしく頼む」


 ともあれ、ジラントが言うならば話は確かだろう。

 そこで俺は代用品として、金物屋で間に合わせのスコップを買った。これは20クラウンの安物だ。


『そなた、カチュアとの約束を忘れるではないぞ。そういうのは尾を引くと言っておく』


 そういえばナグルファルを案内すると約束していた。

 だがあの状況だ、今はやむを得ない。

 この再遠征から戻ってきたら、あらためて穴埋めをしておくべきか……。


「行って、すぐに戻れば問題ない」


 昨日帝都に戻ってきていきなりだが、俺は都の東門を抜けて、聖都フィンブルへと引き返した。

 今回はジラントを含む一人旅だ。そこで俺は自重せずに、飛脚よりも速く街道を走り抜けた。



 ◇

 ◆

 ◇

 ◆

 ◇



 帝都を出て間もなくして、街道を快速で巡航していると違和感を覚えた。

 道行く商人たちが、通りすがる俺を奇異の目で見るのは承知の上だったが、それが驚愕に変わっていたのだ。


「これはもしや……おお、また光っていたか」


 走りに夢中になるあまり、己が発光している事実に気づかなかった。

 妙に身体が軽いというか、足取り楽で走りに夢中になっていたのもある。


 そこで光りながら荷馬車を追い越していた不審者は、街道を外れて小さな茂みへと身を隠し、いつもの光る書を開いた。


――――――――――――――

- 探索 -

 【帝国を500km歩け】500/500km 達成

 ・達成報酬 移動速度LV1(全ての移動速度+50%)獲得済み

『気づかないのが可笑しくて、つい様子見してしまったぞ……。だが喜べ、アシュレイよ、今日からそなたは、何をしても、1.5倍速く進む男だ』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 探索 -

 【帝国を1000km歩け】1/1000km達成

 ・達成報酬 移動速度LV2(さらに全ての移動速度+50%)

『そなたの才能は偏りに偏っているな……。これを手に入れれば2倍だ、皇子自らが伝令をする時代がくるやもしれんな』

――――――――――――――


 1.5倍の逃げ足の次は2倍か。

 ジラントは茶化すが、俺自らが伝令として走り回るというのは、なかなか妙案かもしれん。

 交渉ごとは苦手だ。しかしそれなら早くて確実で、万一機密が漏れる心配もないからな。

 

――――――――――――――

- 目次 -

【Name】アシュレイ

【Lv】41

【Exp】7890

【STR】103

【VIT】281

【DEX】255

【AGI】235

【Skill】スコップLV5 

    シャベルLV1

    帝国の絆LV1

    方位感覚LV1

    移動速度LV1

    穴掘り30アクティブ

『さあ行け。聖都フィンブル、皇帝家の始まりの地へ!』

――――――――――――――


 幸先のいいことだ。俺は書を閉じて懐へと戻すと、1.5倍化した移動力で街道を駆け抜けた。

 それは素晴らしい力だった。1.5倍という数字を、どうやら俺は甘く見ていたようだ。


 これは速い、速すぎる。特に意識して飛ばさなくとも、先を行く騎馬に追いついてしまうほどに速い。

 しかしさすがに、スコップを背負った不審者が馬に追いつくと、ちょっとした騒動になるだろう。


 そこで前方に騎馬を見つけるたびに、面倒でも街道から外れて外回りで追い抜くことした。


『待て!』


 どうした、また盗賊か?


『茶屋がある!』


 よし、寄ろう。

 それと茶屋や宿場町が見つかるたびに、腹を満たしてから進むことにした。


「アシュレイよ、我が輩はジャガバターを4つ食べたい」

「4つか、それはさすがに太るぞ……」


「ククク……心配などいらん、今の我が輩には栄養が必要なのだ。いいから拙者にジャガバターを給仕しろ」

「そうか。では店主、ジャガバターを8つ頼む」


 異様なものを見る目をされた気もするが、一人あたり4つ食いたいのだから仕方あるまい。

 体を動かした分、栄養を補給しなくては倒れてしまう。


 そんなこんなでな、俺たちは行く先々で、腹を満たしては風のように立ち去り、旅をときどきゆっくりの高速巡航で進めていった。

WEBによると、じゃがバターのカロリーは、227kカロリー。

227x4=904kカロリー……

わあ、ヘルシー……。

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[一言] 500キロも走れば900キロカロリー摂取してもとんとんかもしれない
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