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14-1 霧の巨人ベルゲルミル - 放蕩皇子の冴えた使い方 -

「さらにコイツ(・・・)か。シグルーンという、問題行動のともなう超戦士。どこに配置しても最高の手駒となるが、何をしでかすかわからない不安が常に伴うな……」

「わははっ、我の手綱を取ってみせろ、ゲオルグ!」


 いや、アンタが自重する努力をしてくれ……。

 兄上が言うとおり、やたらに強いのは確かだが、シグルーンは直感で動くトラブルメーカーでもある……。


「さらにあえて加えるなら、ドゥリンちゃんの錬金術は日に日に冴え、アトミナ皇女様共々、エリンの発展に大きく寄与してくれていますね。愛らしい……」

「そ、そこでなんでっ、ドゥリンの名前まで出るでしゅかっ!?」

「ふふふ……悪い気はしないわ。こうなったら、私たちで徹底的にアシュレイとゲオルグを補佐するしかないわね」


 奇跡を起こす凄腕錬金術師ドゥリンに、帝国のもう一つのカリスマであるアトミナ姉上。どちらも強力無比の人材だ。


「ご謙遜を。貴女の大発明でエリンは飛躍的に成長しているのですよ。あまりの仕事っぷりに、アシュレイ様はもしや、自ら野を放浪して、帝国を支える才能を発掘して回っているのではと、深読みしてしまうほどです」

「……あらっ、そうだったの、アシュレイ?」


 結果論ではあるが、在野の人材の発掘に尽力したようにも見えるらしい。

 姉上とドゥリンが驚き半分、感心混じりの目で俺を見ていた。


「真に受けるな姉上。俺にそんな計画性はない」

「自分で言うな……」

「別によいではないか! 結果がともなえば、世の中なんだっていいのだ!」


 奇書・邪竜の書がこうなるように、俺を仕向けたのかもしれない。

 ただ書の内容はジラントが決めているようには思えない。


 ならばなんの意図があって、あの奇書は数々の難題を俺に示すのだろうか。


「そして武装商戦団とキャラル・ヘズ提督。元軍用のガレオン2、キャラック4、小回りの利くスクーナー1。キャラル提督は、高級水夫19名と、雇われ水夫200名前後を率いています」

「でも結局みんな雇われだから、今の契約だと戦いには加わらないよ。私たちは物資の運搬とか、交易で、みんなの支援や、エリンの発展に貢献したいかな」


 キャラルらしいやり方で好ましく思った。

 俺たちの目的は勝利ではない。これから影から暗躍して、少しでもマシな結末に導きたいだけだ。


 獣人の援軍500名というのは確かに驚きではあったが、それ以上にキャラルが率いる商戦団こそが究極の援軍だ。

 世が荒れない限り、軍隊に出番はない。


「助かる。だがキャラル、なぜそこまで俺たちに尽くしてくれる? 俺たちに深入りすると、船団どころか命を失うかもしれないぞ」

「ぇ……そ、それは……。その……しょ、商機だと思ったのっ! ヘズ商会は、ゲオルグ様とアシュレイ様を支援して、後で美味しい思いをしたいだけだからっ!」


「そうか、助かる。正直に言えば無謀な計画だが、キャラルと商戦団が味方にいれば、どうにかなるかもしれん」

「おいおいおいおいっ、そこのニブチンがっ! いいだろうっ、拙者が教えてやる! そこのキャラルはなぁ、お前のことが――」

「ちょっ、ちょっとっシグルーンッ、それは言っちゃダメェェッッ!!」


 よくわからんが、キャラルがシグルーンの口を飛びつくように塞いで、食堂という名の会議室から外へと連れ去っていった。

 ニブチン……? 鈍いのは自覚しているが、なぜこのタイミングで言われるのやら、よくわからんな。


「もう、どうしてこんな子に育っちゃったのかしら……」

「ちょっと同情でしゅ……」


 私語はそこまでにしろと、そこでゲオルグ兄上が得意の咳払いをした。


「そして俺の弟のアシュレイだな。彼は優れた将軍というわけでもなく、政治手腕に秀でた領主というわけでもない。だがその武勇と、穴を掘る力による抜け技は、停滞した現状からすれば、暗躍のカードとして最高級だろう」


 兄上に穴を掘る力を直接見せたわけではないのだが、どうやら既に爺やプィス経由で知られていたようだった。


「そう思いますキャン。アシュレイ様のアレは、もはや反則レベルだキャン……」

「う、うちの村なんて、シンザが村の周囲に堀を作って、あっという間に砦にしちゃ……ぁ、ぅ……し、しちゃって下さいました、です!」

「頼むからこれまで通りの喋りで頼む。敬語を使われたり、壁を作られるとかえって傷つく」


 自分も何か発言しなければと思ったのだろうか。

 しかし敬語慣れしていない田舎娘は、しどろもどろと言葉を引っ込めた。


「後は、ラタトスクの都市長とのコネと、巡礼神父ユングウィさんですか」

「ああ。とはいえユングウィ神父は主流派閥の地位にはないからな。そこまでのバックアップは期待できないだろう」

「ふふふっ、アシュレイは行く先々でお友達を作っているのね♪」


 一応あちらとの関係も伝えておいた。

 一地方の都市長と、ただの神父だがジラントを崇拝している。味方になってくれる存在だ。


 いや、ジラントがそう言えとやかましいのでな……。

 必要ない気もしたが、やむなく伝えることになった。


「以上が現状の我々の戦力です。さて、ではこれから、どうするかを考えましょうか」


 長引くと言われているようなものだった。

 部屋に戻ってもう寝たい。その気持ちを抑えて、俺はプィスとゲオルグ主導の会議を見守っていった。



 ◇

 ◆

 ◇

 ◆

 ◇



「さて。では次が本題です」


 あまりに長いのでうとうととしていると、プィスが場を引き締めるためか、わざと音をならして立ち上がった。

 そのせいで眠気が少し冴えて、彼を見上げることになる。


「帝国の闇を晴らす。この漠然とした計画を遂行する上で、いわば鍵となる存在がいます。ええ、アシュレイ様です。では、彼の力を、どう使っていくか。これを決めましょう」

「それは、俺に拒否権や自由はないのか?」


「ありません。いちいち往生際の悪いことを言わないで下さい」


 いつものやつを繰り返すが、この男は本当に俺の家臣なのか……?

 これではあの厳しい家庭教師プィスのままではないか……。


「プィスを右腕にしたお前が悪い。腹をくくれ」

「あのねっ、アシュレイ。アシュレイの力は、凄い力だと私は思うよ! 私が提督って今呼ばれてるのも、全部アシュレイのおかげなんだから!」

「右に同じキャン! 獣人もアシュレイ様の力に救われたキャン!」

「うむっ、拙者たちをスッと爽快にさせてくれる最強の力よ!」

「ドゥリンも助けられたでしゅ! だから少しでもご恩を返すでしゅ!」


 今日は人に持ち上げられたり落とされたりと、気が変になりそうな日だ。

 姉上も兄上も、自慢の弟が賞賛されると笑顔を浮かべる。そう、あの兄上がだ。

 こうなれば酔いも覚めるというものだった。


「はい、ではその気分壮快な力を、これからどう使いましょうか? 皆さん、ご意見はありますか?」


 プィスの落ち着き払った言葉に、シグルーンが立ち上がった。


「うむ! きな臭い行動を取る悪党から、富を奪いまくるというのはどうだっ!?」

「ちょっちょっとシグルーンッ、その話は……ぅぅ、ごめんアシュレイ、私……。シグルーンにあの時の話しちゃった……。あ、でもね、アシュレイが盗んで、私が品物を帝国の外で売り払えば、足も付かないし、それだけで悪いやつらが弱って、私たちが強くなる。これって――」


「最高にスッとして気持ちいいではないか! まさに義賊っ、やるぞアシュレイ!」

「ほぅ、皇子が盗みか……。それは興味深い話だ。そうだな、アシュレイ?」


 ゲオルグ兄上は高潔だ……。

 一番知られたくない相手に、義賊をやっていることが唐突にバレてしまった……。

 これは後で長い説教をしてくる時のしゃべり方だ……。


「アシュレイ様……。そんなことまでしてたでしゅか……」

「そのプラン、あながち悪くありませんね。どんな悪人も、金がなければ動けません。……では、他にありますか?」


 逆にプィスは冷徹に高評価してくれた。

 今は俺の家臣だが、いつか兄上の参謀として、プィスが収まってくれたら安心できる。そんな感情がよぎった。


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