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13-4 キャラル・ヘズの帰還 獣の同盟 - 転換 -

 翌朝、俺はカチュアに揺すり起こされて兄上を部屋に迎えた。

 兄上は俺たちに妙な目を向けていたが、なんのことはない。これはただの湯たんぽだ。


 やがて出立の準備が整うと、俺と兄上は並んで馬にまたがり、後続の姉上たち野次馬が乗車する馬車を守りながら、エリンへの街道を進んだ。

 一時は焼かれることになった領主の館も、しばらく見ないうちに綺麗に修復されていた。


 軍伝令の話によると、既に館では歓迎の準備が整っているという。

 そうだ、歓迎だ。館の玄関口前に、件の獣人の精鋭500名が整列し、俺たちを熱い眼差しで待ちかまえていた。


 見ればそこには、あのとき旅先で拾うことになった元盗賊たちも加わっていた。

 よかった。無事に仕官できたようで何よりだ。


「総員、敬礼!」


 俺たちが馬から降りると、一斉にやかましい声が上がった。

 そこに馬車からドゥリン、カチュア、アトミナ姉上が降りてきて、俺たちの隣に並ぶ。


「ヤシュ……?」


 獣人たちの一団には、よく見ると白狼のヤシュまで加わっていた。


「俺の名はゲオルグ、この国の将軍だ。さて獣人たちよ、これはどういう騒ぎだ。代表がいるなら名乗り出ろ」


 てっきり俺は、大使の補佐をしているヤシュが代表なのかと思っていた。

 だが違った。そこに現れた者は、俺にとって思いもしない人物だった。


「ワーッハッハッハッ、誰かと思えばゲオルグではないかっ! 拙者だ、拙者が一応リーダーというか、帝国への水先案内人よっ!」


 あの黒角のシグルーンだ。俺たちが救出した獣人たちと共に、遙か南方カーハに去ったきり、どこで何をしているかと思えば、女豪傑が獣を率いて帰ってきていた……。

 そして、それより驚いたのは――


「久しぶり……ちょっと、仕事で帰ってきちゃった、あはは……」


 中古のスクーナー一隻と共に、沿海州に旅立ったあの、キャラル・ヘズだ……。

 驚きのあまりに、俺はキャラルにばかり目を奪われることになった。


「アシュレイ、知り合いか?」

「あ、ああ……。だが、なぜアンタたちがここにいる……?」


 そう聞くと、少しうんざりといった感じにキャラルが眉をひそめた。

 対するシグルーンはご機嫌だ。

 500名の獣人たちは、どうしてかこの狂戦士に信奉の目を向けているようだ。


「いや、実はさ、向こうでコレに絡まれちゃってさ……。しょうがないし、うちの船で連れてくることになったんだよね……」

「これとはつれない言いぐさだな! あれだけシンザについて、夜な夜な盛り上がったというのに!」


 早くもグダグダになりかけたところで、ゲオルグが咳払いした。

 さすがは兄上だ。こういう状況では特に頼りになる。


「久しぶりだな、シグルーン。まさかうちの弟に手を出してはいないだろうな……?」

「そうだ、アンタたち知り合いだったのか……?」


「ああ、非公式の試合でやり合ったことがある。決着が付かないまま、制限時間を迎えた」

「ククク……ちっとも本気になってくれなくてな。いつかゲオルグとは、抜き身でやり合いたいものよ」


 色々と、納得だな……。

 同じ帝都を拠点にして、これだけの戦士が無縁というのはあり得ないか。


 しかしそっちはよしとして――こっちは参ったな。

 恐る恐るキャラルの姿を見つめた。わかってはいたが、もうバレていたようだ……。

 名前を伝えて、正式に皇子として名乗りを上げたのだから、仕方ない。


「シグルーン姐さんっ、早くみんなを紹介してやってほしいキャン。焦れまくってウーウーいってるキャン」

「うむ、忘れていた」


「なんで忘れられるキャンッ!?」


 シグルーンにその辺りを望むのは諦めた方がいいぞ、ヤシュ。

 しかし大使補佐のヤシュまでからむとなると、これは……。


「うむ、ということでな、今よりカーハ王からの伝言を伝える。こいつらは、今日から、お前の家臣だ、シンザッ、やったなぁっ!」

「話が飛びすぎだちゃんと説明しろ! はぁっ、これだからこの女は苦手なのだ……」


 俺は兄上に共感の苦笑を向けた。

 兄上もこれに苦労していたか。

 この女豪傑を制御できるやつなど、この帝国にはいないのだからな……。


「あのね、カーハの王様は、今の帝国に大きな不安を感じているんだって」

「む……」


 そこでキャラルが話を代わってくれた。

 わかりやすい切り口だ。兄上も顔を引き締めてキャラルに耳を傾ける。


「どの皇子の味方をすればいいのか、ついこの間までわからなかった。でも……」

「そこに最強から三番目の男ゲオルグと、一番のアシュレイが現れた!! 男気あふれるアシュレイは、なんと奴隷としてさらわれた同胞を、救い出してくれたではないかっ!!」


 兄上が少しイライラと、剣に手をかけるのを見た。

 キャラルが順序立てて説明してくれるというのに、シグルーンにはその気がないようだ。


「つまり、俺の正体を、ベガル大使が向こうに漏らしたということか……」

「ぁ……。そ、そこはごめんなさいヒャン……」


「うむうむ、そこは拙者が許そう! そういうことでなぁっ、コルリハの葉さえあれば、一騎当千となる精鋭500名をカーハ王は拙者に任せ、拙者たちはキャラルの船を頼って、ここまでやってきたというわけだっ!」

「少し話飛ぶけど、できたらここに小さな貿易港を作ってくれない? そしたら、私も……もっとアシュレイ様に協力できると思う……。モラクに睨まれそうだけどね、あはは……」


 キャラルはあの時の借りを返してくれるという。

 貿易港か。簡単ではないが……。


「問題ない。モラクの方はある程度牽制できている」

「ちょ、アシュレイ、今度は何をしたの……?」


「やられたから、やり返しただけだ。モラクも兄上に斬られるよりマシだろう」

「人をだしに使うな」


「フハハハハッッ、やられたらやり返すかっ、それはこの世の真理の一つよ! まあそういうことだ、わかったら受け取れシンザ! いや、皇子アシュレイよっ、拙者たちはお前に期待しているぞっ!」


 するとこれは示し合わせていたのか、獣人たちと元盗賊たちは再び俺たちに向けて敬礼した。

 さらによく見れば、あの日姉上をさらったあの軍人まで一団に加わっていた。


「ははは……驚いた。アシュレイ、お前は、は、はは……っ」


 おかしなことにその敬礼には、一種の団結を感じさせた。

 それがゲオルグ兄上をらしくもなく笑わせて、気のせいでなければ、目元を擦らせることにもなった。

 アトミナ姉上もほぼ同様だ。


「こんなに頼もしい弟になるとは思わなかった……」

「そうね。あの気弱だったアシュレイが、閉じ込められて育った私たちの弟が、こんなにみんなに慕われているなんて、嬉しいわ……」


 つまりだ。俺の姉上と兄上は、いつだって弟バカなのだ……。


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